私の手元には一対の小さな、翼を持った猫の像がある。数年前、TDLのシンデレラ城にある土産物屋の片隅で私は彼らに出会った。美しい彩色、愛らしいディテール。右向きと左向きで、ちょうど並べると対になる。片方は鳥の翼、もう片方は蝙蝠の翼。翼の部分の彩色は、メタルブルーからメタルパープルへのグラデーション、鳥翼のほうは肩口あたりにゴールド。全体の毛色は黒色で、鼻先に白の斑がある。多少意匠は違うが両方とも首(というか胸元)に細工を施した首輪をしているデザインで、真ん中に宝石に見立てたクリスタルビーズがあしらってある。鳥翼のほうはすこしすましこんで尻尾をくるりと巻き付けて座り、蝙蝠翼のは座り込んで得意げに頭を上げ、ぺろりと悪戯っぽく舌を出している(!)。当然一目惚れ。で購入した物である。
「英雄の介添え人」*1は確かに小さな翼のある猫をその肩に乗せていたが、Whiskers... 「ほおひげ」の翼は蝙蝠のそれだったはずである。 ル=グィン作の絵本*2、CatWings において描かれた猫は鳥の翼を持っている。この絵本でS.D.シンドラーの描く翼ある猫は全身一色ではない。母猫が「ジェーン・タビー」(Tabby : サバトラ・キジネコのこと) なのだから当然とも言えるが、毛並みに模様をもつ翼ある猫は珍しいのではないかと思う。普通、翼のある猫の毛色は黒か灰色の単色(Solid color)、模様がある場合でもせいぜい一カ所か二カ所に斑があるだけだったから....。それとも私が知らないだけなのかもしれない。
翼のある猫族、であれば古くからある。 ギリシア神話に登場するところのスファンジュ(スフィンクス)は翼.....手元の資料では鷹の翼....をもって描かれる。グリフィンは鷲の頭と翼、前足に、ライオンの胴と後足を持った姿である。 しかし猫そのものに翼が生えた姿、となると余りその例を見ない。そもそも猫をモデルとした幻獣・架空生物自体(猫頭の合成生物の例と力のある猫、知恵ある猫の例は幾つかあるものの)そう多いとは言えない。 日本では主要な登場人物に翼ある猫が登場するライトファンタジーが以前にあったが、設定としてクリーチャーであり、どちらかといえば人狼にちかい形質を持っていた。他に私は翼のある猫が登場する話を知らない。探しているのだが、どなたかご存知ないだろうか。
.....週刊SPA (1997.
8/6号)の片隅に空飛ぶ猫の写真を見つけた。「珍世界紀行・イギリス編」......世界中にある「花屋敷」的なあやしい記念館・テーマパーク等の場所を訪問して歩く連載....を見ていたら翼のある猫が、あった。イギリス、ワイト島ロウ人形館(Isle
of White Wax Works
)*3、雰囲気はそのまま「東京タワーのロウ人形館」だ。「空飛び猫の剥製」、日本にもある「人魚の剥製」「河童の剥製」等と同じ原理で造られたのだろう。白地に黒斑の小さな猫に、白鳩か何かの翼が「生えて」いる。流石に欲しいとは思わないが、他にも双頭の子羊、人魚の木乃伊、双胴単頭の羊、等々の展示品があるらしい。「極楽鳥には足がない」伝統が息づいているわけだ。マニアとしてなら行ってみる価値はあるかもしれない。
で。私の持っている小さな翼ある猫の像なのだが。実はもう一サイズ大きい物があり、それは丸まってこっちを見ている翼のある猫の像だった。値段が値段だった(1体\5000?-)のでその折には購入できなかったのだが、次に私がTDLに行ったときには、(私が購入した小さい物も、そうでなかった大きい物も、)商品の陳列棚にはなくなっていたのである。あるのはユニコーンとドラゴンばかり。あとは例の資本主義鼠グッズの山....。私がもっている小さな像の底部には"FLAP
CAT","WINDSTONE EDITION(R) N Hollywood.
CA"というプリントが読める。
.......ハリウッドに行けば、また翼のある猫に会えるのか。
*1 英雄の介添え人」、永遠のチャンピオンシリーズに登場。作者はムアコック。個人的にはコルムの前3冊(「混沌の...」)が好きだ。(おそろしく不親切な解説):元の場所へ戻る
*2 "Catwings","Catwings Return" U. K. Le Guin 作。S.D Schindler 画。絵本。邦題「空飛び猫」「帰ってきた空飛び猫」、講談社刊、村上春樹訳。\1456(税抜き):元の場所へ戻る
*3 英国本島の南。「ロンドンウォータールー駅から列車で1時間半。サウザンプトン駅についたら、あとは高速連絡船で20分足らずでワイト島に上陸できる。」 「船着き場のある町カウから、バスを乗り継ぎ1時間近く、のんびり走った先にブレイディングという、ひなびた村がある」....Brading, England. ロウ人形館はそこにあるそうだ。(週刊SPA 1997. 8/6号 p.99 都築響一の記事より。) :元の場所へ戻る