EVANGELION SHIFT WORLD

 

 2015年6月、長野県松代市の郊外。

 

 夕日が世界を紅く染め上げる中、道場の中で二人の男が対峙していた。片方は年の頃

は四十才前半であろう。黒い髪をオールバックにし白の胴着と紺の袴を着用した目つき

の鋭いがっしりとした体格の男である。もう片方はまだ少年である。ともすれば華奢に

見える身体つきであるが、必要な筋肉のみ鍛え上げているのだろう。やはりこちらも白

の胴着に紺の袴のいでたちである。やさしそうな顔つきのかなりの美少年であるが今は

相手の少しの動きも見逃さないという様に真剣な表情である。

 

 相手との距離は4mぐらいある。数分間後、双方とも目を半眼にし精神を集中し始めた

様だ。静かである。呼吸音でさえも聞き取れないほどの静けさである。二人とも世界に

溶け込んでしまうかと錯覚を起こす、そのような感じである。永遠に続くかと思われたが、

突然、双方とも目を見開いたと同時に4mの距離を瞬時に詰め寄り、右の拳をくり出した。

常人では認識出来ないほどの速さである。恐らく何時動いたのかも解らないであろう。

 

 ピシッという音と共に拳と拳が合わさっている。いや、良く見ると4cmほど離れて

いる。普通であるならば少年が吹き飛ばされている所であろうが、その様な気配はない。

微動だにしないのだ。再び二人が動き出したが、戦いの継続ではなく、身体の緊張を解き、

数歩後ろに下がり互いに礼を行った。

 

「いや、よくここまで成長したな、シンジ君。」

 

 壮年の男、六分儀リュウドウは感心していた。この道場「六分儀流古武術」の道場生の

中で14才の少年、自分の甥ではあるが裏の技まで使いこなしているのだ。弟ゲンドウ

から5才の頃より預かり鍛えているとはいえ、9年間でここまでのレベルに達するのは

才能と(やはり血か・・・)と思っている。先ほどの距離を瞬時に詰める−縮地の技−

速さは気を身体にまとわなければあれほどの動きはまず出来ない。彼のレベルであれば

20mぐらいならば一気に移動できるであろう。さらにただの右の正拳突きだか拳の先

を気によるフィールドを張る事で、3cm程度の特殊鋼ならばぶち抜くのも可能だろう。

それと同等の事を彼の甥が行ったのだ。しかも同じレベルで。彼の後継者が見つかった

事によるうれしさと武術家として自分以上になれる素質を持った少年を育て上げる事の

出来るうれしさがあった。

 

「いえ、先生の指導のお陰です。」

 

 碇シンジは答えた。精神集中が切れたのか噴き出す汗を拭いながら。リュウドウを見る

と汗一つかいていない。(まだまだだな)と思った。

 

「ところで、親元へ戻るのか?シンジ君。」

「ええ、父さんは別に構わないのですが、母さんの事を考えると・・・。あんな事を手紙

 に書かれると行くしかありませんよ。」

 

 その手紙は、大きな紙に父ゲンドウの『来い!』とでかでかと書かれたものの下に美しい

字で『今までごめんねシンジ。やっと親子で暮らせる様になったから早く来てね(はぁと)。

PS.来ないと母さん寂しい・・・。』と書いてあった。

 

「ははは、ユイ君にはかなわないか。」

「ええ、一年に数回会いに来てくれた時みたく抱き付かれてわんわん泣かれては困りま

 すから。」

 

 困るとは言ったが、顔は嬉しそうであった。

 

「わかった。なるべく早めに行った方がいい。でないと私もユイ君に睨まれるからな。」

「そうですね。」

 

と二人でひとしきり笑った後、リュウドウは若き後継者に全てを託そうと決心した。

 

「シンジ君、今夜1時に道場へ来てくれ。」

「わかりました。」

 

急に叔父から師匠としての顔になった為、弟子として答えた。

 

 そんな話をしていると、母屋とのドアが開き、黒髪を背中の半ばまでのばした目のくりっ

とした結構な美少女が入ってきた。シンジと同い年である六分儀ミカである。

 

「お父さん、しーちゃん、お茶が入ったよ〜。」

「おう、ミカか。今行く。」

 

 そうリュウドウは答えてシンジの横を通るときミカに聞こえない声で(では夜に待つ)

と言って母屋へ向かった。

ミカはシンジに駆け寄りシンジの左腕に自分の腕を絡ませた。

 

「ちょっとミカ、僕汗かいてるよ。」

「いいの。しーちゃんの汗だったら気にしないから。あ、タオル忘れてた。はいこれ。」

と空いている右手に渡された。

 

シンジは顔を赤くしながらしょうがないな〜と思った。まあ、男ならあんな事を言われ

れば赤くもなるだろう。

 

「じゃあ、居間の方にいこうか。」

「うん!」

 

渡されたタオルで汗を拭きつつ母屋の方の居間に向かった。途中の廊下でミカが何か

嬉しそうなことにシンジは気付いた。

 

「ねえ、ミカ。何か良いことでもあったの?」

「ふっふっふっ、そうなのだよ明智君。居間に行けばわかるわ〜。」

「???」

 

るんたったという感じである。シンジは誰が明智君だと思いつつもそのまま早く早く

とせがむミカと進んでいった。

 

居間の障子を開けるとそこにはあぐらをかいてお茶をすすっているリュウドウと、ショート

ボブの髪にやはりくりっとした目の美少女がいた。

 

「ご苦労様、シンジ君。はいお茶。」

「ありがと、リカさん。」

 

 六分儀リカ、ミカの二才上の姉である。シンジと腕を組んでいるのを見てむっとした

リカを感じたミカは素早く腕を放し、あさっての方を向いて口笛を吹くまねをした。

シンジはまたかと思ったが口出しするととばっちりを受けるので、素直に席へ座り

お茶をもらった。

 

「みんな集まったようだな。話があるから早く座りなさい。」

 

 リュウドウがこう切り出したのでリカとミカもいつものケンカをせず席に着いた。

ちなみにリカはシンジの左、ミカは右に座った。恒例のポジションである。

 

「この度、シンジ君が第三新東京市のご両親の元へ帰ることになった。このことは

 分かっているな、二人とも。」

 

リカとミカは同時に頷いた。

 

「そこでだな、シンジ君。実はこの二人のうちどちらかを君の所で預かってもらおう

 と思ってな、ご両親に相談したら快く承諾してくれたのだ。特にユイ君が乗り気でな、

『賑やかになるのは良いことです。』と言ってくれたのだ。こんな何も無いところでなく

 外を見てくるのも勉強になるしな。」

 

寝耳に水であったが、仲の良い従姉妹といっしょならまあ良いかと思うシンジであった。

 

「で、どちらが行くか二人に決めさせたのだが、ミカが行くことになった。よろしく頼む

 ぞ、シンジ君。」

「はい、わかりました。」

 

 ミカが嬉しそうだった訳を悟ったシンジであったが、あの二人のことだから変なゲーム

とかで決めたのではと思った。それはまさに図星であったが。

 

「そうゆ〜事だから、これからもよろしくね、しーちゃん。」

「うん、こっちこそよろしく。」

 

 シンジとミカのやりとりをぶすっとして見ていたリカであったが何も言わなかった。

大方、自分が提案して負けるといういつものパターンだったらしい。

その様子を見ていたリュウドウはやれやれとばかりにリカに、

 

「時々向こうへ遊びに行くといい。ユイ君も会いたいだろうし。」

 

と言った。リカも何時までもぶーたれている訳もいかないのでしぶしぶ承諾した。

 

「そろそろ着替えて荷物の整理を始めますね。」

「あたしも〜。」

 

シンジとミカは部屋に戻っていった。

 

 

 夕食も終わり、部屋へ戻って荷物整理の続きをしていたシンジの部屋のドアが

ノックされた。

 

「シンジ君、いい?」

「いいよ、リカさん。」

 

 リカが部屋に入ってきてシンジのベッドに腰掛けた。荷物整理をしているシンジを

見ながら一つため息をついた。

 

「あ〜あ、シンジ君行っちゃうのか〜。寂しくなっちゃうな〜、ここも。」

「あ、はは・・・。」

「学校のみんなには、もう言ったの?」

「ううん、まだ言ってない。」

「大騒ぎになるでしょうね〜。」

「うっ。」

 

 そう、シンジはかなり人気があった。それはそうである。かなりな美少年である上に、

みんなに優しく、特にちょっと首を傾げてのにっこり攻撃に撃沈された女生徒は上級生

から下級生に渡りかなり存在する。本人は無意識だったが意識的に行っていたら恐ろし

いものになっていただろう。

シンジはその様子を想像して少し青くなった。

 

「ま、まあ何とかなるよ。」

「そうだといいんだけどね〜。」

「と、ところで第三新東京行きはどう決めたの?」

「あ、あれね。実はね〜。」

「ふんふん。」

「人生ゲーム!!」

「人生ゲーム!?」

「そう、たった2000ドル差だったのよ〜。おいおい。」

 

と泣き真似するリカを見てそんなこったろうなと思うシンジであった。

 

「でも真面目な話、ほんとに寂しくなるね。」

「リカさん・・・。」

「でも一生会えない訳じゃないし・・・。」

「そうだよ!第三新東京へ来れば会えるんだし、僕もたまにこっちへ戻ろうと思ってる。」

「そうよね。そうだよね!」

 

リカはやせ我慢ながら吹っ切ったようだ。そしてシンジのそばまで行くと、

 

「ねえ、シンジ君。」

「なに・・・!」

 

いきなりシンジの唇にキスをして素早く離れた。

 

「これは餞別よ。一応あたしのファーストキスだけど。その様子だともしかしてシンジ君

 も・・・。」

 

シンジはびっくりしていたので首をこくこくとするだけだった。

 

「へへ〜、やったあ。あ、あんまり邪魔すると悪いからもう戻るね。」

 

 そう言ってリカは戻っていった。シンジはあまりのことに呆然としていたがくすっと笑って

整理の続きを始めた。

 

 

 夜中の1時。道場にはリュウドウとシンジがいた。リカやミカに悟られずに移動するなど

この二人にとっては造作もないことである。もっともあの二人は熟睡していて朝まで起きな

いだろうが。

 

「シンジ君、これから六分儀流の全てを見せる。覚えてくれ。」

「はい。」

 

シンジは全てを見逃さぬよう集中した。

 

「では始める。」

 

こうして2時間ほど費やしシンジは六分儀流の全てをリュウドウより見せられた。

 

 

 その日の朝、学校でシンジの第三新東京行きは瞬く間に学校中に流れ、わんわん泣くもの・

記念の物をもらおうとするもの・最後のチャンスとばかりに体育用具室に連れ込もうと

するものなどが続出した。いつも一緒にいるミカも(同じクラスである)、この勢いに

は勝てず女生徒の波に飲み込まれていった。授業を抜け出しても最後に一目見ようとす

る生徒があまりにも多いため、事態を重く見た学校側がシンジのクラス前に監視を置く

事によりようやく沈静化したが、それも授業中だけで休み時間は元の木阿弥であった。

放課後、クラスのみんなや職員室の先生に挨拶をし、校門を抜ける頃にはシンジは

ボロボロになっていた。

 

次の日、荷物を持ったシンジとミカは玄関先で別れの挨拶をリュウドウとリカに行っていた。

 

「叔父さん、叔母さん、長い間お世話になりました。向こうへ行っても修行は続けます。」

「うむ、シンジ君。六分儀流を頼むぞ。元気でな。」

「はい。わかりました。」

「いつでも帰ってらっしゃい。ここはあなたの家でもあるのだから。」

「はい、叔母さん。」

「シンジ君、元気でね。きっと遊びにいくから!」

「うん、リカさん。きっと来てね。待ってるから。」

「じゃあ、お父さん、おかあさん、行って来るね。」

「しっかり勉強するんだぞ、ミカ。」

「先方に迷惑はかけないようにね。後、体に気をつけて。」

「わかってるって。そろそろいこ。しーちゃん。」

「うん。本当にお世話になりました。」

 

 二人は何度も何度も振り返りながら第三新東京市に旅立っていった。

碇シンジにとっては、これが長い戦いの始まりでもあった。

 


N「は〜、やっと書きあがった。」

A「・・・・・」

R「・・・・・」

N「どったの、二人とも?」

A「アンタばかぁ、このアタシがでてないじゃないの!」

R「・・・私も・・・。」

N「そ、そうは言ってもまだ導入部だし・・・。」

A「アタシが始めから出てない小説なんてクズよ!クズ。すぐに書き直しなさい!」

N「やだ。面倒くさい。」

A「なんですって〜!」

N「そんないきり立たないでも次パートから出てくる予定だから。」

A「本当でしょうね?」

N「ほんとほんと。」

A「それにしてもシンジが異様にかっこいいじゃない。もてもてだし。」

R「碇君、かっこいい・・・。」

N「まあ、ノーマルエヴァ+学園エヴァ+超伝記アクションものにする予定だから

  主人公はかっこよくしなきゃ。」

A「まあ、それは許すとして(アタシとも釣り合うし)、何なのよこのリカって女。

  いきなりキスしてんじゃない!どういうことよ!」

N「それほどモテてるんですよ。」

A「き〜っ!アンタ死刑ね。」

R「・・・ATフィールド全開・・・。」

N「はうあ〜・・・。」

A「ちょっとファースト、アタシがコロス前になにやってんのよ。」

R「・・・碇君がキスされた。碇君が・・・。」

A「アンタもちょっと恐いわね。」

 

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