ルーマニアという国をご存知だろうか?
新体操のコマネチ選手、クラッシックの曲名にもなっているドナウ河、
ドラキュラ伝説などの知識を持っている方は多いだろう。
首都はブカレスト、面積は日本の本州ほどで、人口約2300万人という小さな国だ。
夏は暑いが、冬は寒く、気温は氷点下15℃まで冷えこみ、雪がたくさん降り、
四季のある大陸性の気候である。
1989年11月、ベルリンの壁撤去から東欧諸国にも民主革命が吹き荒れる。
ルーマニアは、共産主義をおし進めようとするニコラエ・チャウシェスク大統領が、
同年12月25日、妻エレナと共に銃殺されるという結果で終わる。
独裁者と呼ばれたチャウシェスクは、ルーマニアのあらゆる所に家を持ち、贅沢な生活をし、
すべてを意のままにしていた。
社会主義国の小国だったため、人口増加が国力を強めるとして「産めよ増やせよ」という政策をたてた。
「45歳に満たない女性は子供を5人産め」という政令を公布。
その結果、望まれない子、養いきれない子が何千人と捨てられ、孤児院に収容された。
しかし、そこにも厳しい現実が待っており、ミルクもなく、次々と栄養失調になる子供達。
子供を死なせると罰則を課せられた医師たちは、赤ん坊たちに血液を輸血。
それは、体力回復のために苦肉の策ではあったが、HIVに汚染された血液が混じっていた。
注射器の使い回しなどで、またたくまに、多くの子供達がエイズに感染していった。
チャウシェスクが銃殺されたのは、ちょうど10年前になる。
当時、新聞などでショッキングな写真が掲載され、記憶には残っていた。
独裁者がいなくなった今でも、国は貧しく、子供たちは考えられないくらい悪い環境で暮らしていることを、
改めて知ることになった。
きっかけは、8月24日の「ニュース23」での特集「独裁者が残した悲劇の子どもたち」
である。
孤児院やエイズウイルスに感染した子供が入院している病院の様子を報告するものであった。
入院している一人の赤ん坊の姿は、特に印象的であった。
エイズに感染した母親から生まれた赤ん坊で、残念なことに母子感染をしていた。
母親は赤ん坊の世話も、抱くことすら出来ないほど衰弱していて、赤ん坊の面倒は病院スタッフが見ていた。
生後9日目の赤ん坊には、これから自分が直面するであろう現実を分かるはずもないが、
無心にミルクを飲む姿は、命への強い執着心が伺えた。
混乱する貧しい国に生まれ、母親は余命いくばくかになっており、また自分も生まれながらに重い病を患っている。
小さな命を必死に支えようとしているその姿は、一人の母親として見るに耐えがたいものであった。
それらの病院では、手厚く世話をするスタッフや、海外からはボランティアの医療スタッフも常駐している。
しかし、生きているうちに、一度も笑わずに死んで行く子供もいるという。
親に捨てられ、親の愛にも触れず、収容所のような孤児院の檻の中で育ち、空腹と寒さに耐え、
重い病を抱え苦しみ、笑えることなど何も無いのだ。
何のために、こんなにもたくさんの子供たちは生まれてきたのだろうか、何のために…。
その後「あの子供たちのために何か出来ることはないか…」と考えていた。
私は、ご存知のように、何の取り得もない平凡な主婦である。
出来ることなど、たかが知れているが、何もしないではいられなかった。
家には、すでに着れなくなったベビー服が、ダンボール1箱分あった事を思い出した。
フリーマーケットに出すことも考えたが、その労力を費やす時間が惜しかった。
資源ゴミには、もったいないと処理に困っていた。
欧米の子供ならば、小柄な私の洋服を着ることが出来るので、久しぶりに自分の洋服も整理した。
生活環境が変わり、以前のように多くの洋服は必要としなくなったので、
ある基準を決めて仕分けすると、衣装ケース2箱にもなった。
長年生きていると、無駄が多くなるので、淘汰するにはいい機会であった。
数日後、ルーマニアへ子供服などの物資を輸送してくれる支援団体を見つけた。
「AAA(Act Against AIDS)運営事務局」である。
問い合わせのメールをし、1週間ほどでお返事を頂いた。
『ルーマニア国内ではインフレで物価が高く、衣類を購入することは困難で、
特に子供服は必要。
子供達の衣類は、ほとんどがこのAAAからの救援物資のため、
冬になると、日本から遠く離れたルーマニアでは「チャンチャンコ」を着た可愛い子供の姿が見られる。
』(メールを一部抜粋)とのことだった。
このような厳しい状況下で暮らしているのは、ルーマニアの子供だけではない。
世界に目を向ければ、至るところで多くの子供達が、餓死や伝染病で亡くなり、
戦火によって無駄に命を落としている。
宗教や国の利益のために戦う大人たちは、自分と国のプライドをかけている。
しかし、私には、自分の家族を戦火にさらし、人を殺めてまで、
守るべきプライドなど、この世に存在しないと思う。
また「日本人は平和ボケ」と思われることもあるらしいが、
平和のどこがいけないのか、ボケで多いに結構である。
国、教育、思想、宗教、政治が、このような大人を育てている。
そして、これからも悲しい歴史を繰り返していくのだろう。
ご存知のように、私には6ヶ月の女の子がいる。
彼女は、日に何度も笑顔を見せる。
たった数ヶ月の間に、数え切れないほどの笑顔を見せてくれた。
きっと生まれたこと、生きていること、母親のぬくもりに、とても幸せを感じているのだろう。
自分の子供と同じ笑顔で、一人でも多くの子供達が過ごせることを、願わずにはいられない。
そして、ルーマニアは、もうすぐ長く厳しい冬を迎える。
この冬、何人の子供が暖かい冬を過ごすことが出来るのだろうか。(99/10/5)
最後になりましたが、問い合わせに丁寧な応対をしてくださった「ニュース23」番組制作スタッフ、
AAA事務局のスタッフの方々、本当にありがとうございました。
お知らせ
運営事務局のサイトは
『Act Against AIDS』です。
募金の申込、物資の送付などのお問い合わせは、
メールまたは
電話:03-3447-0419でお願いします。
募金先
東京三菱銀行 恵比寿支店 普通 0999672
口座名:AAAルーマニア募金