シトラス・ミント



by 遙か



**********

「…………………………
はい。」

ホントに、蚊の泣くよーな声って、あるんだなあ、と感心した。
けど、俺の耳にはしっかりと聞こえたんだから。
…OKって、コトだよな。
俯いてっけど、襟足から見える細い首は真っ赤で。
両耳も、見事に真っ赤になってて…。
えっとー、そのおー。
何か俺にまで、八戒の緊張が移って落ち着かなねえ。

八戒の旋毛を見ながら。
俺まで顔が赤くなっていった。

**********

結婚して、約1ヶ月。
少しずつ、生活のリズムが出来始めていました。
一人ではない、2人での生活。
以前とは、違うのですから落ち着かないのは仕方がないですよね。
それに、2人共働いているので、その感覚を掴むのにも時間が掛かりました。
出来るだけ、2人だけの時間を取りたいのですが。
僕は幼稚園の先生をしているので、ほぼ定時なのですけど。
悟浄の方がお仕事が商社なので、とても不規則なのです。
…仕方ありません。
寂しいけれど、我慢しないと。
我が儘は、言えません。
…言っては、いけません。当然です。ええ。
それに、今日は2人でお休みなんです。
僕は土・日曜日が毎週お休みだから、分かっていましたが。
悟浄は、ギリギリまで分かりませんでした。
昨日、帰って来た時――と、言っても夜の2時でしたけど。
土曜日のお休みが取れたからって、言われて。
嬉しくて、2人でゆっくりとしたいなと、思いました。
ずっと、何だかんだと忙しくて、ばたばたとしていたものですから。
何処にも出掛けなくていいから、のんびりしたいなと、思ったのです。
だから、朝、起きた時。
悟浄の事は、起こしませんでした。
目に見える程に、疲れていましたから。
静かに、寝かせておいてあげたくて。
掃除機をかけるのは、後に回しました。
洗濯機の音は、寝室まで届かないから大丈夫。
天気が良いから、先に洗濯をしてしまいましょう。

**********

久々に、すっげー寝た。
俺は、ぼおーーーっと、目を開けた。
部屋ん中は、遮光カーテンの隙間から入る光で、少しだけ明るかった。
目をゴシゴシ擦る。
目覚まし時計を見ると、ほぼ12時…昼の。
八戒は…とっくに起きたんだな。
気、遣わせちゃったな…ボリボリ。
ベッドから、ストンと足をおろし。
シャツを引っ掛け、Gパンを履く。
八戒の顔を早く見たくて、俺は急ぎ足で、リビングに向かった。
ん?
コーヒーの香りが広がっているのと。
天気の良い日差しの温かさが、充満しているリビングに。
八戒の姿が、なかった。―――静かだ。
「八戒?」
返事は、なかった。
どこに、行ったんだ?
俺は一人暮らしが結構長かったんだが、その時には。
俺は誰も部屋に入れたコトは、なかった。
入れる気が、なかった。
それなのに、八戒はストンと入ってきて。
しかも結婚して。
八戒が居る風景が俺ん中で、自然なコトになっていた。
だから、八戒が居ないのは、凄く落ち着かない。
居てくれないのが、イヤだ。
俺はソワソワと、動き出した。
ウチの中に居ないってコトは、外だよな。
買い物か?
靴を履き、玄関のドアに手を掛けようとしたトコロで。
ドアの方が開いて、八戒が立っていた。
「あ、悟浄、おはようございます。」
「八戒、どこ行ってたんだよ。」
「Milkが切れていたので、下のコンビニに買いに行って来たんです。
 お腹、空きました? 直ぐに、ご飯にしますね。」
のほほんとした八戒の返事に、俺は肩の力が抜けてしまった。
と、久々の休日の出だしは多少コケたが、八戒の作ったメシ食ってから。
八戒の頼みで近くのスーパーに買い物に行って、荷物持ちして、帰宅。
部屋に帰ると、八戒は買い物した品物の片付け。洗濯物の取り込み。
パタパタと、色んなコトしてて……。
俺は、八戒が淹れてくれたコーヒーをソファに座って。
手持ち無沙汰だった…。おっ、そーだ。
「八戒、俺、フロ洗いしてくんな。」
「悟浄、いいですよ。僕がやりますから。」
「いいから、いいから。」
「でも、折角のお休みなのに。」
「八戒だって休みだろ。いいって、俺がやるよ。」
「…ありがとうございます。」
ああ、やっぱ可愛いな、八戒は。
ちょっと考えて、困って、それから感謝で。
にっこりと笑ってくれた、八戒の顔は。
「じゃ、俺はフロ担当な。」
「はい、お願いします。」
なーんか、新婚さんしてていいよな。こーゆーのって、さ。

**********

お風呂掃除をしてくれるなんて。
悟浄って、結構マメなんですね。
吃驚しましたけど、悟浄のそんな一面を知る事が出来て嬉しいです。
それを僕だけが知ってると思うと、もっと嬉しくなってしまいます。
「八戒ーっ。」
「はーい、何ですか?」
「お湯が張れたから、入ろーぜー。タオル、持って来てー。」
「はーい、分かりました。」
脱衣所の方から、悟浄の声が聞こえてきて。
僕はタオルと悟浄の着替えを用意して、急いで行きました。
「はい、悟浄、持って来ましたよ。」
「お、サンキュー…って、あれ? タオル、一枚?」
「え?」
「八戒の分は?」
「え? えぇ?」
「一緒に入るんだから、八戒のも持ってこなくちゃ。」
「え? え? えぇ?」
「新婚さんはねー、一緒に入るんだぜ。知らなかった?」
……………嘘っ
/////
悟浄の言っている事を理解した時。
僕は瞬間湯沸かし器みたいに、なってしまいました。

**********

ホントーに、何も知らないんだ。
ホントーに、真っ白なまんまでいたんだ。
と、俺は感動してた。
何となくの思い付きで、一緒にフロに入ろうと提案した後の。
八戒のリアクション。
真っ赤になって、アタフタして。
困っちゃって、ジタバタして。
それでも、結局は俺の希望通りに、一緒に入ってくれてる。
身体中、緊張させて縮こまってるけど。
それが、また可愛いのなんのって。
それをさ。我慢なんて出来たら俺じゃないね。
自分の奥さんに、据え膳すっことねーだろ。
手を出していいのは、必然。
けど、驚かさないよーに、脅えせさないよーに、そこんトコは当然。
湯船のはじっこで、俺に向けている背中へと、手を伸ばす。
ビクンと、過剰に跳ね上がる身体をソッと引き寄せる。
「八戒。」
お湯の浮遊感を利用して、俺の上に後ろから子供抱きにして。
八戒の肩へと重さを掛けずに、俺の顎を乗せて。
横顔を盗み見る。
目をギュッと瞑り、頬を真っ赤に染めて、歯を食いしばってる八戒に。
小動物を苛めてるよーな罪悪感も、生まれるが。
俺としては、可愛がるつもりでいるので。
そこんトコは勘弁なと、心ん中で謝っておいた。
八戒の躯を俺の方へと、しっかりと凭れ掛けさせる。
湯の中に入っている細い手首を取って、出すと。
拳に握られていた。
その、指の1本1本をゆっくりと開かせて、指先にキスをする。
「………あっ。」
小さく、漏れた声。
「イヤ?」
目を閉じたままの横顔が、左右に振られる。
俺は愛しさのままに、八戒の躯を抱き締めた。
柔らかい耳朶を口ん中で、嘗めて噛んでを繰り返す。
「…あ……ぅん。」
声がさっきよりも、艶を帯始めていた。
のぼせないよーにと、胸までは湯船から引き上げておいた。
片腕を八戒の腹部に回し、崩れないよーに気を付けないとな。
それから、もう片方の掌で、八戒の躯に愛撫しまくった。
細い肩。なだらかな胸。二の腕の内側。
脇腹から腰の辺りを何回も、往復する。
その俺の手に、八戒の手が動きを止めよーとしたのか、添えられたが。
丸っきりの役立たずで、添えられただけになった。
でも、その指先に力が時たま籠もり、耐えるよーに。
八戒の躯も、小刻みに震える。
カンジてる、証拠だよな。
八戒はヴァージンだったから、まだ快感より羞恥心。
それとセックス自体が未知のモンなんで、脅えの方がまだ強い。
だから、極力優しくして、大事にしてやりたい。
と、思いつつも、俺自身が八戒に夢中になってっから。
暴走しやすいんだよな…気を付けねーと。
苦笑しつつ、八戒の片足を湯船から出して、縁へと掛ける。
力が抜けていて、抵抗はナイ。
浮力を利用して、後ろから八戒の裡に俺を埋め込んでいく。
途端、八戒の顎が反り返り、掠れた悲鳴が上がる。
俺の腕に、爪が立てられる。
狭くて、熱くて、柔らかい八戒の中へと、半分強引に押し進む。
「あぁ………。」
八戒の目から、ポロポロと涙がこぼれ、湯の中へと落ちていく。
まだまだ、躯も心も行為を許容出来ないから、辛いだろうに。
それでも、俺を受け入れてくれる八戒に、愛しさだけが込み上げる。
ギューッと、きつく抱き締めて。
八戒に合わせて、俺も一緒にイッた……………。

**********

冷たいタオルと
氷の詰まった氷嚢と
水分を摂る為の冷たいビール
2人して湯当たりして、ベッドに沈み込む
目と目を合わせて
悪戯の共犯者の様に
くすりと、笑いながら―――――



2002.10.09 UP



☆ コメント ★

やしほ亮子さまに、捧げますv

えーーーっと
相互リンクのお礼のSSなの…です
やしほさんからのリクで
『浄八新婚さん入浴裏小説』
なのですが
どうでしょう?
……ドキドキ
裏になったかなあ

どうか、お受け取り下さいませv
これが、今の私の精一杯でーすvv

やしほさん、これからもどうぞ宜しくね〜♪