このページの文章は柳瀬尚紀訳「幻獣辞典」に掲載の「ある戦いの記録」を引用したものである。*1 画像はGAINAXの掲載使用許諾を受けている。再掲載・配布は禁止。この文章に関する質問、抗議、訂正、削除希望などの一切は私に送るように。
ぼくは奇妙な動物を飼っている。半分猫で半分羊だ。
これは父の形見だ。
しかしぼくが飼うようになってから、こうなったのだ。
以前は猫であるよりはるかに羊だった。
いまでは両方が
ほぼ同じ釣り合いになっている。
.............それからはなはだ妙な質問、
人間には答えようのない質問があびせられる。
何故こういう動物が一匹しかいないのか............
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..........こいつの太い頬髭から、涙のしずくが落ちていた。
あれはぼくの涙だったのか、
それともこの動物のだったのか。
この猫は、羊の気性といっしょに、
人間の野心ももっていたのか。
父からはさほどの遺産を譲り受けなかったけれど、
この形見はながめる価値がある。..........
たぶん肉屋の包丁がこの動物にとっての救済となるだろう。
しかし形見だから、そんなことをさせてはならない。
だから、肉体から呼吸が自発的に去っていくまで、こいつは待っているしかない。
もっとも時折、人間みたいにわかっているという顔付でぼくを見て、僕ら両方が考えていることをしてみろと挑んでいるのだけれど。
*1 引用:「幻獣辞典」p.70-71
「ある雑種」の項にある、「「ある戦いの記録」」を引用した。
つまり「孫びき」。ごめんね。
「幻獣辞典」ホイヘ・ルイス・ボルヘス,
マルガリータ・ゲレロ;
柳瀬尚紀 訳: 晶文社刊, 1992 (1974 初版):
El Libro de Los Seres Imaginarios. Original Copyright 1967
「ある戦いの記録」フランツ・カフカ
(タニア、ジェムズスターン共訳の英訳による)