Sweet Cheater
★★例の、<3年前の同棲時代>が舞台です。念の為…★★
悟浄はとても もてる。
背が高くて、スラリと長い手足とのバランスも良くて、精悍な印象の顔の造りも、
すべてが格好良くて。話し上手で女性の扱いも慣れていて。これまでもたくさんの
方とおつき合いしていたようで。引く手あまたで何一つ不自由していなかった筈なの
に、どうして僕なんかを選んだのか、未だに良くわからない。
あの出会いだって…別に僕のことなんか、放っておいてくれて構わなかったのに……
僕と暮すようになってからは、他の女性との関係は絶っているらしいんですが。
本当でしょうか?
「俺には八戒だけだ!」
なんていつも言ってるけど、どうも信用できない時がある。夜遅く、酒と煙草と強
烈な香水の匂いプンプンで帰宅した時など。
「あ〜?酒場のオンナ達に付き纏われただけだって」
半分泥酔状態では何を言っても聞いてくれないでしょうから、次の日の昼過ぎ、
酔いが覚めた悟浄を問いただそうとしても、いつも適当にはぐらかされる。
「スラックスの、前の部分からも、香水の匂いがするのに?」
洗濯する前に仕分けしている段階で気が付いた事。時には口紅が付いている時も
ある。これ、もの凄く不自然ですよね?
「ああ?あ…あれだ。オンナが自分の下半身、押し付けてくんのよ。もちろん、服着た
まんまで。そ〜いうトコロにも香水つけてる女が居んだよ。男の気を引くためにさ 」
全然悪怯れることなく、悟浄はまだ眠そうに大アクビしていた。目の前で怒って
いる僕の目、見てもくれない。
「大変なんだぞ。お誘い断り続けるの。ちょっとでいいからぁ〜ってオンナ共は煩
いったらありゃしねー。ま、こんなイイ男、声掛けたくなる気持、わかるけどさ。
八戒もいちいち気にすんなって。モテル男の宿命と見て、諦めてよ」
悟浄は見るでもなしに新聞を眺めている。その態度に、その言い方に、僕の中で何
かが切れた感じがした。
「……わかりました」
静かに告げて悟浄に背中を向ける。
「僕にも考えがあります」
「あ?」
「僕だって…その気になれば………」
小さな呟きは悟浄の耳に入ったかわからない。僕はその時は、それ以上話すこと
を止めた。
日が暮れると、いつものように悟浄は出掛けていく。生活費を稼ぐ為、という大
きな目的があるけど、本当にそれだけなのか、僕の胸の中に芽生えてしまった疑惑
はどんどん大きくなっていくばかりで。
なんとなく一人で家に居たくなくて、僕はフラフラと街の真ん中、人々の雑踏の
中へ足を向けていました。特に目的もなく、ただなんとなく。
悟浄は僕に隠れて浮気をしているのかもしれない、という不安はいつも胸の中に
ある。以前勤めていた店を辞めさせ、僕を専業主婦に仕立て上げたのも、自分は外で
羽を伸ばしたいだけだったからなのかもしれない。僕一人に悟浄が満足するとは、到
底思えない。
あれこれ考えているうちに、僕の足はいつの間には普段は絶対行かない所へと向って
いた。
表通りから1本道を隔てた裏通り。日が暮れるとネオンでケバケバしく彩られる、
いかにも怪しげな『未成年者立ち入りお断り』の通り。悟浄が夜な夜な遊び歩いて
いるだろう場所。中には真っ昼間から営業している店もあるけど、夕暮れ過ぎのこ
れからの時間 は多くの人々が行き交う。僕も以前は一番表に近い部分にある、割と
健全なバーにバーテンダーとして勤めていたことがある。だけど、その店のある辺り
より奥には一人では行ったことがない。
本能的にこの場所が危険だという雰囲気は感じていた。だけど僕の足は止まらな
かった。僕は何かに導かれるように、フラフラと禁断の地へと足を踏み入れてしまっ
た。
閉ざされた空間は他からの侵入者に対して敏感に反応する。店の前で客引きをして
いる男性従業員、通りすがりの男性にしつこく絡んでいる風俗店の女性達の目が一斉
に僕の方へと向けられた。
思わず竦んでしまった足に喝を入れて、ゆっくりと前へ進める。別に何も怖いものな
んか無い。僕だって一人の成人男子ですもの。別にココに来ちゃいけない理由なんかない
ですよね。
何人かの男女が僕の方へ向ってきた。口々に何か言ってるようだけど、何を言っている
のかわからない。街全体が煩すぎて、何も聞こえない。
もし何かがあった時、僕は自分の身ぐらい自分で護れる自信がある。だけど好戦的では
ない、表面上笑顔の複数の人々とはどう対応していいか見当が付かなかった。僕は軽いパ
ニックに陥っていたらしい。後ろから肩を叩かれるまで気付かなかったぐらい。
「ちょっとアンタ、何してんの?」
肩を叩かれたと同時の問いに僕は心臓が止まるかと思った。ゆっくりと振り返る
と、見たことのある顔の男が立っていた。
「アンタ…悟浄の奥さんだろ?なんでこんな所に?」
「あ……」
何度か合ったことがある男がそこに居た。悟浄と長い付き合いだという親しい友人
の一人。僕が勤めていた店にも客として何度か来たことがある人。名前は…思い出せ
ない。
「ここ、アンタみたいな人が来るような所じゃないぜ」
集まって来ようとする風俗店の従業員達から僕のことを庇ってくれたらしい。僕
を軽く引き寄せて、片手で周囲の人々を追い払ってくれた。
「あ……あの…」
取り敢えず礼を言った方がいいのかもしれません。あのままだったら、パニくっ
ていた僕はわけもわからず周囲の人々を吹き飛ばしてしまっていたかもしれない。
そうしたら流石にもうこの街には居られない。
「一人?悟浄は?もしかして、喧嘩でもした?」
人懐っこい笑顔を見せて、その人は僕のことを見つめていた。僕より少し背が高
く、かなりガッシリとした体格の、見た目結構良い分類の男性。この男は、一目見
るなり僕の事を見抜いてしまったらしい。
「じゃなきや、こんな所に来ないんじゃない?ここ、『寂しい』男女しか来ない所
だし」
「あ……」
男は僕の肩を抱いてニヤリと笑った。僕はその手を振り払えなかった。他人に触
れられるのは苦手な筈なのに。悟浄の友人だから、少し警戒心が薄らいでいたせい
かもしれないけど、それ以上にその夜は人寂しかった…から。きっと、そのせい。
「悟浄ならこの辺には居ないぜ。アイツは今頃、この2本向こうの通りの賭博場に
いる筈だ。この辺りは風俗店ばっかだから、悟浄は最近はちっとも寄り付かねーよ」
聞きもしない事を喋ってくれる悟浄の気さくな友人。不思議に、この人ともっと
いろいろ話してみたい気になった。
「せっかくだから、どこか連れていってくれますか?」
僕の方からお願いしてみる。案の定、彼はとても驚いた顔をした。
「え?いいの?だけど、アンタは…」
目をまん丸にして、その人は僕の肩を抱いていた手を離した。その跡がほんのりと
温かい。
「いいんです。たまには悟浄以外の人とお酒呑んででみたいし」
そう、ただ呑むだけなら、何も悟浄だけじゃなくてもいい筈。僕だって呑み友達
の一人や二人欲しいです。
「…見た目によらず大胆なんだな。ま、こっちとしてはこの上もない光栄だけど」
若干赤い顔の彼は僕のすぐ隣に立って道案内してくれた。彼が良く行くという酒場へと。
「いらっしゃい!あら、珍しい人連れてるわね」
酒場のママらしい人の声が聞こえた。他にも数人から声をかけられ、悟浄の友人
はその度に笑顔で答えていた。僕はただ黙って彼の後に従った。初めてくる店はど
こを見ていいのかわからない。やっぱり多少の不安は隠せないけど、僕は平静を装
おうのは得意だし。促されるままにボックス席の一つに腰を降ろした。飛んで来た
ボーイに、場慣れしているらしい男は何か適当に注文して、すぐに僕達の目の前に
は2つのグラスとウィスキーのボトル、氷の入った金属製の入れ物、簡単なおツマ
ミ・セットなどが運ばれてきた。
「じゃ、まずは乾杯といこうぜ」
「ええ」
2つグラスが軽い音を立ててぶつかる。僕はこの街へ来て初めて悟浄以外の人と
酒杯を交わした。
それから酒の肴にとりとめもない事を話した。僕は酒には物凄く強いので、いくら
呑んでも普段と変わらない。対する悟浄の友人は酒が入るとかなり饒舌になる人らし
い。僕が知らない悟浄のことをいろいろと教えてくれた。
「悟浄の奴、あんたのことを話す時が…今は一番幸せそうだよ」
アルコールで赤く染まった顔で、彼は僕に教えてくれた。僕が思ってもいなかっ
たことを。
「すっげぇ大事にされてんだろ?もう、目の中に入れても痛く無いっつーか、誰に
も触れさせたくねーってゆーか」
「……え?」
「本当は誰の目にも見せたくないらしいぜ。だから仕事も辞めさせた、って言って
たぜ」
「……………」
確かに一度悟浄の口から聞いたような気がする。だけどその時は大して気にも止
めなかった。だって悟浄は夜な夜な遊び歩いているし。最近は…週に2日しか抱い
てくれないんです…。
「大事にし過ぎて、逆に壊しちゃいそーで怖いんだとよ。笑っちまうぜ。あの悟浄
がよ…」
なんとなく、顔が熱い。そんなことまで悟浄が話しているのかと思うと、とても
恥ずかしくなった。でも……彼の今の言葉、ちょっと信じられない。
「だって…悟浄はもてるんでしょ。僕と暮してても、関係なく…」
到底僕だけのものになるとは思っていなかったし。最初からそれは諦めていたこ
と。なのに目の前にいる男は『違う』と首を振っている。
「何言ってんの?悟浄はアンタ一筋だって言ってるぜ」
「ウソ……」
帰宅した悟浄からは毎日違う香水の匂いがするのに!
「本当だよ。マジでアイツ、誰とも関係持ってないよ」
「…………」
「信じられないなら、直接聞いてみる?奴を良く取り巻いている女達に」
そして僕は彼に腕を引かれるまま、次の店へと連れて行かれてしまった。先程の
バーよりも怪しい雰囲気の店に。
「楊さん!!それ誰?!」
夜の闇と、ネオンと、店内の薄暗い照明に目が慣れる間もなく、あっと言う間に
僕たちは派手な服と化粧の女達に囲まれてしまった。キツイ 匂いに胸が詰まりそうに
なった。本当にこんな所に悟浄は来ているんでしょうか?
「ずいぶん綺麗な男ね。まさか楊さんまで主旨変えしたの?」
そして僕の隣にいるこの男、『楊』という名前らしいことがようやく分かった 。
「バ〜カ。んなんじゃねーよ。この人は悟浄の奥さんだ!」
大きな声で告げた悟浄の友人・楊さんに、群がってきた女達が一瞬固まったのが
分かった。もしかして…店中の人達が聞いていた?
「何もそんなに大きな声で…」
恥ずかしいじゃないですか!という抗議は次にドッと湧いた女達の声に掻き消さ
れてしまった。顔を見合わせた女達が次々と何かを言っていたけど、僕の耳はすぐ
には対応出来なかった。
「でよ、この八戒さんはオマエ等を疑ってるらしいぜ。悟浄にあんまりしつこく絡
むから」
僕の肩を軽く抱いて、楊さん…は助け船を出してくれた。ヒソヒソと話し始めた彼
女達は顔を見合わせて笑っていた。
「悟浄は全然ダメよ。私達のこと、見向きもしない」
「以前なら簡単に相手にしてくれたのに」
女達の声がようやく聞こえてきた。異口同音に、彼女達は溜息を付いていた。僕の
ことを値踏みするような目が、とても嫌だ…
「でもあんまり癪だから、ついつい絡んじゃうだけよ。彼は何もしてないよ」
僕の前に一歩歩み出た彼女は、昨日悟浄が着ていた服に付いていた香水と同じ匂
いがした。
「信じて。今の悟浄の相手はあなた一人よ。他の誰とも寝てないし、手さえ握って
くれない」
じっと僕を見つめる目は寂しそうだった。彼女は以前悟浄と付き合っていた人らし
い。それも、結構深い関係の。そんなことが一瞬でわかってしまった。
「だって、悟浄は……」
こんな美女達に囲まれて、何もしないなんて思えない。だけど、彼女の目は嘘を
ついているようには見えない。
「だって……だって……」
僕が抱いていた疑惑は全部僕の思い過ごしだったのか?本当に?本当に悟浄は……
「あ〜あ。泣いちゃった」
「楊さんのせいね」
「なっ!元を正せばオマエ達のせいだろ!」
そんな言い合いが遠くに聞こえた。僕は両手で顔を覆った。泣くつもりなんてこ
れっぽっちもなかったのに、溢れてきた涙を押さえることが出来ない。悟浄のこと
を信じられない自分を責める気持と、改めて知ってしまった自分の厭な部分とが混ざっ
て、弾けてしまった感情を抑えることが出来ない。
「分かるぜ。悟浄が人目に晒したくねーって気持。こんな危なっかしい色気たっぷ
りの美人、マジでヤバすぎるもん」
楊さんの声が頭上から聞こえた。その言葉が意味する事は僕にはわからなかった。
「もう帰った方がいいな。家まで送るよ」
悟浄の友人は僕の肩をしっかりと抱いてくれた。この人の優しさと悟浄の優しさ
が重なる。僕は彼に促されるまま、すっかり夜の闇に覆われていた街の中を歩いて
行った。
悟浄と僕が住んでいる家は街の真ん中からかなり外れているから、周囲はかなり
暗い。
「もう…ここでいいです」
「いや、心配だから。家まで送ってやる」
そんな遣り取りを何回も交わしているうちにとうとう家の目の前まで来てしまった。
明かり、付けっぱなしにしてましたっけ?悟浄はまだ帰ってくる時間じゃない筈…
「あ…ありがとうございました」
「いいや。礼を言いたいのはこっちの方だよ。楽しかったぜ。またいつでも誘って
よ」
そう言って悟浄の友人・楊さんが後ろを向いて歩き出したのと、家の扉が開いた
のは同時だった。
「八戒!!」
悟浄はもの凄い勢いで僕の方に遣って来た。
「あ……き、今日は早いんですね」
僕は咄嗟に悟浄の視界から、僕を送ってくれた人を隠そうとした。
「誰と一緒だったんだよ!」
「…べ、別に。たまたま酒場で隣の席で呑んでいた人です」
何故かわからないけど、悟浄に知られるのはマズイ気がして、咄嗟に僕は嘘をつ
いてしまった。それが逆効果になってしまうとは、その時は思いもせずに。
「あの野郎!明日見つけたらとっちめてやる!!!」
走れば悟浄の足なら十分間に合ったのに、悟浄は僕を送ってくれた人を追い掛け
ようとはしなかった。代わりに痛い程に僕の腕を握って、僕の目をじっと見ていた。
「まずは家に入れ!」
悟浄は今までに見たこともない怖い目をしていた。
「何もしてないです。ただお酒を呑んだだけで…」
「嘘つけ!!酒呑んだだけで、なんで隠そうとすんだよ!」
「あ………」
「何か疾しい事があるからだろ?」
「ち、違います」
本当なのに。本当にお酒呑んでお話ししただけなのに。悟浄はすっかり僕のこと
を疑っている。
「悟浄。あ、あの…僕……」
浮気しているんじゃないかと疑って悪かったと、まずは謝りたかったのに、今の
悟浄は僕の言葉など聞く気は無いらしい。僕の腕を掴んだまま離そうとしない手が
とても痛い。そのまま悟浄は有無を言わせずに僕を寝室へと引っ張って行こうとす
る。
「体に聞いてみりゃ、一発でわかるだろ」
「え?」
「いいから、来い!」
酷く乱暴に僕はベッドの上に突き飛ばされた。そして悟浄は無理矢理僕の服を脱
がそうとする。
「や、止めて下さい!!僕、何もしてません!」
「うるせー。ごちゃごちゃ言うならその口にブッといバイブ銜えさせるぜ!!」
悟浄の目はマジだった。今言ったことも実行しかねない勢いで、脱がすというよ
り、引き裂かれた服が辛うじて両手首に引っ掛かってるだけの僕の上半身。
見ればわかるのに!何も痕跡なんか無いのに!!
「あの野郎が何もしない訳ねーだろ。アイツ、俺と同じぐらいに手が早いって有名
なんだぜ」
後ろ姿で悟浄は分かってしまったらしい。知らなかった。楊さんがそんな人だっ
たなんて……じゃあ最初から僕の体目当てだったのか?ショックだけど、それ以上
に悟浄の行動の方がショックで……
「ふ〜ん。跡が残るようなヤリ方はしなかったんだな」
じっくりと観察する悟浄の目は相変わらず冷ややかで、僕の背中を嫌な汗が流れ
ていった。
「だ……だから、何も………」
疾しい事なんて少しもない。なのに僕は全裸になりつつある体を反射的に隠そう
としてしまった。悟浄のこんな目に耐えられなくて。
「や〜〜っぱり何か隠してやがるな」
「いやっ!」
「逃げるなっ」
力では到底悟浄には適わない。下半身に付けている服も残らず剥ぎ取られた。俯
せに押えつけられた僕は必死の抵抗を試みたが、悟浄は許してくれなかった。
「やっぱりな。ココ、こんなにヒクついてんじゃん」
「ちがっ…」
僕の腰を高く持ち上げ、その奥まった場所を悟浄はジッと見ているらしい。直接見
なくてもわかる、悟浄の視線が痛い。
「1発ヤッて、綺麗にシャワーで流して来ました、って?」
「違います!」
「楽に指3本入るじゃねーかよ」
「あ…いっ…いたっ……」
それは悟浄に十分開発されたから。という僕の言葉、最初から聞くつもりないら
しい。楽どころか、無理矢理突っ込まれた指は全然潤おされてなく、激しい激痛が頭
まで掛け昇った。
「痛かねーだろ。さんざん可愛がって貰ったんだろ?」
「やっ……嫌っ、やめてっ!」
「そ〜やっておねだりしたのか?自分からケツ振って、やらしー奴」
違うのに。本当に痛くて、それから逃れたいだけなのに。見ればわかるでしょ。
わかってて悟浄、僕のことを虐めてる?
「奴のアレはど〜だったよ?俺のより具合良かった?」
乱暴に指を引き抜かれ、その衝撃に悲鳴を上げる間もなく、悟浄は無理矢理僕の中
に入ってきた。あまりの激痛に声も出ない。解されていない場所がピシッと切れた感じ
がした。僕はシーツに噛み付いて必死で堪えた。
「何とか言えよ。奴にも感じてアンアン喘ぎまくったか?」
悟浄の手が僕の腰をグイッと引っ張った。その衝撃で更に深い処まで侵入され、
僕は目の前が真っ赤になった。
「ほら、いつもみたいに啼いてみろよ」
「ひっ……うっ…」
「もっと、もっとぉ、って、おねだりしねーのか?」
冷たい悟浄の声が耳元で囁かれた。僕は痛み以外何も感じられない。構わず突き
まくっている悟浄の凶器に、僕は殺されてしまうのかもしれない。
「いやぁっ!も…やめっ……ぼく……なにも……」
必死の訴えにも、悟浄は冷ややかな表情を浮かべるだけ。一方的な行為は泣き叫ぶ
僕を無視して続けられ、僕は意識を手放した。
「さすがに、ちょ〜〜っとやり過ぎたかな…」
気が付いた時、僕の体の上からそんな声が聞こえた。僕は俯せの状態のまま、身動
きひとつできなかった。悟浄は絞った濡れタオルで僕の体を拭いてくれてるらしい。
柔らかなタオルの感触は気持がいい。
「八戒…。俺、許せなくてさ。おまえが俺以外の男と一緒に居るところ、見たって
奴がいて、慌てて探したんだぜ。なのに見つからなくて…行き違いで逃してさ。も
う家に帰ってるかと思って、急いで帰ってきたら真っ暗だしよ……」
悟浄の独白が続けられていた。僕は目を閉じて、まだ気を失ったままのフリをして、
静かに聞くことにした。こんな時じゃなきゃ、悟浄の『独り言』なんて聞けないで
しょうから。
「おまえが浮気なんか出来るわけねーよな。だけど、もしかしたら!って気が気
じゃなかったんだぜ。八戒ってばすっげ美人だし。場のムードに流されやすいし。
全身性感帯だし。啼き声メチャメチャ可愛いし。イジメ介ありすぎるし……」
勝手な言分にちょっとムッとした。だけど悟浄は本気で僕のことを心配してくれ
ていたらしいということは分かった。元々は僕が悟浄を疑ったのが発端だけど、でも
なんで僕は強姦されなきゃならなかったんでしょう?これはかなり理不尽だと思います。
僕の体を拭いているタオルは下半身も拭こうとしていた。あ……そこ、そんなに…
「この可愛いケツ、俺以外に見せてたまるもんか!勿論触らせもしねーぜ」
や、悟浄。僕のお尻、撫で回さないで。あ……何か冷たい物、塗ってる?
「やっぱちゃんと慣らさないと切れちゃうんだな。痛々しーってゆーか、生々し
いってゆーか、艶かしいってゆーか。なんか…すげ……」
何勝手なこと言ってんですか!って言い返したかったけど、僕はまだ気を失って
いるんだから動いちゃいけない。でも…もう駄目。声、出ちゃう。傷口に薬を塗って
くれてるらしいけど、そんな風に指動かされたら…
「八戒。いつまでも寝たフリすんなよ」
「………」
「ケツ、ピクピクさせてんじゃん。最初から起きてたろ?わかってたぜ」
意地悪な悟浄の声と指の動きに観念して、僕はようやく瞼を上げた。
「あっ…やだっ……」
グチュグチュと厭らしい音が聞こえる。悟浄の指に反応して、先程の行為では
ちっとも反応しなかった僕の分身が、俯せになった体の下で痛いくらいに育ってい
た。
「や〜らしいなぁ。自分から見せてんの?ヌレヌレのアソコ」
「あ…だ…だって…」
自然に腰が上がってしまう。だって仕方ないでしょ。もう我慢できない…
「ごじょ…も…イジメないで…」
先程の激痛だけの行為よりも遥かに狂おしい悟浄の指技。薬を塗るという事を通
り越して、直接前立腺を攻めている。も……頭、おかしくなりそう……
「イジメてねーよ。治療してやってんだぜ」
「……ウソ…」
片手で簡単に体を反転させられ、仰向けにされて、僕の下半身が透明な体液に塗
れているのを見られてしまった。
「こんなに溢れさせて、ま〜ったくイヤラシイなあ」
「やっ………」
肩に付きそうなるぐらいに片足を上げさせられて、 秘処の全て悟浄の目に晒される、
とても恥ずかしい恰好をさせられた。これのどこが虐めじゃないって??
「コッチ、まだ一回も触ってないのに。もう発射寸前って感じ〜?」
「あっ……ぁあ……」
「こ〜いうの、トコロテンって言うんだぜ。それも指だけで、さ」
悟浄の楽しそうな声が耳に痛い。お願い、そんなに言わないで…
「まさか、あれで終わりだとは思ってねーよな? 」
なんのこと?あんな乱暴なことしたのに、終わりじゃないって……
「まだまだ。これからがお楽しみ♪だろ」
悟浄の片手は僕の片足をしっかりと押さえ付けている。僕の両手は自由に動くのに、
悟浄の手から逃れることが出来ない。あまりに激しい攻めに翻弄されて、何も抵抗
出来ない。ただ両手が真っ白になるまでシーツを握りしめることしか。
「いっ…いやぁぁ……」
擦り切れるんじゃないかと思うぐらいに激しく指を動かされ、掻き回され、奥の
奥まで攻め立てられて……目の前が真っ白になったことは覚えている。
後は意識朦朧で、何が起ったのかわからない。
あの後、全身を撫で回され、舐め回され、何回も何回もヤられた気がするけど……
僕が目を覚ましたのは次の日の昼過ぎだったらしい。こんな時間まで、悟浄は何で
僕を起こさなかったんだろう?
「あ…あのさ、八戒。その…」
悟浄の言葉の歯切れが悪い。
「ついつい昨日はカーッとしちまってよ。わ…悪かったって、思ってる」
は?
「俺、冷静さを失ってたんだ。でも、八戒だって悪いんだぜ。俺のこと疑うから…」
下を向いてブツブツ言ってる悟浄の頬が赤かった。
「なんのことですか?」
そう言いながら、僕は体を起こそうとした。した筈なのに、全然どこにも力が入
らないのは…何故?
「きょ、今日は一日寝てろ。家事は全部俺がやっとくから」
真っ赤な顔の悟浄が大慌てで僕の体をベッドへ押し戻そうとしていた。その顔を
じーっと見ているうちに、思い出した。昨晩のこと……全部……痛みまで思い出し
てしまった……
「悪い!もう、あんな無茶しないから」
「悟浄…」
結局はお互いがワガママで、独占欲が強過ぎた為の、些細なすれ違いだった 。
僕だって悪い処はいっぱいあった筈だけど、結果として受身の方が酷い傷を負わさ
れることになるのは…ちょっと、いや、かなり悔しい。
「なんか食いたいもんあるか?して欲しいこと、ある?」
僕にあ〜んなに酷いことしたのに、今の悟浄は昨夜の酷く意地悪な印象なんか全然
残っていない。悟浄らしいといえばらしいけど、でもやっぱり許せない処もある。
なので、ちょっとしたイジワルを思い付いた。
「美味しいチョコレートケーキが食べたいですv」
「は?」
「悟浄の手作りの。勿論、出来合いのスポンジの土台じゃ許しませんよ。ちゃんと
ココア生地のスポンジを焼いて、チョコレートクリームを間に挟んで、3段重ねに
して、上にも削ったチョコレートを飾って下さい」
にっこり微笑みながら、とっても具体的な難しいリクエストをしてみた。
悟浄は暫く固まっていました。ケーキなんて1回も焼いたことがない筈ですよね。
「あ……あのさ、八戒。俺、ケーキなんて…」
「作り方の本は台所の食器棚の上にあります。道具は揃ってますよ。卵と小麦粉と
砂糖はあるけど…チョコレートはお菓子用のを買ってきて下さい。あっ、生クリー
ムも買ってこないといけませんね」
「だ、だから…」
「作れますよね!」
「だ、だから、さ、八戒」
「作れますよね!!!」
「…………作ってみます…」
僕の勝ち、ですね。楽しみです。どんなケーキを食べさせてくれるか。スポンジ、
ちゃんと膨らむでしょうか?チョコレートの湯煎も焦がさずに出来るでしょうか?
ふふふ…
寝室を出て行く悟浄の後ろ姿は随分ヨロヨロして見えた。僕の言葉は、効果想像
以上に抜群だったらしい。
悟浄に付き纏おうとしている女性達はこんな悟浄の姿なんて、想像出来ないで
しょうね。格好良くて、話しが上手くて、口説き上手で、手がやたら早い悟浄が、
たかがケーキひとつ作る為に大格闘するだろうなんて!
体はまだとても痛いけど、少しだけ気分が晴れた。
果たして予想通り。悟浄が初めて作ったという、『チョコレートケーキ』は、見
るも無惨な『物体』だった。
夕方過ぎにようやく起きあがれるようになった僕はテーブルの上で鎮座ましてる
その『物体』を見て暫し言葉を失った。
スポンジは膨らんでないし、全体的に形が歪んでいるし、クリームの塗り方もあ
まり綺麗じゃないし。削ったチョコレートも大きさがバラバラで、飾りになってい
ない。まあ…初めて作ったのなら仕方ないけど。でも…ねぇ。限度というものが…
「見た目は悪いけどさ、味、見てみて」
悟浄は冷や汗を掻きながら僕に必死で勧めていた。その手に何枚もの絆創膏が貼
られていたけど、僕は敢えて無視した。
悟浄の大作(?)を包丁で少し切って、恐る恐る一口食べてみた。
「……………苦い」
「えっ?そ、そんな筈は…」
表面のチョコレートクリームは歯が溶けそうなくらい甘いのに、中のスポンジは
焦げた味がした。ココアパウダーの分量も多すぎる感じ。ちゃんと分量計ったんで
しょうか?
不格好なケーキは僕達に良く似ていると思った。甘過ぎる関係も、時は苦いこともある。
ふとそんな事が頭に浮かんだ。
「でも、美味しいですよ。夕飯後にいただきますね」
「あ、ああ。腹、壊さなきゃいいけど…」
自分でも味見してみた悟浄は顔を顰めていた。大丈夫ですよ。そうしたら看病して
貰いますから。あ、でも腹下しの看病はちょっと厭かも……
「これでチャラにしてあげますよ。今回は特別です」
「は、八戒?」
そして僕は悟浄に甘いキスのお返しをした。
by.桜桃龍華 2002.11.30.
龍華さまのコメント
疲れた体には甘い物が一番!(笑)
遥かさんのリクエストとちょっと違ってしまいましたが…OKでしょうか?
なんかオチが今一です。強気の『俺様』悟浄の筈が、いつの間にか
『ヘタレ』になってしまってるし……
ヤリ過ぎるとウチの八戒さん、家を出て行ってしまいますから、
加減が難しい(笑)今回は八戒さんにも落ち度があったので
妥協したようです。ケーキ一つで(大笑い)
八戒さんがリクエストしたケーキは不○屋の"チョコ生ケーキ"
みたいな物です。んなのシロウトには作れませんって(汗)
ちなみに文中に出てくる『楊さん』にモデルはいません。
ただ悟浄の悪友を出したかっただけです。
遙かのコメント
桜桃龍華さまから、相互リンクの記念で頂きましたv
私からのリクで、浮気なんて本気で出来ない八戒さんと
それにマジ切れした悟浄の、おしおき話でした
しかも、龍華さんのサイトのシリーズ物のお話からですv
凄いですv 凄いですvv
予想以上のモノを頂いてしまいました
八戒さんの健気さが可愛いです〜
悟浄の嫉妬心が楽しかったです〜 ←悪魔・笑
楊さんキャラが、良い味を出していて
私としては、これからの活躍を期待しているのですが
龍華さん、どうなりますかね? うふふv
龍華さま、ありがとうございましたvv
