母親学級(後)

後半期

病院内にある会議室で、午後2時から母親学級が行われた。 15分ほど前に到着したが、15個ほど用意された椅子には数人が座っているだけで空席が目立っていた。 会議室前方にはホワイトボードとテレビがあり、後方には妊婦体操ができるスペースがあり絨毯が敷かれていた。 講習の中で出産ビデオを見ることが分かっていたので、 出産に対して「感動」よりも「恐怖心」がある私はテレビからいちばん遠い最後列へ座った。
定刻近くになると、席はほぼ満席になり、講師の助産婦さんが入ってきた。 母親学級は28週前後で受講することになっているので、 ここに来ている妊婦さんはほぼ同じ週数のはずだが、 臨月かと思うほどはちきれそうな大きなお腹の人もいれば、 ゆったりとした服の上からではお腹が目立たない人もいて、個人差がかなりあるようだった。
まず最初に、助産婦さんから講習の内容についての説明があった。 内容はテキストに記載のとおりで、出産のビデオを見て、出産の心得・準備の説明後10分間の休憩、 呼吸法の練習、妊婦体操をし、病棟見学で終了となっていた。
約20分ほどの出産ビデオの感想は「やっぱり出産は痛いよね〜。痛いのとか血とか苦手だし。」 と思っている私にとっては、大きな不安と恐怖心を植え付けられただけだった。 赤ちゃん誕生後、胎盤が出てくる(後産)がこれは頼めば本人が見ることも出来るらしく、 その様子もビデオにあったが、個人的には見せてもらうよりも、さっさと片付けてほしい…。 周囲の人の反応も様々で、私と同じようにしかめっ面で見ている人もいたし、 途中からビデオを見ないで机を凝視している人もいたが、中には、 かけていた眼鏡をはずしハンカチで涙をぬぐいながら、ビデオの出産に感動をしている人もいた。 出産のビデオで感動して涙する人がいる事を知り、世間にはいろんな人がいるもんだと思った。
次は出産の心得、入院準備品、陣痛が起きて病院への連絡・入院手続きの方法、 入院してから行われる処置、病院からもらえる入院準備品一式の内容、入院中の講習予定 (沐浴、粉ミルクの作成方法、母乳のあげ方等)などの説明が行われる。
その後10分間の休憩をはさみ、妊婦体操と呼吸法を行うため、床に敷かれた絨毯の上に一列に寝かされる。 お腹の張りが強かったり、不安定な状態のため、軽い運動すら医者に止められている人が数人いた。 妊婦体操は、足首の運動、屈伸運動、股関節の柔軟運動だった。 知人から聞いた話で、出産時に股関節がはずれその後2ヶ月入院した母親や、 いきむ時に足が吊ってしまい十分な力が入らず、出産時間が長引き帝王切開した人もいたそうだ。 意味があまりないように思われる運動でも、このような話を聞かされていたので、 お風呂上りにストレッチのつもりで続けようと思っている。
呼吸法はラジオ体操のような音楽に合わせ「ヒッヒッフー」や「ヒッヒッヒッフー」という呼吸法の練習だった。 陣痛の時期によって呼吸法が異なりいくつかのパターンの呼吸法があり違いがよく分からなかった。 どんなに呼吸法を練習していても、出産時(特に初産)に冷静に呼吸法が出来る人はほとんどいないらしく、 立ち会う医者や助産婦が指導をするので、雰囲気を分かってもらえればいいという事だった。
会議室での講習はここで終り、退室するときにマタニティギフトBOX(写真の箱)を助産婦さんから配布される。 中身は大塚製薬のカルシウムのお菓子、ディズニーの英会話教材、ベビー用品カタログ、子供の保険、 粉ミルクのパンフレットなど様々なメーカーのパンフレット、カタログ、資料請求ハガキなどが入っていた。 英会話教材が入っていたは意外だったが、従兄弟の子供は幼稚園に行く前から英会話教室に通っているし、 私達が子供の時代と比べると、勉強もかなり早い時期から始めるようになっているらしい。 いっくら親が押し付けても、最終的には子供が興味を持つか持たないかが重要だと思っていたけれど、 そういう考えって時代遅れなのかも。
最後のスケジュールで新生児室、陣痛室、分娩室、病棟見学を行う。 検診で何回も来ている病院だったが、産婦人科と待合室と売店以外は行く機会がなかった。 ナースステーションの前を通ると目の前には新生児室があった。午後は面会時間になるため、 カーテンが開けられていたが、午前中の検診時にはカーテンが閉められていたので、 新生児室だったことに気づかなかった。 新生児室には、昨日産まれたばかりの子供が5人ほど美術館の展示品のように並べられていた。 この病院では一ヶ月に30人の出産しか受け付けていないが、出産がない日もあるし、 このように一日に5人も6人も重なる日もあり、 昨日は助産婦さんも寝る暇がないほど忙しかったとの事だった。 妊婦にとって、産まれたばかりの新生児は一番の興味だったようで「あの子は大きい」「あの子泣いてるよ〜」 と赤ちゃん批評で盛り上がり、助産婦さんはさっさと次の部屋へ行ってしまっていた。 「次の部屋を案内するので、こっちへ来てください。」という呼びかけがあるまで、 助産婦さんがいなくなっていた事に気づかないほどだった。
次は陣痛室へ案内される。カーテンで仕切られたベッドが3つほどあった。 室内にあった分娩監視装置というものを紹介された。名前は知っていたが実物は初めてみた。 陣痛を監視する機械で病院などによくある血圧測定器が大きくなったようなもので、 細いチューブで機械とつながっているウエストニッパーみたいな帯をお腹に巻き付けて陣痛を監視する。 部屋にある幅2メートルはある大きな自動ドアを開けるとそこは分娩室になっていて、 部屋の中央には分娩台が2つあり、壁際にはたくさんの器具や装置が置いてあった。 数ヶ月後、これらの部屋で今までにない痛みに耐えながら出産することを考えたら憂鬱になってきた。
最後に病室見学となった。 私は特別室の予約をしていたので、室内に入り見せてもらったが、 備品付きの明るい部屋だった。「出産でクタクタになった体を癒すにはこれくらいじゃなくっちゃ。」 とさっきまでのダークな気持ちとは違って、ホテルの部屋でも見物しているような気分だった。 部屋のタイプは、妊娠初期に入院予約をした時に申請した。 友人や知人から聞いた話によると、希望する部屋のタイプによっていろいろな意見がある。 初めての出産では不安も多く、 ママ友達や同時期に産まれた子供のお友達を作りたいという理由で大部屋希望の「友達作成派」 と、一人で気兼ねなくのんびりと休養したいという「くつろぎ派」がいるようだ。 一緒に母親学級に参加した15人の中で、個室の予約者は私だけだった。 予想外だったが、「友達作成派」の方が多いのかもしれない。 個室は大部屋に比べて割高だが、出産直後の疲れた体で気を使いながら一週間入院するよりも、 退院してから始まるあわただしい育児生活に突入する前に、 上げ膳据え膳で一人でのんびりと妊婦の疲れを癒したかった…というのが私が個室を選んだ理由だ。
全部のスケジュールが終わり、病棟の廊下で「それじゃ皆さん、がんばりましょう。何かあったら いつでも相談にのるので連絡ください。」と助産婦さんの閉会の挨拶で解散をした。
母親教室受講料500円。