猫への愛に満ちた科学的幻想本。ハインラインの紹介。(1997.7)
猫が好きならこのSF(ちょっと違うが)。A.C.クラークでもアシモフでもそうだけど、作者の懐の深さを感じさせるSF。罠にはめられた主人公が奪われた財産と発明とをとりもどし、どつぼの人生から復活するためにがんばる話。派手な仕掛けも設定もない、どっちかと言えば地味なSF。小道具はたくさんでてくるけど、大道具(?)って冷凍睡眠と時間跳躍くらいだし。でも細かいところまですごく気配りが行き届いてる。ハインラインって言語学の知識もあったのかー、とか、歴史も詳しいんだーとか、妙なところに感心しながら読んでみるのも楽しい。あとはSF光源氏計画について思いを馳せてみるとかね(笑)。SF嫌いでもちゃんと読める。泣けるよ。
ハインライン傑作集(3)。ウォルドウと魔法株式会社の2編を収録。 ウォルドウは呪術が現実になったらどうなるかって話。別に魔界と接触したり禁断の封印が解き放たれたりっていう話ではない。科学万能みたいな近未来で、「あれ、呪術って嘘じゃなかったんだ」ってことが分かって、、、ってかんじか。主人公は天才技術者で人間嫌いの奇人。ハインラインってこういう人が好きみたい。派手な仕掛けや場面は、ない。 魔法株式会社は魔法がごく一般的に使われている(現代)世界の話。どれくらい一般的かって言うと、「FBI捜査官は公認会計士か弁護士か魔術師の資格を持ってなくちゃいけない」くらい一般的。しかも魔術師も学歴がないといい仕事が回ってこない(笑)。そーゆー世界で悪の組織の陰謀を打ち砕くために闘うんだけど、やっぱり派手なシーンはない。なんか地上げ屋とたたかってる町内会のよーでとっても社会派ファンタジー(笑)。
ウォルドウにはおじいちゃん(シュナイダー爺や)、魔法株式会社にはおばあちゃん(ジェニングス夫人)が登場するんだけど、どっちもすごく魅力的。どうせ年をとるならこんな風がいい。一応魔法株式会社にも「おじいちゃん」はでてくるんだけど、なんせ首だけだからなあ(しかも干してある)。 前出の夏への扉ももちろんだけど、魔法株式会社にでてくる猫(セラフィムという)の描写をみるとハインラインって猫好きなんだなーと思う。でもこの人文化人類学、呪術・魔法方面にも詳しいのね。背景知識もしっかりしてるし、魔術呪術がつかわれるシーンもリアル(あいかわらず地味なんだが)。あ、魔法株式会社は、とあるRPGリプレイ(の登場人物の1人)の元ネタです。分かる人には分かるでしょう。 2編とも良いけど、どっちかっていうと魔法株式会社の方が私は好きかな。