EVANGELION SHIFT WORLD

 

 その水辺には、国連軍所属第二戦車大隊が砲塔を海に向け待機していた。波は穏やかで

ありそこに戦車があるのは非常に似つかわしくなかった。エンジン音など聞こえず波の打

ち寄せる音がただ聞こえていた。

 ともすれば眠りに陥りそうな感じであったが、戦車内の兵士達は緊張で目を鋭く光らせ

ていた。

 

 その内の一台の戦車に通信が入った。

 

「警戒機より入電。未確認物体が水中を約60ノットでこの海岸線に接近中。約20分で

 こちらと接触するとの事。」

「了解した。」

 

 戦車内にいた指揮官はその報告を聞いて通信担当兵に指示を出した。

 

「各車に連絡。エンジンを始動し攻撃態勢に移行せよ。目標を確認次第、攻撃を開始し粉

 砕せよ。」

「了解。」

 

 通信担当兵が各戦車に連絡を行うと、次々にMBTの15000ccのエンジンが咆吼

を上げ始めた。付近にいた鳥達は何が起こったのかという様に一斉に飛び立ち、先程まで

とは打って変わって騒がしく、しかも緊張と殺気が充満した世界になった。

 

 先程の指揮官は、上部のハッチを開け上半身を車外に出し、双眼鏡で海を確認しながら

独り言を呟いた。

 

「ふん、こちらに連絡が来るという事はイージス艦の連中は失敗しやがったな。情けない

 奴らめ。」

 

 まだ来ないかと、その指揮官は再び戦車の中に入ったが、その20分後彼らも為すすべ

もなく突破されて情けない連中の仲間入りをする事を、この時は思いも寄らなかった。

 

 

 ネルフ内に仮設した国連軍臨時司令部に入ってくる報告は、全てが思わしくないものば

かりで、国連軍の将校達は苛立ちを覚え始めていた。

 

「ええい、地上部隊では埒があかん!航空兵力を投入せよ!」

「既に指示を出しています。約3分後に攻撃を開始します。」

 

 

 指揮席に陣取っている将校達を、パイプ椅子に座りながら眺めているゲンドウは、横に

立っている冬月コウゾウに小声で話し掛けた。

 

「始めからこちらに任せれば良いものを。これでは税金の無駄だ。」

「そうだな。」

 

 自分たちの事は棚に上げて、絶対的な自信を持つ者の会話を行っているゲンドウとコウ

ゾウであった。

 

 

 VTOL機やガンシップが、35mmバルカン砲・対地ミサイル・カチューシャロケッ

トなどで襲いかかったが、使徒は目の前を飛んでいる五月蝿い虫を追い払うようにしてい

るだけでまったく相手にしていなかった。ダメージも全然無い様である。

 

 これを見た将校達は、吸っていた煙草を忌々しげに揉み消し、遂にある選択を取る事に

した。

 

「N2爆雷を使用する!敵の移動方向を報告せよ!」

「市街地を抜け、山間部に入ります!」

 

 その報告を受けた将校は今度こそ、というように指示を出した。

 

「よし!爆撃機にN2爆雷を装備させ、至急こちらに寄こせ!あと、各攻撃機は引き続き

 攻撃を続行せよ!」

「了解!」

 

 通信担当兵が連絡を行っている間、モニタには攻撃をしているVTOL機が写っている

が、相変わらず効果がないようである。

 

 

 十数分後、N2爆雷を搭載した爆撃機が現場に到着し、指示を待つ為上空を旋回し始め

た。

 

「爆撃機到着しました。」

「判った!全攻撃機撤退。爆撃機、攻撃機の撤退確認後、N2爆雷を投下せよ!」

 

 将校がそう指示するが早いか、攻撃機は蜘蛛の子を散らすように飛び去り、その後に、

爆撃機が投下する為攻撃の軸線上の乗り、そしてN2爆雷を投下した。

 

 モニタ上に閃光が走ったと思った瞬間、画面はノイズだらけになり見えなくなった。

 

「電磁障害のため、モニタホワイトアウトしました。復旧まで3分掛かります。」

 

 将校達は、自分たちの勝利を疑わなかった。そのままモニタが映像を映し出すまでじっ

と見つめていた。

 

「映像回復します。」

 

 オペレータの声に反応して、将校達はモニタを凝視した。

 

 そこには高温で赤茶色に変色し、大気が揺らめいている大地があった。

 

「おおっ!やった!!」

 

 将校達は皆一様に喜んでいた。が、オペレータの報告によりそれが中断された。

 

「爆心地に反応があります。観測機の映像を映します。」

 

 モニタに映し出された中心に、動いてはいないが確かに使徒が存在した。

 

「分析の結果、体表面の12%の焼却を確認しました。なお、目標は再生を開始していま

 す。」

 

 将校達は、皆今までの疲労が一気に吹き出したように、椅子に座り込んでしまった。

 

 

 椅子から立ち上がったゲンドウを一人の将校が見た。

 

「指揮権をネルフに移行する。しかし君達にあれを倒せるのかね?」

「その為のネルフです。」

 

 ゲンドウは人差し指でサングラスを直しながら、事も無げに答えた。ユイはその動作を

見ながら、何カッコつけてるのといつもの様に思わずツッコミたくなったが、流石に戦闘

中の為何とか堪えた。

 

 ユイはウズウズしながら、シンジの待機しているパイロットルームに連絡を入れた。

 

「シンジ。」

 

 双方向スピーカーから聞こえてきたユイの声にシンジは反応した。

 

「何、母さん?」

「第一ケイジに行って。初号機を発進させます。」

「うん、わかった。」

「気を付けてね。」

 

 そう言ったユイであったが、エヴァンゲリオンでの初の戦闘である為、気休め程度でし

かない事を十分承知していた。

 

 実戦では何が起こるか判らない。エヴァとシンクロ出来れば自分が出撃するのにと思う

ユイであり、子供達に戦闘させる事に歯がゆさを覚えずにいられなかった。

 

 

「しーちゃん、怪我しないでね!」

「シンちゃん、ガンバ!」

 

 二人の美少女に腕を組まれ、目をウルウルさせながら囁かれたシンジは、顔を赤くして

恥ずかしげに、だが力強く答えた。

 

「うん、頑張ってくるよ!だから・・・腕を放してくれない?」

 

 そう言われたミカとレイは、今度は自分たちが顔を赤くしてシンジの腕を放した。どう

やら二人とも無意識の内に腕を組んでしまったようだ。

 

 シンジは二人に向かってニコッと微笑みかけた。あまり心配させないようにと思って。

 

「じゃ、行って来る。」

 

 そう言ってシンジはケイジに向かった。

 

 残されたミカとレイは、先程の微笑みにぼーっとなっていたが、どちらからともなく呟

いた。

 

「行っちゃったね・・・。」

「うん・・・。」

 

 二人ともあまり顔には出さなかったが、かなり心配していた。頭の中には縁起でもない

事がよぎっていた。

 

 そこへスピーカーからユイの声が聞こえてきた。

 

「二人とも発令所にいらっしゃい。そこでは見れないでしょ?」

 

 ミカとレイは顔を見合わせ、一つ頷いて発令所に向かった。

 

 

 ケイジに着いたシンジは、素早くエントリープラグに乗り込み、短時間の内にエヴァに

セットされた。

 

 シンクロ作業が終了すると、ユイからの通信が入った。

 

「シンジ、使徒は第三新東京市に入ったわ。これからカタパルトで射出します。以後の指

 示は葛城一尉が行います。気を付けて。」

「判りました。」

 

 シンジは緊張を隠せなかったが、平静を保とうと努力していた。道場でリュウドウと対

峙するように集中を始めると段々と落ち着いてきた。

 

「初号機を射出!使徒の1000m前方に出させて!」

 

 葛城一尉は水を得た魚の様に、テキパキと指示を出し始めた。普段とのギャップが激し

いが、ここ一番では流石に軍人としての顔が表に出てきてしまう。ユイは頼もしいわねと

いった感じでその様子を眺めていた。

 

 

 使徒の前方に出されたシンジは、前から思っていた事を実行してみようと思った。それ

はどんどん集中して見る事であった。この間は中断されてしまったが、その時感じた自分

と同化するような感覚を確認してみたくなったからだ。

 

 使徒との距離がまだかなりあるのを確認すると、シンジは目を半分閉じて集中し始めた。

 

 発令所では、シンジのシンクロ率が急激に上がり始めたのを確認した。

 

「シンジ君のシンクロ率が急激に上昇しています。現在56%。まだ上昇しています。」

 

 葛城一尉はユイの方を向き、ユイが頷くのを確認するとシンジに呼び掛けた。

 

「シンジ君!意識の集中をその位にして!」

 

 だがシンジはそのまま意識をエヴァと同化する事に専念した。すると、モニタを見てい

る事が、肉眼で見ている様な感覚になってきた。するとどうだろう!エヴァの胸部から、

何かの意識が自分に流れ込んで来た。

 

(・・レダ?ワレト接触スルノハ?)

(えっ?)

(ホウ、マダ子供カ。ダガ訓練ハサレテイルヨウダナ。)

(あなたは?)

(オマエタチガ”えう゛ぁんげりおん”ト呼ンデイルモノノ意識体ダ。)

(もしかして胸の部分の力の塊なの?)

(ソウダ。オマエハ?)

(僕は碇シンジ。パイロットに選ばれたんだ。)

(ソウカ。オマエガワレヲ動カスノカ。シカシ昔トハ違ウ方法ニナッタナ。)

(昔?)

(ソウ、昔ハワレト完全ニ同化シテイタガ、今度ハ機械ヲ通スミタイダナ。)

(うーん、僕もよく解らないんだけど・・・。)

 

 

 シンジがエヴァの意識体と会話をしている時、発令所では大騒ぎになっていた。

 

「シンクロ率93%前後で安定しました。が、通信が出来ません!」

 

 伊吹マヤ嬢はお気に入りのシンジが心配でたまらなかった。何故ならリツコやユイが思

いっ切り真剣な表情をしていたからだ。また、ちょっといけないわねなど聞こえて来ると

一層不安になった。

 

 ミカとレイもこの慌ただしい雰囲気に何かを感じたらしく、二人してシンジに呼び掛け

ていた。

 

 ゲンドウはニヤリとしていたが、内心かなり不安がっていた。が、男はやせ我慢という

信念を持っていたので、表面上は何でもないように振る舞っていた。

 

 ユイ自身は心配のあまり発令所内をうろつき始め、ああシンジ!など独り言を呟いてい

た。

 

 

 さて、肝心のシンジはエヴァの意識体と会話を続けていた。

 

(ワレト会話出来ルヨウナラ、自分デ動イテイルノト同ジハズダ。)

(確かにそんな感じがする。)

(ソロソロ来タゾ!)

(そうだね。)

 

 使徒はエヴァに比較的ゆっくりと近づいてきた為、今まで会話を行えたのである。だが

、今は戦闘エリアと言って良い距離になっていた。

 

 (行く!!)

 

 シンジは気合いを入れて戦闘を開始した。

 

 

 モニタを、目を潤ませて眺めていたユイは、唐突に初号機が動き出したのを見て戦闘が

開始されたことを悟った。

 

 シンジの操る初号機は、とても自然な動きで歩き始めたと思った途端、次の瞬間には使

徒に正拳の一撃を食らわせていた。

 

 発令所内の面々は二人を除いて皆唖然としていた。その二人とはゲンドウとコウゾウで

あり、騒がしい発令所内で冷静にモニタを見ていた。

 

「勝ったな。」

「ああ。」

 

 腕を後ろに組んで直立不動で立っているコウゾウに、ゲンドウは自信たっぷりに答えた。

エヴァで六分儀流を使ったシンジを見て勝つと確信したからだ。

 

 

 攻撃を受けた使徒は、道路沿いに吹き飛ばされたが、すぐに立ち上がると左手より光の

槍を出して初号機に攻撃を始めた。

 

 しかし、シンジはその攻撃を難なく避けると、再び左の掌底を叩き込み使徒を吹き飛ば

した。

 

 立ち上がった使徒は、今度は闇雲に攻撃をせず、様子を見る様にじりじりと近づいて来

た。

 

(うーん、手応えはあるのに倒れないや。)

(ヤツノ赤イ光球ヲ狙エ。力ノ流レノ中心ダ。)

(判った!!)

 

 シンジは使徒の気の流れを読んでみると、確かに胸部の赤い光球よりエネルギーが流れ

ているのを感じた。

 

(よし!)

 

 攻撃の目標を確認したシンジは、使徒に素早く近づき攻撃をしようとしたが、途中で壁

のような物にぶつかり、跳ね飛ばされてしまった。そこにはぶつかった衝撃が六角形の光の波紋の様に広がった壁みたいな物が展開されていた。

 

 

「ATフィールド!使徒も持っていたんだわ!」

 

 リツコが興奮気味に叫んだ。ATフィールド、絶対不可侵領域と呼ばれるこの壁の前に

は、いかなる物理兵器・光学兵器も破る事が出来ないと言われていた。

 

「しーちゃん・・・。」「シンちゃん・・・。」

 

 ミカとレイは自分達が今は何も出来ない為、シンジの応援に専念する事にした。

 

 

(いたたたた・・・。なんだあれ?)

(オマエタチノ学者ハATふぃーるどト呼ンデイタゾ。)

(ATフィールド?)

(ソウ、壁ノ一種ト思エバイイ。)

(どうすればいい?)

(ワレガ中和シヨウ。)

(判った、頼む!)

 

 シンジは初号機をATフィールドの手前で停止させた。すると、初号機の目が光ったよ

うに感じると、何かしらの力がATフィールドに向かって放たれたのを認識した。

 

 そしてシンジは使徒のATフィールドの中央に両手を突っ込み、壁を開こうとしていた。

ATフィールドが弱まってきたのを感じたからだ。

 

 

「えっ、使徒の相位空間が中和、いえ浸食されていきます。初号機です!」

 

 戦闘領域のエネルギーグラフを確認していたマヤは、初号機から放たれるATフィール

ドが使徒のATフィールドに同調し対消滅をさせようというのがグラフから読みとれた。

 

「そんな、エヴァ、いえシンジ君も使えるなんて・・・。」

 

 リツコがそう呟いた事は、発令所にいる全員の総意でもあった。

 

 

 シンジは引き千切るように使徒のATフィールドを開くと、使徒は待ち構えていたよう

に目から光線を出して、初号機を攻撃した。

 

 しかし、シンジはその攻撃を読んでいた為、仰け反って避けると、初号機を自分の身体

に見立て、気をまとわりつけて人の動態視認では確認できない速さで使徒の光球に手刀を

入れた。

 

 光球は見事に砕け散り、使徒はこの次元では身体を維持できなくなったのか、ぼろぼろ

に崩れ去り数十秒で無くなってしまった。

 

(ふう、終わった・・・。)

(ゴ苦労ダガ、ヤツラハコレカラモヤッテクル。)

(何でそう言えるの?)

(ソレハマタ今度ニシヨウ。シンジ、同期・取レナク・・テ来テイ・・)

(判った。じゃ又今度。)

 

 シンジは戦闘終了の為に集中力が落ちた事で意識体との接触が出来なくなった。

 

(何体来るんだろうな。でも建物も壊れなかったし、まあいいか。)

 

 驚く事に、建築物の心配までして戦闘を行ったシンジであるが、後日この事を知ったミ

サトやリツコの顔面を蒼白させた事は言うまでも無い。

 

 

 一方発令所内は上へ下への大騒ぎになっていた。使徒を倒した瞬間、全員が

 

「やった〜!!」

 

と言って、チェックシートは投げるわ、座布団は飛び交うわ、ミカとレイは手を取り合っ

てピョンピョン飛び跳ねるわ、ユイは感無量になって目頭をハンカチで押さえるわ、ミサ

トは隠し持っていた缶ビールを飲み干すわで収集がつかなくなっていた。

 

 そんな中、ゲンドウは一人発令所から出て行こうとしたが、気付いたのは一人だけであ

った。

 

「碇、何処に行くんだ?」

「ケイジに行って来ますよ、冬月先生。」

「そうか。」

 

 ゲンドウはそう言って出て行った。冬月は、馬鹿騒ぎをしている連中を見て、やれやれ

と思いながら、シンジに回収用のエレベーターの位置を教え、帰ってくるように伝えた。

 

 シンジは苦笑いをしながら通信しているコウゾウを見て、漏れてくる発令所内の騒ぎに

あ〜あと思いながら元気良く答え、エレベーターに初号機を立たせ、ゲンドウが待ってい

るであろうケイジに戻っていった。

 

 

 

 戦闘が行われた近くのビルの屋上に、一つの黒い影がすーっと現れた。

 

「くっくっくっ、勝ったか。それにしても人間の独立を許さないか、ケツの穴の小さい連

 中め。」

 

 その黒い影は可笑しそうに笑った。

 

「さて、こちらは本人自体の実力を試させてもらおうか。」

 

 そう言うと下に沈み込むように消えていった。


N「やっとCパートの出来上がりです。お待たせして申し訳ありません。」

A「アンタ、忙しかったのと身体壊したのはわかるけど、それ以外はどうしたのよ!」

N「ううっ、書く意欲が湧かなかったのと、PCを1台組み上げてそっちに手を入れてい

  たんですよ・・・。」

A「怠慢ね!読んでくれている方から心配のメールまで戴いて、反省してるんでしょう 

  ね?」

N「もちろん!皆さん見限らないでこれからも読んで下さいね。お願いします。」

A「さあてと、折檻の時間ね!」

N「えっ?」

A「あったり前じゃない!いまだちょろっとしか出ていないアタシのストレスをどうしよ

  うというのよ!」

N「なんか八つ当たりみたいな感じなんですけど・・・。」

A「何か言った?」

N「い、いえ・・。」

A「さーて、どうしようかしらね?あれも捨てがたいし・・・。」

N(なんて不幸なんだ、俺って・・・。)

 

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