EVANGELION SHIFT WORLD

 

「シンジ君、準備はいい?」

「あ、はい。何時でも良いです。けどぶかぶかですよこれ。」

 

起動実験の当日、パイロットの生命維持を主に、状態確認を発令所で行う機能の付いた白

と青を基調とした防護服『プラグスーツ』に着替え、待機室に居たシンジは呼びに来たリ

ツコに少し緊張した感じで答えた。

 

「右手首のスイッチを押してみて。」

「これですか?」

 

 シンジがスイッチを押すと、隙間の空気が排出されぴったりと体にフィットした。

 

「あと、これを頭に着けてね。」

「何ですか、これ?」

 

 シンジに手渡された物は、二つの白い髪留めの様な物だった。

 

「これはね、パイロットとエヴァをシンクロし易くする為の物よ。」

「ふーん、シンクロって同調って事ですよね。」

「そうよ。」

「そのシンクロしないとエヴァって動かないんですか?」

「ええ。」

 

 リツコはニコッとしながらシンジの質問に答えていた。でも心の中では、

 

(あれだけDNAの相性がいいのだもの。きっと動くに違いないわ!!そうしたらあ〜ん

 なテストやこ〜んなテストを・・・)

 

と思い始めていた。

 

 リツコがあっちの世界へ行っちゃったのを唖然と見ていたシンジは、しっかりしなくち

ゃと頭を振り、リツコに話しかけた。

 

「リツコさん、まだ良いんですか?」

 

 シンジに話しかけられ現実の世界へ戻ったリツコは、ちょっと恥ずかしかったのか頬を

赤らめていた。

 

「そ・そうね、行きましょうかシンジ君。」

「はい。」

 

 シンジとリツコはお互いに、

 

(リツコさんってちょっとアブナイかも・・・。)

(変なとこシンジ君に見られてしまったわ。でもまだ大丈夫よね。)

 

と思っていたが、そんなものはおくびにも出さず二人してニコッと笑うと初号機のケイジ

に向かった。

 

 

 シンジ達がケイジに着くと、既に準備は整っていた。

 

「じゃシンジ君、これに載って。」

「何か魚雷みたいな形をしてますね、これ。」

 

 緊張感などまるで無視したかのようにリツコに尋ねるシンジだった。

 

「そ・そうね。これはエントリープラグといって、エヴァのコントロールを司る部分なの

 よ。これにシンジ君が載ってエヴァを操縦するの。」

「そうなんですか。」

 

 現代科学の粋、いやオーバーテクノロジーの塊を魚雷と言われショックを受けたリツコ

だったが、気を取り直して説明を続けた。

 

「で、エントリープラグがエヴァに挿入された後、エヴァを起動してあなたとのシンクロ

 率を計ります。シンクロ率が稼働状態まで上がるまで何度でも起動をかけますから今日

 は覚悟していなさい。」

「何か・・・疲れそうですね。」

 

 シンジはうんざりとしたが、やると言ってしまったのでどうしようもなかった。

 

「後は発令所から指示します。じゃよろしくねシンジ君。」

「わかりました。」

 

 シンジがエントリープラグに乗り込むのを確認したリツコは発令所に向かった。

 

 発令所では、ゲンドウ・ユイ・レイ・ミカそれにミサトと一同揃っていた。

 

「シンちゃん大丈夫かな?」

「しーちゃんの事だからあっさりいくんじゃない〜?」

「ミカ、そのみょうに間延びした口調やめてくれない?緊張感がまるで無いじゃない。」

「え〜。」

「はいはい、その辺にしておきなさいね二人とも。」

 

 口喧嘩の発展しそうなレイとミカをユイがニコニコしながら、かつ有無を言わさない迫

力をもって止めてきた。二人はこれ以上は言い合いが出来なくなり静かにする事にした。

 

 そこへリツコが白衣のポケットに手を突っ込んで発令所に戻ってきた。

 

「お待たせしました。」

「ご苦労様、では始めましょう。と、その前にリッちゃん行儀が悪いわよ。」

「え、は・はい。」

 

 慌ててポケットから手を出すリツコを見てミサトはぷぷぷと笑った。リツコは真っ赤に

なりながら、

 

(ミサト、覚えてらっしゃい!!)

 

と心に誓った。

 

「各グラフを表示。内部モニタを接続して。」

「わかりました。」

 

 窓代わりになっている大型の透過ディスプレイに数種類のグラフとシンジの様子が表示

された。

 

「シンジ聞こえる?これからエントリープラグをエヴァに挿入するわ。」

「わかったよ母さん。」

「がんばってね。」

 

 そう言ってユイはオペレータに振り返り尋ねた。

 

「システム状況は?」

「オールグリーンです。」

「ではエントリープラグ挿入。」

 

 ユイがそう指示すると、シンジの載ったエントリープラグが回転しながら初号機に挿入

されていった。エントリープラグの内部はフローティング構造になっているのでシンジに

は影響はなかった。

 

「エントリープラグ挿入完了。」

「続いてLCL注入。酸素濃度はテスト用で。」

「LCL注入します。」

 

 シンジはエントリープラグが移動してガコンと音がして止まったのを感じた。その後、

足下から何かの液体が上がってくるのを見ると、あわててユイに呼びかけた。

 

「か・母さん、何この水みたいなもの。わっもう胸まで来てる!」

「シンジ落ち着きなさい。それはLCLといってパイロットの保護とエヴァとのシンクロ

 を高める液体なの。その中でもちゃんと呼吸は出来るわ。」

 

 シンジは吸い込むのを我慢していたが、段々苦しくなってきたので、覚悟を決めて吸い

込んでみた。するとどうだろう、ちゃんと呼吸が出来る。腑に落ち無いながらもシンジは

落ち着き始めた。

 

「へへー、シンちゃんあせった?実はあたしも初めての時あせったんだよね。」

 

 レイがシンジに話しかけてきた。シンジはふうといった感じで答えた。

 

「そりゃあせったよ。いきなりLCLが迫って来るんだもの。」

「これでお仲間が出来た!」

「お気楽だな〜。」

 

 レイが話しかけてくれたお陰で、シンジは精神的な動揺が無くなった。

 

 刻々と変化するグラフを見ていたユイは、シンジが安定した状態になったのを見計らっ

て次の指示を出した。

 

「ここからが本番よシンジ。言語体系は日本語をデフォルトに設定。思考制御システムを

 起動!」

「思考制御システム起動します。」

「パイロットの状態のモニタは?」

「やってます!」

「シンクログラフのモニタをセンターに・・・。」

 

 シンジはスピーカーから漏れるユイ達の声を聞きながら何か大変だな〜と呑気に考えて

いた。

 

「神経接続開始!」

「神経接続開始します!」

 

 そうユイが言った瞬間、シンジはエントリープラグの内部に光の輪が走るのを見た。そ

れが何色にも変化した後、急に周りの景色が映し出された。

 

 発令所内では、ユイ達が引き続き忙しそうに作業を行っていた。

 

「1番から15番クリア。引き続き16番から30番までクリアしました。」

「この分だと旨くいきそうね。」

 

 ユイはそう独り言を言ったが、目はモニタを凝視していた。

 

「臨界点まであと3・2・1、臨界点突破!エヴァ初号機起動します!」

 

 オペレータのマヤがそう言った瞬間、初号機の両目が光った様に見えた。

 

「シンクロ率はどう?」

「信じられません!42.3%です。」

 

 発令所内は、おおと驚愕の声が上がった。ユイはニコッと笑うと司令席のゲンドウに声

を掛けた。

 

「あなた成功ね。」

「ああ、これで我々は彼らに対抗できる。」

 

 ゲンドウはそう言うと席から立ち上がり、発令所から出て行こうとした。

 

「あなた、どちらへ?」

「冬月先生に報告だ。後は任す。」

「わかりましたわ、あなた。」

 

 ゲンドウが出ていった後、ユイはさらに指示を出した。

 

「初号機をジオフロント内に移動させて。パイロットの操縦訓練を行います。」

「冷却用LCL排出。その後各部の拘束具除去。」

「了解。」

 

 ユイやリツコがてきぱきと指示をしている中、レイ・ミカ・ミサトは輪になって話をし

ていた。

 

「シンちゃんって凄い!あたし起動させるのに7ヶ月かかったんだよ!」

「しーちゃんの才能って武道だけじゃないのよね〜。勉強も結構できるし。」

「あんまり関係ないと思うけど・・・。」

 

 ミサトはふと有ることを思いついた。

 

「ね、ね。みんなで起動祝賀パーティやらない?」

「あっ、それいい!」

「でしょ〜。一応準備はうちらがやるとして、問題は場所よね〜?」

「あのミサトさん?」

 

 盛り上がってるレイとミサトに、ミカは疑問をぶつけた。

 

「明日って使徒が上陸するんでしょ?」

「大丈夫よ!シンジ君が何とかしてくれるわ!」

 

 ミサトは自信満々に答えたが、他の二人が自分から引いているのを見た。

 

「はれ、どったの二人とも?」

 

 レイとミカは黙って後ろを指さした。

 

「ん?」

 

 ミサトが振り向くと、そこには顔は笑っているがこめかみに青筋立てているユイが立っ

ていた。

 

「ひぃ〜っ、ユイさん!」

「ミ・サ・トちゃん!そういうのは使徒に勝ってからにしなさい!」

 

 ユイはこう言うが早いか、ミサトの耳を引っ張ってリツコの側に連れていった。リツコ

にミサトの監視を頼むと作業の続きを始めた。

 

 その様子を見ていたレイとミカは、ほっと胸をなで下ろし小声で、

 

「ユイ叔母様って地獄耳!」

「あたし達も注意しなきゃね〜。」

「明日は我が身だわ。」

 

などと話していた。

 

 

 一方、ジオフロントにキャリアで運ばれた初号機は、肩の拘束具を外され立ちつくして

いた。

 

「母さんこれからどうすればいいの?」

「まずは歩くことから始めましょう。シンジ、歩く事だけ考えて。」

 

 シンジは精神を集中しエヴァが歩く事を想像した。すると、初号機が歩き始めたではな

いか!これには発令所の面々もビックリしてしまった。

 

「何でいきなり歩けるの!?」

「彼、一種の天才かもしれないわ!」

「あらあら、あっさり歩いたわね。」

 

 ミサト・リツコは興奮していたが、ユイはごく自然にしていた。

 

 シンジは真っ直ぐ歩くだけでなく、右に曲がったり左に行ったりとあちこち歩くように

してみた。その内に自分が実際に歩いている様な感覚になってきた。

 

 さらに初号機の胸のあたりに何か、巨大な力の様なものを感じ始めた。精神をより集中

する事により、段々とそれが強まってくるのがわかった。

 

 

 その変化に始めに気付いたのはマヤだった。

 

「シンクロ率に変化があります。えっ、こ・これって・・・。」

「どうしたのマヤ?」

「シンクロ率が54%です!まだ上がってます!」

「そんな・・・。」

 

 リツコは信じられなかった。今までのデータでは+−5%程度の変化しかなかったから

だ。それもテストにテストを重ねての長期的なもので。シンジのように動いている時で急

激に変化する事はかつてなかった事だった。

 

「シンクロ率60%突破します!」

 

 マヤが悲鳴にも似た声で叫ぶと、

 

「このままでは危ないわね。シンジ!集中するのをやめなさい!」

「えっ?」

 

 ユイの声で我に返ったシンジは目をパチクリしていた。

 

「どう?」

「シンクロ率低下していきます・・・・46%で安定しました!」

 

 ユイはこんなものねという感じでニッコリとリツコに微笑んだ。リツコは、

 

(私もまだまだね。さすがはユイさんだわ!)

 

と改めて尊敬した。

 

「さて、シンジ。それ以上集中しないようにして。訓練を続けるわよ。」

「わかったよ母さん。」

 

 シンジはさっきの力みたいなものは何だったのだろうと思いながら、あまり集中せずに

訓練を続行した。

 

 その後シンクロ率は許容範囲内で、シンジは走ったりジャンプしたりとエヴァの操縦に

慣れるよう訓練を行った。その結果、夕方までにはかなり自在に操縦が出来る様になって

いた。


 

N「うーむシンジ君段々本領発揮してきたな。」

R「碇君(ぽっ)・・・・。」

N「おや、いたんですか。」

R「・・・・・・・。」

N「ど・どうしました?」

R「・・・・・・・。」

N(レイの目の前で手を振る)「心ここにあらずといった感じですね。」

R「・・・・・・・。」

N(どうやら今回は酷い目にあわずに済みそうだな。)

R「・・・私よりユイさんがいいのね。」

N「はあ?」

R「ユイさん、目立ってるもの。」

N「発令所内では、あんな感じでしょう。」

R「そう、ユイさんが影の主役ね。」

N「あの〜、話通じてます?」

R「じゃ。」

N「じゃ、って?どうし・・うわっ!ディラックの海!何時の間に・・・。」

 

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