破水

お産は破水で始まった

土曜日の深夜… 「おねしょしちゃってんのかな?出産間近になると膀胱が圧迫されて、 尿失禁とかしちゃうって本で読んだっけ。でも、おねしょの話は聞かないな〜。 寝る前にトイレに行ったのに、どうしてこんなにたくさんのオシッコが出るのかな?」 深い眠りから目覚めながらいろいろと考えていた。
時計を見ると2時30分。寝てから1時間半もしていない。 時計を見て意識がハッキリとした時「破水」という言葉が頭に浮かんだ。 「もしかして、これって破水?」あわてて布団をめくりシーツを見ると、 自分のお尻があった場所は直径15センチほどの円形にぐっしょりと濡れていた。
そのままトイレへ行こうと立ち上がった瞬間、 オシッコをする時とは違う感覚で生暖かい水分が足元まで流れ落ちてきた。 その量の多さに「こりゃ、ヤバイって。」と驚きながら、腹部に力を入れないように、 ソロリソロリとトイレまで歩き便器に座ってみた。
パジャマからパンツまでビショビショになっていて、便器の中には白濁の液体が流れ込んでいた。 「これが羊水か〜。やっぱり破水だよぉ。えっとえっと何をすればいいんだっけ?」 と混乱した頭を深呼吸をして落ち着かせ、まずは別の部屋で起きている彼に知らせることにした。 この時、冷静になっていたつもりだったが、トイレの水は流してないし、電気は付けっぱなし、 扉も空けっぱなしだった。
パソコンに向かっている彼に「私、破水しちゃったみたいなのぉ」と言うと「え?マジ?」 と突然の事態に彼もかなり驚いた様子で顔の表情が固まっていた。 (たぶん私も固まっていたと思うけど)
室内をオロオロと歩き回り「まずは何をすればいいんだっけ?」と考えているつもりでも、 私ときたら「たぶん私入院しちゃうけど大丈夫?」「引越しの準備が大変だけどよろしくね」 「貯金通帳と印鑑はここにあるから」「キャッシュカード渡しておくね」と、 どうでもいい話をのべつまくなしにしていた。 そして、寒くもないのに身体全身震えが止まらなかった。 「私何だかとっても寒いの。ヒーター入れてくれる?」と頼んだが、 しゃべりまくったせいか思考能力が整然とし、破水が現実だということを改めて認識し、 急にいろんな事が怖くなり震えていたのだと思う。
動き回るのとしゃべるのを止めて、こたつの前に座り 「落ち着いて落ち着いて。余計なことは何もしなくていいんだ。」と自分に言い聞かせた。
2時40分。とりあえず病院へ連絡した。 時間外の電話は防災センターへつながるようになっていた。 「産婦人科へつないでください。」というと「どうしました〜」と、 眠そうなイライラするくらいのんびりした口調の男性が電話口に出た。「破水したので連絡しました。」 というと、すぐにつないでくれた。 受付の男性とは、うってかわってキビキビとした口調の看護婦さんが電話に出た。 「3月29日予定日のにしざわです。破水したみたいなので、今からそちらへ行きたいのですが。」 と状況を説明すると、持ち物や身支度の説明をされ 「たぶん、そのまま入院になります。すぐに来てください。」と言われた。
ついでに実家にも電話をした。夜中だったにも関わらず母がすぐに出た。 (予定日近くなってからは、母は枕元に電話を置いていたそうだ) 「私だけど、破水しちゃったから今から入院するの。後のことは彼から連絡が入ると思うから。」というと 「初産だけど予定日に生まれそうじゃない。出産なんてみんながしていることだから安心しなさい。 がんばってね。」と励まされ、その時の母の声が頼もしく聞こえ、気が緩んだのか涙が出てきた。
破水について知りたくなり「はじめての妊娠・出産百科」という本で探してみた。 破水から始まるお産には2種類あり、前期破水(陣痛が起きてないのに破水が起こること) 早期破水(陣痛が起きてもまだ子宮口が開いてない段階で起こること)がある。 陣痛はなかったので前期破水のようだ。 破水から始まるお産の割合は前期破水で7%前後という統計があり、確率としてはかなり低いようだ。 通常の破水は、ジャージャーと勢いよく羊水が流れ出てしまうらしいが、 私のようにチョロチョロと流れ出るのは高位破水(卵膜の上の方が破れる)というらしい。 注意事項としては、(1)お風呂、シャワーは細菌感染の恐れがあるのでやめる、 (2)身体をなるべく動かさない、(3)トイレでいきまない、(4)局部に触らない、 (5)まずは病院へ行くことが最優先、とのことだった。
2時50分。身支度を整え、記念写真を撮り(そんな時に写真なんか撮らなくても…)、 彼の運転で病院へ行くことにした。 「妊婦最後の走りおさめだね。」「退院の時に桜が見れそうじゃない。」 「とうとう痛い時が来たね。」「予定日に生まれるといいね。」 と話しながら走る深夜のガラガラの道路は、まるで「出産への道」という感じがした。 普段は、買物客や観光客で混雑している道路だったが、 この時間は走っている車もほとんどなく10分弱で病院へ到着した。