ANYTHING FOR YOU
視線を。
背に感じた。
・・・ような気がして、知らず足を速めた。
自分の家まではあと少し。
そう、その角を曲がれば−−−。
足早に小さな十字路を左に曲がると見えた見慣れた建物に、思わずホッと息を吐いた。
気持ち、歩く速度を落とす。
ポケットの中で握り締めていた鍵を早々と取り出すと、小さな門を潜り、玄関のドアを開けた。
カチンと電気のスイッチを付け、リビングにあるソファへ腰掛けた時。
RRRRR・・・・
壁際に置かれたダッシュボードの上の電話が鳴り始め。
八戒は弾かれたように顔を上げた。
顔を強ばらせ、ゆっくりと電話に近付くと表示された相手の電話番号を覗き込む。
(・・・・・・・・・・・。)
ディスプレイにぼんやりと浮かび上がったのは、「非通知」の文字。
少し躊躇ってから、八戒は受話器を取り上げた。
すると。
『お帰り。今日も仕事、疲れただろう?
そうだよな。またアルバイトがトラブルを起こして、後始末が大変だったしな。
ああ、そのシャツ、なかなか似合ってるけどボタンを開けるのは2つ目までにしておきな。
アンタの白い肌は、恋人の俺以外に見せちゃいけない−−−・・・』
受話器を握る指に力が籠もり、八戒にしては珍しい乱暴な動作でそれを叩き付けるように電話を切った。
とても最後まで聞いてはいられなかった。
いつの頃からか、毎日のように掛かってくる電話。
いくら換えても送り付けられるメールのおかげで、携帯電話の方はとっくに解約してしまった。
ボイスチェンジャー独特のキンキンとした耳障りな声音と、特徴を殺すような平坦な口調。
そして自分を恋人として扱い、一挙手一投足まで観察しているかのような内容。
おまけに、昼夜を問わず掛かってくる電話は、キチンと八戒のしていることを把握していて、
さっきのように、部屋へ着いた途端に「お帰り」と言ってきたり、友達と出掛ければ、ちょっと手が触れただけでも
スグに「そんなオトコに気安く触れさせるな」と“相手の携帯に”メールが入ったり。
ソファにグッタリと沈み込み、八戒は深い溜息を吐いた。
今日は仕事が休みだったので昼近くまでベッドで微睡んでいた八戒は、
玄関のインターフォンが鳴らされる音で漸く目を覚ました。
ピンポンピンポンと何度もしつこく鳴らされるその音に急き立てられるように
ゆっくりとベッドから抜け出して、リビングにあるドアホンからの画像を確認した。
目深に帽子を被った男が、手に何か段ボールのようなモノを抱えボタンを押している。
帽子のマークは大手宅配業者のモノで。
「どちら様ですか?」
念のためインターフォン越しに尋ねてみると、
「宅配でーす」
思った通りの答え。
パジャマのままじゃ出られませんね・・・。
寝起きだった八戒はあまり考えが回らなかった所為か、取り立てて不審にも思わずに
シャツとジーンズに着替えると、「今開けます」と声を掛けながら玄関のドアを開けた・・・。
カチャンと鍵を開けチェーンを外して外開きの扉を開けると、荷物を受け取ろうと手を伸ばした。
その瞬間。
とすんと意外に軽い音を立て、箱は玄関へと落下した。
「え?!」と八戒が驚いたのは、箱が落ちたからだけではなく、差し伸べた腕をがっちりと掴まれ、
そのまま玄関の内側へと押し戻されたからだった。
驚愕に見開かれた翠の瞳の前で。
見覚えのある魅力的な顔が、ニッと笑った。
「あ、貴方は・・・ッ!!」
2度と会うコトはないと思っていた八戒の顔に、“あの時”のコトを思い出し怯え、怒り、屈辱など、
様々な感情が表れては消える。
「悟浄、さん・・・」
戦慄く唇が、掠れた声を紡いだ。
その唇をそっと、優しい仕草でなぞり。
「俺に会えなくて淋しかっただろ?ちょっと焦らしてみようかと思ってサ。」
紅い瞳から、吸い付いたように、瞳が反らせない。
1月ほど前に店を辞めてもらった時には感じなかった、危険な光が、そこにはあって。
「だけど、安心していーぜ。俺、ずっとお前のコト、ちゃんと見ててやってたから。毎日、どんな時でも。」
何?何を言っているんだろう。
何かおかしい・・・。
何処か、目の前にいる男の様子が・・・。
「別に、礼なんて言わなくてもいーから。“恋人”のコトを見守るのは当然だし。」
カチンと。
頭の中でパズルのピースが填ったような気がした。
“恋人”・・・?
もしかして・・・!
「貴方ですか?!もう何ヶ月も前からずっと、悪戯電話を掛けてきてたのは!」
「まぁた、惚けちゃってvホントは俺からだって分かってたんだろ?だからバイトの面接に行った時にも
スグに俺だけ採用したし、仕事中だっていっつも俺のコト見つめてたりしたクセに。八戒は照れ屋だなぁv」
1ヶ月前には見慣れた彼の愛想のイイ笑顔も、耳障りのイイ声も、何処か狂っている。
噛み合わないハナシの途中で、八戒の脳がチリチリと焼け付くような警告を発し始めていた。
目の前にいる人は、普通じゃない。
こんなにも普通の顔で、普通の声で喋っているのに−−−。
ジリ、と後ずさろうとした八戒を、掴んだ手が引き留め・・・どころか、腕の中へと抱き込んだ。
驚くほど強く抱き締められ、息も出来ないくらいで。
「や、め・・・っ、苦し・・・ッ」
「そんなに拗ねるなよ。焦らしたりして、ゴメンな?でも・・・・」
苦しさに喘ぎながらの八戒の抵抗をいとも容易く封じ、優しく囁かれた言葉に、
八戒の体に例えようもないほどの恐怖が走り抜けた。
「もう、コレからはずっと一緒にいる。だから、淋しくないからな。」
ジットリと冷たい汗が背を濡らす。
まさか、彼がストーカーだったなんて考えてもみなかった。
クビを言い渡したその日から、彼との縁もすっぱり切れたと思っていたのに、今になって・・・!
「ヒッ?!」
全身を強ばらせる八戒の背を悟浄の手が撫で上げると、八戒の喉から怯えを含んだ声が上がった。
「久しぶりに会えたからって、ンなにキンチョーしなくてもイイだぜ?ホントに可愛いな、八戒・・・」
ゾッとするほど優しい声音に、八戒の体の震えが大きくなった。
相手が普通じゃないだけに、何をされるのかと思うと怖くて堪らない。
抵抗の気配をなくした八戒からシャツを取り去った悟浄は、慈しむように滑らかな素肌に指を滑らせた。
「ンッ」
途端にぴくんと跳ねた八戒の反応に気を良くしたのか、
時折首筋や鎖骨に赤い跡を散らしながら次第に愛撫の手を深めていき。
「ァッ?!」
身に着けたばかりのズボンのボタンを呆気なく外され、細い脚に引っ掛かるコトもなくソレは足首までストンと落ちた。
間髪入れず下着の中に入り込んだ手に自身を握られ、八戒はビクリと体を竦ませた。
悟浄の巧みな指の所為で、八戒のモノはスグに勃ち上がり、蜜を零し始め。
「俺に会えなかったこの1ヶ月、よく我慢できたな。自分で出したりもしなかったし、八戒はホントにイイコだな。」
青ざめていた八戒の頬に、かぁっと血の気が差した。
悟浄に強姦されたアト、他人とのセックスはおろか自慰さえしていなかったことを、どうして知っているのだろう。
八戒の動揺を見透かしたように、
「ちゃーんと、見て、聞いて。八戒のコトなら何でも分かってるから。
八戒が俺のために我慢してたんだってコトもさ。ご褒美はちゃんとやるからv」
言われて思い至ったのは。
−−−もしかして、盗聴?!
何処に?この部屋に?それとも僕の持ち物に?!
考えれば考えるほど、知れば知るほどこの悟浄という男が恐ろしくなり、抵抗しようという意志さえ消えていく。
逆らえば、何をされるか分からないと思うと、指先さえもう思うように動かせなかった。
「長く待たせちまったから、ゆっくり思い出させてやるよ。俺がどんな風にお前を抱いたかとか。俺の味とか。
俺に抱かれて八戒がどんなに悦んだかとか。ゆっくり・・・。これから時間はいくらでもあるからな。」
ニコニコと笑った顔には邪気の欠片もないのに、紅い瞳の中にだけは狂気が揺れていた。
「ンンンッ!」
あの日、大きな悟浄のモノを受け入れさせられた小さな入り口にあの日と同じように指が進入してくる。
ひくりと喉を引き攣らせ刺激に耐える八戒の固く閉じた瞳から、また涙が零れ頬を濡らした。
「ン、ふぅっ」
ムリヤリ重ねられた唇を割って、生暖かい舌がぬるりと入り込み、口内を舐る。
更に手首を強い力で引かれ、その指が何かに触れた。
手の中で熱く脈打つソレは。
「ゃ・・・っ」
咄嗟に首を振り離した唇が漸く拒絶の言葉を吐いた。
振り払おうとした手を許さず、それどころか手を重ねて八戒の指でソレを扱き立てながら、
筋張った指が抉るように根本まで押し込まれ内部を擦り上げると、掠れた声と共に悟浄の腕の中で八戒の躰が大きく跳ねる。
「ひぅっ、ィ、ヤ・・・」
呼応するように八戒の手の中の悟浄のモノも逸るようにビクビクと微動して。
「コイツも久しぶりだろ?今挿れてやるよ。八戒の中も早く早くって言ってるしなv」
指を引き抜き廊下の壁に八戒の背を押し付けると。
片脚を抱え上げ、八戒の手ごと握った自分のモノをすっかり柔らかく解された秘所へと宛い。
一気に突き上げた。
「ゃ、いやぁぁぁあ!!」
「八戒、今俺達、繋がってるんだな。」
廊下に、八戒の悲鳴が空虚に響いた。
そんな八戒の様子もまるで目に入らないように、その顔に幸せそうな笑みを浮かべ、悟浄はひたすら激しく抽挿を繰り返し。
やがて。
「今俺達が一つになってるみたいに、コレからはずっと一緒だ・・・」
そう身元で囁かれ。
悟浄が最奥に精を叩き付けた瞬間、八戒もまた自身を激しく扱かれ絶頂に達した。
疲労と痛みと緊張の糸が切れたのとでグッタリとして動けない八戒を抱え上げ。
悟浄はまるで以前から良く知った家の中のように、迷わず目的の場所へとやって来た。
ドアをガチャリと開け、床の上に八戒の躰を下ろすと。
ポケットの中を探り、まず、一つのモノを取り出した。
チャラ、と金属音を聞いて八戒が伏せていた顔を上げる。
目の前にあったのは、冷たく光る手錠だった。
「な、何を・・・・」
縺れた舌を動かし、どうにか震える声を発した八戒の手に、無造作に手錠が填められる。
連れてこられたバスルームの床よりも冷たい金属の感触に、全身が総毛立った。
「や、外して下さい・・・ッ」
自分を笑みを浮かべたまま見下ろす男に必死で哀願したが、
そんな悲痛な声などまったく耳に入っていないような男の態度に胸を絶望が覆い尽くしていく。
「アッ?!」
手錠の填った手を頭の上に差し上げられ、シャワーのフックへと鎖の部分を引っ掛けられると
固定されたように、まったく身動きがとれなくなった。
どうにか外そうと八戒は藻掻いたが、ガチャガチャと音を立てただけで拘束は外れる気配など見せず。
ソチラに気を取られていた八戒が屈み込んできた悟浄に気付いた時には、悟浄の手は白い内股へと掛けられていた。
「ホラ、コレが“ご褒美”だv」
「−−−−−−−ッ?!!」
いきなりシリコンで出来た男性器を模した太いオモチャを突き入れられ、八戒の躰が声もなく痙攣する。
更にカチリ、とスイッチが入れられ根本まで捻じ込まれたソレがグネグネと内部を掻き回し始めると、
脳内に焼けるような感覚が走り、見開かれた瞳から涙がポロポロと溢れ零れ落ちた。
「ァ、あ、あ、あああ−−−ッ!!」
あられもない嬌声が、八戒の口から迸り。
悟浄の口元に浮かんだ笑みが苦笑に変わり。
「やっぱ風呂は声が響くな。」
そう言って、また何かをポケットから取り出すと。
「折角会えたのに残念だけどさ。俺はまだ仕事が残ってンだよ。イイコで待ってくれよな。スグに帰って来る。
心配しなくても、俺達はコレからずっと一緒だ。」
「ふ、ぐぅ?!」
優しく涙で濡れた八戒の頬を撫でながら、八戒の口にゴルフボール大の穴の空いたプラスチックのボールを咥えさせ、
付けられた革のベルトを頭の後ろで止めると。
八戒の口からはもう、くぐもった呻き声しか聞こえなくなった。
「そんな悲しそうな顔するなよ。俺だってお前を置いて行きたくなんかねーんだ。スグに帰って来るって言っただろ?
ホント、八戒は寂しがり屋だなぁ。」
八戒の涙に濡れた瞳を見ながら言った悟浄の言葉は、八戒の心情とは異なっていたが悟浄には関係なかった。
「コレもみんな、お前のためなんだぜ?愛してるぜ、八戒。コレからはこの家で二人っきり、ずっと幸せに暮らそうなv」
お前のために何でもしてやるから。
二人っきりで。
ずっと。
シアワセに。
全ては、お前のため・・・。
☆ いづるさまのコメント ★
遙かさんのリクで『ストーカー悟浄、宅配を装って八戒宅に侵入、監禁』でした☆
こんな悟浄、初めて書きました。
今回、今までで一番偽物くさい悟浄です・・・。
もの凄くイッちゃってますネ・・・。
もしかして、一歩間違えれば【ANGEL】辺りの悟浄もこうなってたかもしれません(苦笑)
あっちは八戒も悟浄ラブラブだからそうならないで済みましたけど、コッチは・・・。
どーでもイイですが、こーゆーハナシを書く前にラブ甘ごじょはちなんか読んではイケマセンな。
HARUコミで買った某サークルさんのめっちゃスィートな本を読んでから書き始めたら
なんかもう全然進まなくなって困りました。
あはは〜・・・。
遙かさん、遅くなりましたが、こんなんでもイイですか?(ビクビク)
一応遙かさんのトコへの差し上げモノなので、エロは軽めにしてみました。
むっちゃダークで救われないですが、こんなのでもよろしければお納め下さいマセ〜☆
★ 遙かのコメント ☆
【終わりなき夜に生まれつく】のいづるさまより頂きました
相互リンクの記念にと、私からのリクを書いて下さいましたv
きゃあーっ、嬉し過ぎですわ、いづるさんv
私のとんでもないリクを快く引き受けて下さった上に
こんなこんな、素敵なSSを〜っ
は、少しは人間らしくしないと、見捨てられてしまうわ…ι
本当に、本当にありがとうございましたvv
納品書に検品の印を押しましたので、返品など御座いませんv
間違って届けられたとしても、誰が返すものか〜・笑
ではでは、これからも、どうぞ宜しくしてやって下さいませ〜♪
