そして今…

彼女はよく眠っている。時折、薄目を開けたり、口をモゴモゴさせたり、 怖い夢でも見ているのか手を「ビクッビクッ」と震わせている。
彼女は、1ヶ月半ほど前まで私と一心同体だった。
1999年3月29日午後1時58分、彼女はこの世に出てきた瞬間に、 私の身体から離れ、独立した個体となり、彼女自身の人生の第一歩を踏み出した。
私達は「親子」という関係になり、私は親という肩書きがひとつ増えた。
私の長い人生のうちの数ヶ月間を分け与え、身体を貸し、 彼女をこの世に送り出したことで、親としての大半の役割が終わったような気がする。 もちろん、今後彼女が生きていく上で、好奇心を持てば出来る範囲で満たしてやり、 悩みを持てば導き、迷いがあれば後押しをするつもりだ。 でも、私とは別の人格を持ち、別の人生を歩み、ましてや私の所有物でもない彼女には、 親に人生をゆだねることなくしっかりと自分の足で人生を歩んでいってほしい。
親になって数ヶ月の私がこんなことを言うと、理想論と嘲笑されるかもしれない。 しかし、今の気持ちを、今後も大事にしていきたいと思っている。
そして私も子供に依存することなく一定の距離を保ちながら、 また自分のための新しい人生を見つけ歩もうと思う。(99/05/05)


最後に…
この「いのちの兆し」を、私を産み育ててくれた両親と、私が産み育てている彼女へ捧げたい。<おわり>
萌菜・生後1ヶ月