JEALOUS DOG
「おっつかれさまでした〜っ!」
仕事を終え、まだ厨房で作業を続ける仲間に声を掛けると、
悟浄は職場であるレストランの裏口をくぐった。
ふと人の気配を感じて顔を上げる。
「―げっ…!」
かなり情けない声が漏れてしまうが。
そこにいるのは悟浄が唯一苦手とする女性だからしょうがない。
「待ってたわよ…」
妙なオーラを背負って、その女性――美蘭が待ち伏せていた。
「なっ、何だよ?!」
八戒と同じ小学校に勤める彼女は二人より少し年上で。
クールな印象とは裏腹に、かなり面倒見の良い『姐御』だ。
大の八戒フェチである彼女と悟浄とは、『八戒好き』という点で気が合うが、
お気に召さないようなことをしてしまうと、バリ恐ろしい目に遭わされる。
だから仕事が終わって気を抜いたところでは、決して会いたくない相手な訳だ。
「何よ、こんなときに暢気そうな顔しちゃって!」
全く覚えがないと言うのに、向こうは悟浄を犯罪者のような扱い。
細い腰に手を当て、仁王立ちのまま睨み続けている。
「八戒センセは美人なんだから!
ちゃんと捕まえとかないと、取られちゃうわよ!」
美蘭の凛とした声に、
「―何だって?」
悟浄は彼女の腕を掴み、問い掛けた。
喫茶店で、美蘭から聞きだした情報によると、
八戒の勤める小学校に教生が来ているらしい。
らしいと言うか、実際に悟浄は八戒からもその話を聞いていた。
何でも隣町の人間で、八戒がその指導に当たることになり、
どうやって指導すればいいのかと、色々調べていた光景を見ているのだ。
そこまでは別にどうってことはない。
相手の男は21歳の若造で。
顔はかなりの美形。
この辺りでは滅多にお目に掛かれない金髪で。
身長187センチ。
着痩せするが、かなりの筋肉質。
愛想が良くて、ユーモアセンスもある、非の打ち所が無い青年だと言う。
ここまでも別に構わないだろう。
その青年、名前は青陽と言うらしいが。
露骨なまでに八戒に一目惚れしたようだ。
指導される合間を縫って、八戒に猛烈アタックの日々…。
しかも明日で研修が終わるせいか、アタックも激しくなっていると言う。
それに対し、八戒も満更でも無いようだと。
これは全然構わない…わけがない。
その上…、絵心のある美蘭に描いて貰った青陽の顔というのが、
激ムカツクことに…三蔵に瓜二つ。
三蔵ほど垂れ目では無いってくらい。
そんな男が八戒に言い寄る姿なんて、悟浄は容易く想像出来てしまう。
頭の中では、ムキムキマッチョな三蔵が八戒を口説いて…。
「あ〜っ!ムカツク〜っッ!」
町外れの自宅に戻る林道で、誰にも見られていないのをいいことに、
木の幹を蹴り、「あ痛てッ!」と一人暴れる始末。
それでも…八戒には非が無い。
別に八戒が自分からその男に乗り換えたわけでもない。
満更でも無い…なんて、八戒は愛想がいいだけのこと。
自らのことには鈍感な八戒のことだから、言い寄られていることにさえ気付いているのか…。
「は〜ぁっ」
かつての二枚目ぶりは何処吹く風か、嫉妬心をブツケル先も無く、情けない声を漏らした。
「…帰んべ…」
取り合えず愛しい恋人の顔を見て、心を和ませるべく脚を速めた。
…このときまでは良かったのだ…。
八戒の作った絶品の夕飯を平らげ、コーヒーを飲んでいたときに事件が起きた。
『コンコン!』
と、玄関のドアがノックさせる。
「どなたですか?」
八戒がドアの向こうの相手に呼びかけた。
「青陽です。」
きっぱりと答える声は、三蔵に少し似ていた。
「――!」
コーヒーに噎せる悟浄をよそに、八戒がドアを開く。
「青陽君。こんばんわ。…一体どうされたんですか?」
悟浄に背を向けているから八戒の表情は見えないが、
青陽と呼ばれた男は、本当に三蔵に似ていた。
…ムカツクくらいに。
三蔵の目を少し上げて、茶色っぽい金髪にして。
体格を良くしたら…という姿がそこにいる。
「すみません、夜分に…。どうしても今夜、お話したいことがあって…」
青陽がチラリと悟浄のほうを見た。
八戒もその視線を感じたのか、
「じゃあ、少し歩きながら話しましょうか」
優しい声で問い掛ける。
八戒のことだから、青陽が話しやすい環境を作ろうという考えなのだろう。
…でも二人っきりになりたいんだとしたら?
変な考えが浮かんでしまった。
八戒に愛されているはずなのに、そんなことを考える自分が嫌で。
身動きが取れなくなってしまう。
「悟浄。少しだけ外に出ます」
すみません、とニコヤカに告げられて。
「…あ、ああ」
何も言えず、ただ頷いた…。
八戒が青陽という男と家を空けてから一時間近く経った。
その間、悟浄は身動きひとつ出来ずに、ただ時計を睨んでいて。
「…ただいま戻りました…」
ようやく帰宅した八戒に、
『お帰り』と声を掛けようとした。
だけど…。
八戒は浮かない顔で。
少しだけソワソワしていて。
何よりも…白くてほっそりとした項に、出掛ける前までなかった痣みたいなものが…。
プツン。
久しぶりに自分の血管がキレル音を聞いた。
「―悟浄っ?!」
力任せに八戒のシャツを引き裂いた。
ボタンが数個、虚しく宙を飛ぶ。
「…あの男とナンカあったのか?」
聞いてはイケナイ
それはルール違反だ
頭の中で誰かの声が聴こえるけれど、もう止まらない。
「何か…って?!何も有りませんよ!」
酷い、と訴えるような目を見せる八戒を無理矢理ソファに押し倒す。
「何も無い?…証拠もねぇだろ?」
「―ごじょうっ!」
強引に唇を重ね、咥内を犯す。
潜らせた舌を緩く噛まれても、痛みすらブッ飛んで。
曝された胸の尖りを片方だけ摘んだまま、八戒のズボンを引き下ろす。
萎えたままのソレを掴み、勝ち誇ったように八戒の唇を再び奪おうとする。
パチンッ。
乾いた音が響いて、数秒後に何が起きたのか気付いた。
八戒にぶたれた。
綺麗な平手打ち。
「―てめっ」
睨みつけようとして…目を奪われる。
湖のような深い碧から、涙が零れていた。
「…ごめん」
冷水を頭から被らされたような、そんな気分。
これでは強姦だ。
泣き続ける八戒から身を離すと、申し訳なくて目を逸らした。
「…証拠…がいるんですね…」
八戒の呟きの意味が判らず、顔を上げると。
大きめなソファに身を沈めたままの八戒が、悟浄に向けて大きく脚を開く。
「…はっかい…?」
「見ていて下さい…」
白くて細い指を自らの口に含む。
あの行為を想像させるような動きで唾液を絡ませて。
そして…湿らせたその指を後庭にゆっくりと挿入させた。
「…は、っかい…」
綺麗で淫らなあの部分に指が埋まっていく。
「…ぁ…ッ…。ふぁ…ン…」
もう一本増やして。
泣きながら自らの躰に埋め込んでいく。
「―八戒!もういいから!俺が悪い!」
止めさせようと差し伸べた手を、使用していないほうの手で撥ね退けられた。
「…みて…いて……っ」
震えながら指の付け根まで挿れて。
濡れた音を響かせて。
ビクリと痙攣のような動きを見せる。
「ここに…きて」
指を引き抜いた八戒が、悟浄にソファに腰掛けろと言う。
「八戒…」
操られたように指示に従うと、すぐさま八戒がその上に向かい合って乗り上げた。
ジーンズのファスナーを引き下ろす。
八戒の痴態を目の当たりにしても、罪悪感からか萎えた悟浄自身を取り出して。
強めに何度も擦り上げる。
「はっかいっ」
直接的な刺激と、目の前の潤んだ瞳、挑発的な肢体に勃起する。
それを見てとったのか、八戒は切っ先に自らの窪みを押し当てた。
「―あぁっ!」
ズルッと深く刺さる。
八戒が嫌うこの体位は、体重が加わり、交わりを深くする。
いきなりイイトコロに刺激を受けた内部が、悟浄をきつく締め付けた。
「…はっかいっ!」
呻く悟浄をよそに、八戒は尻を振り続ける。
ポツリ、と。
「あなたの…ものだから…」
囁かれて。
「あ、なたにしか…こんな…ッはずかしい、ことッ…しない…っ」
「―八戒…」
泣きながらも動く八戒が酷く健気で。
「…ごめん…」
細腰を掴むと、激しく叩きつける。
「―あ!…ひゃ…ンっ…あ、ぁ、ぁ…ンッ!!」
詫びるように、八戒を甘く泣かせた。
「おまえは…おれだけのモン…だっ」
「あッ、は、あ、ぁ、…あぁあンっ!」
吐き出して、吐き出されて身震いする八戒の躰を、
悟浄はぎゅっと抱き締めた…。
「ホントにゴメン。」
ベッドで抱き合うように横たわって、悟浄が詫びる。
「…いいんですよ」
僕も悪いんです、と八戒が首を振った。
「でも…」
まだ謝ろうとする悟浄の唇に、華奢な人差し指が触れる。
「彼に気を許した僕が悪いんです。
どうしても知り合いに…三蔵に似てるなぁって思うと警戒心を持てなくて。
こんな…跡を付けて帰ってきたら、そりゃあ悟浄だって怒りますよね」
ごめんなさい、と小さく詫びて。
でもね…悟浄が嫉妬してくれたこと…
少しだけ嬉しかったんです
聞かせられる筈も無い言葉を、八戒はそっと呑み込んだ。
翌日。
「…あら…?」
職員室で美蘭が呟く。
頬に綺麗な紅葉型を貼り付けたまま、
職員に別れの言葉を告げる青陽の姿が見かけられたが…。
…これはヤキモチ焼きの旦那さまは知らないことv
End
☆ 魚住さまのアトガキ ☆
遙かさん、2万ヒットオメデトウ〜v
ってもう随分前のことで申し訳ない(汗)。
リクを戴いてから速攻で作りました。
リク内容は
『美蘭せんせと八ちゃんの学校に来た、研修生。
八ちゃんがその人の研修期間の担当に決まり、
色々と面倒を見ると。
美蘭せんせ、それを悟浄に誇大広告してご注進。
勝手の嫉妬の暴走で、さて、八ちゃんの運命は』
でしたね。長いリクだなぁ、おい(笑)
実は似た話を考えてました。
相手は…美蘭先生のお兄さんだったんですが★
どこまで気が合うのか…と感心(笑)。
研修生に何かクセを付けたくて
『三蔵に激似』にしちゃいました。
マッチョな三蔵…魚住は想像できないんだけどね(爆)。
そしてまたまた激エロ…?
こんなんで良ければ貰って下さい〜v
☆ 遙かのアトガキ ☆
涼さん、あーりーがーとーv
う〜ん、愛してるわv chu!
リテイク覚悟の上のリクだったのに
速攻で贈ってくれて、びっくりと同時に幸せでしたん
美蘭せんせ、好き好き〜♪
マッチョな三蔵…パスバス…ι
私もさ、長いリクだと思ったんだけど
『嫉妬の末の暴走劇』
よりは、いいっしょ・笑
しっかし、また似たような話を考えていたって訳ね、私達
ホント、感心しちゃうわv
モチロン、ここ、屋根裏部屋に飾らせて頂きますわ
そりゃあ、大事に大事にvv
ホントにホントに、どうもありがとうでした!!
