EVANGELION SHIFT WORLD

 

 エントリープラグから出たシンジは、気合いを入れて肺に残ったLCLを吐き出したと、

 

「ふう。」

 

 と溜息をついた。やはり訓練と違う戦闘時特有の空気が身体を緊張させていたのだとシ

ンジは思った。

 

 そこへゲンドウが一人、シンジを迎えにやって来た。

 

「御苦労だったな、シンジ。」

「ありがと、父さん。」

 

 ゲンドウはポンとシンジの肩を叩くと、この男がこんな表情をするのかという様に、優

しい笑顔をシンジに向けた。そこには司令としてでは無く一人の男親としての顔があった。

 

 二人は並んでエレベーターの方へ向かった。

 

 二人とも黙ってエレベーターを待っていたが、シンジの方からゲンドウに話し掛けた。

 

「ねえ、父さん。」

「なんだ?」

「あの使徒からは殺気みたいなものは感じられなかったよ。」

「やはりそうか。」

「うん、ただ目的を遂行する為っていう感じがした。」

「う〜む、そうか・・・。」

 

 ゲンドウが何かを思案していると、エレベーターが到着したので、二人はそれに乗り込

み、シンジは待機所の階、ゲンドウは発令所の階のボタンを押した。

 

 ドアが閉まりエレベーターが動き出すと、今度はゲンドウの方から話し掛けた。

 

「シンジ、六分儀流を使った時、やはり自分で動いている感じだったか?」

「そうだよ。昨日の訓練じゃまさに『操縦』って感じだけど、今日は本当に自分で動いて

 いる感覚だったよ。」

「そうなると集中の度合いによるシンクロ率の高低が関係しているようだ。」

「あと、ちょっと気になることもあったんだ。」

「何だそれは?」

「もう少しはっきりしてから話すよ。」

「そうか。」

 

 待機所の階に近づくのを確認したゲンドウは、話を変えた。

 

「その事については又後にしよう。それよりもちゃんとシャワーを浴びてこい。母さんが

 うるさいからな。」

「そうだね。」

 

 そう言って二人は顔を見合わせてニコッと笑った。

 

「父さんはこの後どうするの?」

「発令所に戻って事後処理だ。遅くなるから母さん達と先に戻っていろ。」

「うん、わかった。」

 

 エレベーターが到着し、シンジが降りてゲンドウの方へ向き直った。

 

「じゃ、父さん。」

「うむ。」

 

 シンジは待機所へ駆けて行き、ゲンドウはそのままエレベーターに乗っていった。

 

 

 ゲンドウが発令所に入ると、騒ぎは一段落したようで、各自事後処理を行っていた。ミ

カとレイの姿はすでになく、カフェテリアにでも行ったようだ。

 

 そこへユイがゲンドウに近づいてきた。

 

「あなた、御苦労様。シンジと話が出来て?」

「ああ。少しの間だったが。」

「話足りない?」

「そうだな、ユイばかりが話すからな。」

「ふふっ、ごめんなさいね。」

 

 ゲンドウはユイの尻に敷かれているが、この二人はオシドリ夫婦としてネルフ内では誰

もが知っている事だった。ミサトやリツコはいちゃつきだした二人を見て、又かと思って

いた。

 

「シンジは今着替えているぞ。」

「わかっています。カフェテリアに行くよう伝えてくれます?」

「うむ。」

「じゃ、あなた頑張って。」

「ああ、ユイもシンジ達に御馳走を作るんだろ?」

「ええ。」

 

 ユイはゲンドウにニッコリ微笑むと発令所の面々に向かって挨拶した。

 

「それではお先に。」

「「「「お疲れさまでした。」」」」

 

 皆が一斉に挨拶するとユイはカフェテリアに向かった。

 

 残ったゲンドウは、さっきからちらちらと様子を見ていた連中に向かって照れ隠しの為

に一言、

 

「早く処理をしろ!!」

 

 と怒鳴り、司令席へ着いた。

 

 そこに立っていたコウゾウはゲンドウが席に着くのを確認すると小さな声で話し掛けた。

 

「碇、見透かされているぞ。」

「も、問題ない。」

 

 ゲンドウは早く今の事を忘れる為、シンジに連絡を入れた後、残った仕事を再開し始め

た。

 

 

 シンジが皆と合流し、家に帰り着くと、あたりはすっかり暗くなっていた。ユイは家に

入ると早速キッチンへ向かった。

 

「夕食までちょっと待っててね、シンジ。腕によりをかけて作るから。」

「「あたしも手伝います!!」」

 

 ミカとレイは同時に声を出して立ち上がった。そしてお互い顔を見合わせてクスクス笑

い出した。

 

「あらあら、じゃあ二人にも手伝ってもらいましょう。シンジはゆっくり休んでて良いわ

 よ。」

「そうね、しーちゃん疲れてるから〜。」

「そうそう、今日の主役だしね。」

「う、うん。」

 

 いつの間にやら宴会になりそうな気配にたじろいだシンジだったが、ちょっと思案する

と三人に向かって話し掛けた。

 

「ちょっと時間が掛かりそうだから、今日の修行をやってくるよ。」

 

 それを聞いたユイは心配そうに答えた。

 

「大丈夫なのシンジ、疲れているんでしょ?」

「だから修行になるんだよ母さん。」

 

 そういってシンジは近くの公園に向かった。

 

 

 家の中ではミカがユイの質問責めにあっていた。

 

「ミカちゃん、シンジはああ言っていたけど・・・。」

「ええ、わざと疲れてからの修行を良くお父さんとやってました〜。」

「どういう風に?」

「うーんと、一日中山登りした後に道場に戻って、ずっと精神集中するとかです。」

 

 ユイはそれを聞いてなんてハードな事をと思った。が、よくよく考えてみるとそれはご

く一部である事に気付いた。そう実際はもっと厳しい事を行ってきたはずなのである。

 

「何か凄い・・・。」

 

 レイがそう感心するのを聞きながら、ユイは気を取り直して料理を作ることに専念しよ

うと思った。

 

「判ったわ。じゃあシンジが戻ってくる迄に、おいしい料理を作りましょうか。」

「「賛成〜。」」

「そうだわ!」

「「何ですか?」」

 

 ユイは一つポンと手を叩くと、二人に向かってニコッと笑った。

 

「どうせならりっちゃんやミサトちゃんも呼びましょう。大勢の方が楽しいでしょ?」

 

 いい大人に『ちゃん』付けは無いだろうと思ったレイとミカだったが、ユイには何を言

っても無駄だろうと思い、黙ってニッコリと笑いを返した。

 

「じゃあ、連絡してくるわね。」

 

 そう言ってユイが連絡を終えた後、三人は和気あいあいと色々な料理を作り始めた。

 

 

 シンジが公園に着き、丁度いい場所を模索していると、今まで広々としていた感じが急

に閉じられた感じになった。

 

「結界?」

 

 そう思った時、シンジの前方より、強烈な鬼気の放射を受けた。シンジは咄嗟に気を自

分の前方に張り巡らし、影響を受けないようにした。

 

「誰だ!!」

 

 シンジが怒鳴ると、前方の暗闇よりダークブルーのスーツを着た一人の痩せた男が現れ

た。

 

 その男が街灯の下まで来ると、その表情が露わになった。頬は痩せこけ、顔色は真っ青

であった。ただ目だけはギョロリとしてシンジを睨んでいた。

 

「こ、ここは閉じさせてもらった。出たければ、お、俺を倒せ。」

 

 言うが早いか、その男の両腕が伸び始め、鞭の様になりうねり始めた。

 

 シンジは軽く腰を落として猫足立ちになり、手をやや上に上げ様子を見る様に構えた。

 

「あなたは魔族の様ですね。」

 

 相手の一挙一動を見逃さない様にしながらシンジは話し掛けた。人が発する気では無く、

魔族特有の澱んだ気配を感知したからだ。そう、かってシンジはリュウドウと共に、何度

か相対したことがあった。

 

「そ、そうだ。」

 

 男は言うやいやな、右手に当たる鞭をシンジに繰り出した。が、その場所にシンジの姿

はなく、横に身体一つ分移動していた。

 

 その魔族の攻撃は普通の人間なら決して避けることは出来なかったであろう。人間の鞭

使いでも、鞭の先端は音速を超えるという。その速度を凌駕する攻撃であったがシンジを

捉える事が出来なかった。

 

「や、やるな。」

 

 そう言うと、今度は右手での連続攻撃に移った。だが、シンジはこの攻撃も避けきった。

 

「な、ならこれだ!!」

 

 魔族の男は、両手での攻撃に切り替えた。すると、シンジはぎりぎりでしかその攻撃を

避けることが出来なくなった。

 

 男はニタリと笑うと、左右同時にシンジの両肩へ手を打ち下ろした。その速さは今まで

の攻撃が遊びの様なものだった。

 

「はっ!!」

 

 シンジはその攻撃を待っていたの如く気合いを一つ発すると、攻撃をしてきた男の両手

は吹き飛び、驚愕する間も無く男は胸にシンジの掌底を受けていた。

 

「み、見えん。」

 

 5m程吹き飛ばされた魔族の男は、そう言うとじゅうじゅうと溶けて消えてしまった。

シンジは浄化した気を掌底に溜めて男に打ち込んだのだった。魔族の下のレベルでは致命

的な攻撃だった。

 

「はーーーっ。」

 

 シンジは大きく息を吐くと、閉塞感が無くなっているのに気が付いた。結界が破れたの

だ。あの魔族が核になっていたようだった。

 

 周りに意識を広げ、異常が無いか調べた後、かなり疲労が蓄積してきたので、シンジは

公園から出て家に戻った。

 

 

 シンジが去った後、公園の暗闇から大小二つの黒い影がすーっと現れた。

 

「あの程度では相手にもならんか。どうだ気に入ったか?」

 

 大きい方の影が小さい方の影に話し掛けた。

 

「ええ、気に入りましたわ、お父様。」

 

 大きい影はくくくと笑うと、再び話し掛けた。

 

「ならば碇シンジの側にいるがいい。家も用意してある。」

「はいお父様。で、以降は?」

「もう手は出さぬ。奴らとは違うからな。」

「ええ。」

 

 そう言って大きい影は小さい影に鍵を渡した。

 

「それにしてもライバルはさらに増えるぞ。『水』と『土』は既に側にいるし、『聖』も

 この土地に潜り込んでいる。『火』はこちらに向かっている途中だ。『風』だけは未だ

 ヨーロッパだが時間の問題だ。」

「大丈夫ですわ、きっと・・・。」

「そうだと良いな。」

「はい。」

 

 大きな影は愛おしげに自分の娘を見つめた。

 

「さて、家に案内しよう。」

「お願いしますお父様。」

 

 二つの影は会話を終えると、闇に溶け込むように消えていった。

 

 

 ゆっくりと家に戻ったシンジを待ち受けていたのは、適度にアルコールが入ったネルフ

の面々であった。


N「今回はシンジ君が強さの一端を見せてくれましたが・・・。」

A(ぽーっ)

R(ぽーっ)

N「どうしました?」

A「な、何よ!あっさりしすぎじゃないの!」

N「その方が強さが出ると思いまして。」

A「表現力が無いくせに言い訳するんじゃ無いわよ!!」

N(ギクッ)

R「碇君かっこいい・・・。」

N「ほ、ほら気に入っている方もいますし・・・。」

A「アタシは騙されないわよ!!」

N(ギクギクッ)

A「はいすくーる・・でも影が薄くなってんじゃない!」

N「そういえば・・・。」

A「お仕置きね!!」

N「その手にしてる物は鞭・・。」

A「そうよ!覚悟しなさい!」

N「ひーーーっ・・・。」

 

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