【華・一夜 §四§】



by 遙か



熱い。
息が。躯が。芯が。
血が逆流している様な感覚がする。
悟浄の指に依って、裡に塗り込められた媚薬が。
八戒の意志などお構い無しに、血管を通って。
躯中に、その効力を隅々まで浸透させている様な気が。

「は……ぁぁ。」

心臓がドキドキと、響く音を立て。
汗がじわっと、滲み――八戒の躯を滑り落ちていく。
意識が霞み出していくのが、止められなくなりそうで。
八戒の心の中は、恐怖があった。
なのに。
それを見透かしているのか、それとも、違うのか分からないが。
悟浄の八戒の躯をまさぐる愛撫は、緩慢な優しいモノばかりだった。

「……はっ、かい。」
「ん……。」

力が入らない首を悟浄の手が、支える。
優しく、掬い上げる。
耳元に、熱い息と共に。
優しく、名を吹き込まれる。

「…いい、子、だ。」
「……ぁ、ん。」

赤子の様に、悟浄が八戒を抱き締める。
赤らんだ目元。
上気し始めた頬。
薄い唇が、色を付き始める。
表情に、恍惚が浮かぶ。
それを表面に出さずに、悟浄は堪能していた。
八戒の、一つ一つの仕草。
今は、薬に依って無理に引きずり出されているモノだとしても。
それが、八戒が認める事のない人間としての本能だとしても。
現実に、悟浄の腕の中で咲こうとしている華の蕾なのだ。
これを――八戒が、意識して出せる様にさせてやる。
無意識にではなく、コントロールが出来る様に。
それが出来る様に、八戒を仕込むのだ。

「……あっ…ん。」
「ココ、か? ココが、いいんだな。」
「う…ん、……ん。」
「八戒、言ってみろ。自分のイイトコ、言ってみろ。」
「………ぃ、や…ぁ。」
「言う、んだよ。」

床へと、躯が横たえられる。
その上へ、悟浄の躯が重なってくる。
肩からはだけられた紅い衣と晒されている白い肌。
ちりちりとした、感覚が八戒に与えられる。

「あっ。」
「よし、イイ声だ。」
「……………ない。」
「ん、何だ?」

優しく頬を撫でながら、悟浄は八戒の碧の瞳を覗き込んだ。
清廉さを含んだ、意志の強さが全面に押し出されている、瞳。
それが可笑しくて、可笑しくて。
悟浄は、更に八戒と視線を合わせた。
途端、きっと睨んでくる。
唇がわなわなと震えている。

「何だ、言ってみろ。聞いてやる。」
「嬉しく……ない。」
「俺に誉められても、嬉しくない、か。」

こくんと強く、首が動く。
それを悟浄はきつく抱き締めた。
八戒の息が詰まる。
しかし、それを気にせずに更に抱き竦めた。

「く、…苦し…ぃ。」
「嬉しくて、泣くまでにしてやる。」
「い、いやあっ。」

肩が押さえられる。
額に手をあてられ、顔を固定される。
息苦しさも、熱さも。
一瞬、冷えた。
悟浄の紅い、燃える瞳に。



2001.8.14 UP



☆ コメント ☆


SIMOONのトモコさまのトコロへの押し付け、第4弾です。
きゃあっ、ごめんなさい。
また、入ってないわ。
だってだって、嬲るのが楽しいって。
旦那が言うんだもん……。
でもね、お道具は使ってないし。
旦那自身で、頑張ってるし。
だから、貰ってくれる?
このお話は、もう、トモコさんのモンですから・笑。