白龍亭・クールな道節!?

目次 >> 考察 >> 八犬伝邪読/クールな道節!?(1998年〜)

[ 八犬伝邪読 - 07 ]

 また道節ネタだが、これは邪読-06「道節は殿様失格」の続編。
 邪読-06では、道節が殿様失格の理由として豊島一門の自覚がないと書いた。だが、実は自覚はあるが豊島一門を背負う意志がないのだとも考えられる。

● 仇討ちの謎その一、四年半の空白
 仇討ちに生きる犬士、犬阪毛野と犬山道節。
 八犬士の一人として里見家と因縁があることを知った時、毛野と道節はそれぞれどうしたか?
 毛野は仇討ちが完了するまでは犬士の群には加われないといって去ってしまうが、道節はその場で犬士の仲間入りしてしまう。仇討ちのために使うと言っていた名刀村雨も素直に信乃に返してしまうし、仇討ちの軍資金を集めるために必要なはずの火遁の術も邪道だとして捨ててしまう。
 これは文明十年七月七日の事。
 道節が次に仇である扇谷定正の命を狙うのは文明十五年一月二十一日。つまり犬士の仲間に加わって以後、四年半の間、道節は仇討ちを忘れてしまう。

● 仇討ちの謎その二、なぜ扇谷定正か
 道節の仇討ちにはもうひとつ気になる事がある。

「山内・扇谷の両管領、しのびしのびに軍議を凝らし、敵の威勢微なるうちに先はや豊島を討んとて、文明九年四月十三日、巨田備中介持資・植杉刑部少輔・千葉介自胤等を大将にて、軍勢凡一千余騎、不意に発てひしひしと池袋まで推寄せたり。豊島がたには由断して……」 (第三輯巻之一第二十二回)
 豊島一門を滅ぼしたのは、山内・扇谷両管領とある。
 しかし道節が狙うのは扇谷定正のみ。
 山内顕定は仇討ちの対象に入っていないのである。もっとも、豊島攻めに関して扇谷の方が主導権を握っていたとしたら、これは仕方がないかもしれない。*
 問題は実行部隊の大将である巨田備中介持資(つまり道灌)・植杉刑部少輔・千葉介自胤が仇討ちの対象になっていないことだ。道節は上野国で、主君である豊島信盛の弟練馬倍盛の首を取った越杉駄一郎遠安と、父である犬山道策を討った竈門三宝平五行を仇として討っている。命令を出した人物だけでなく実行者をも仇とするならば、巨田道灌やら千葉自胤やらも仇討ちの対象にしなければおかしいのだ。

* 山内を狙わずに扇谷ばかりを狙うことに関して、この文を書いた時には見落としていたが、第九十六回に記述あり。豊島家を滅ぼした主敵は扇谷で、山内は傍仇なので狙わないとある。ちなみに道節にこれを問いただしたのは扇谷忠臣・河鯉孝嗣。

● 仇討ちの謎その三、なぜバレているのか
 道節の仇討ちには更に不思議なことがある。
 上野国白井の城外に鷹狩りに出た扇谷定正を討った道節。しかし直後にその定正が替え玉であることが分かる。実は豊島の残党をおびきよせるための巨田助友の罠だった。
 巨田助友は白井に定正がいると触れ回れば豊島の残党がやってくると知って罠を張っていた。定正が城外に出さえすれば白井じゃなくても五十子城でも忍岡城でも河鯉城でもいいはずだが、わざわざ上野国までおびき寄せている。しかも翌日には荒芽山の道節の隠れ家を急襲している。
 これはもう、道節の隠れ家が上野国荒芽山にあると知っていたとしか考えられないではないか。道節は軍勢を持たずに単身定正を暗殺しようとしているだけなのに、そんな情報をどこから手に入れたのか。

● ヒントは毛野と道節の仇討ちの違いにあり
 以上の謎を解く鍵は、またしても毛野との比較で見えてくる。
 毛野の父は馬加大記に無実の罪を着せられて謀殺された。いわば犯罪の被害者である。毛野の仇討ちは正義にかなっている。
 それに対して道節の場合はどうなのか。

「(豊島)信盛兄弟、その初めは両管領に従いしに、いささか怨るよしありて、遂に胡越の思ひをなせり。しかるにこのころ管領山内家の老臣、長尾判官平景春、越後上野両国を伐靡て、既に自立の志あり。よりて豊島を相譚ふに、信盛たちどころに一味同意して、いよいよ管領に従わず…」 (第二十二回)
 道節の父は、豊島家側に原因がある戦争で死んでいるのだ。
 つまり、道節の仇討ちは基本的には私怨の類であって、正義にかなっていないのである。

● 道節の本音
 正義にかなわない仇討ち。
 それを道節は知っているのではないか。四年半も仇討ちをしないのは、仇討ちが正義でないことを知っているからとも考えられる。
 ならば何故、仇討ちをするのか。
 ヒントは道節の乳母・音音にある。音音は荒芽山の道節の隠れ家の主である。ここにかつての夫姨雪世四郎が訪ねてきた時に「敵地(扇谷家の支配地)武蔵国に平気で住んで居られるようなやつには会えない」といって追い返してしまう。
 扇谷家なんかより遙かに昔から関東に根を下ろしている豊島家。その関係者は音音のごとき者までもが扇谷家への怨みで凝り固まっているのだ。道節はこんな豊島残党の期待を背負わされているわけだ。

 結局……。
 道節は正義にかなわぬ仇討ちには乗り気ではない。
 だが豊島残党の怨みを背負っている以上、仇討ちをしなければいけない。とりあえず豊島残党を納得させるために「扇谷定正を討つ」と宣言しているのだ。巨田道灌やら千葉自胤やらを討たないのは、どうでもいいからである。トップさえ狙えば残党の衆から文句を言われずに済む。越杉遠安と竈門五行はなりゆき上、討つはめになっただけだ。最初から仇として探していたわけではない。また豊島残党全てに知られるように大々的に宣言をしているからこそ、敵の巨田助友にも情報が漏れるのだ。

● 筋を通す道節
 犬士の群に加わって以後、道節は二回定正の命を狙う。
 やっぱり復讐に燃えているじゃないか、と言えなくもない。だがこの二回は、犬士の群に加わる以前に上野国で狙った時と根本的に違うのだ。
 文明十五年一月に鈴茂林で定正を狙った時、道節は単独だったか? 否である。穂北から軍勢を借りている。次に同年十二月に定正を狙った時も、里見の軍隊とともにある。道節の主君と父は戦争で殺された。戦争で殺された相手に戦争をしかけて殺すのは、筋にかなっている。
 単独で暗殺することに正義を見出せない道節は、筋を通す形での仇討ちへと方針転換したのである。
 それも、殺そうと思えば殺せたかもしれない状況で、二回とも敵の忠臣に阻まれ、素直に撤退している。道節個人としては、さほど復讐に燃えていないという証拠である。とりあえず豊島残党に対しての義理を果たせればそれでいいのだ。
 道節が「期待はずれの殿様」なのも、豊島残党に対してそれ以上を期待させないため、である。
 通常、荒っぽくて、まぬけで、おっちょこちょいで、頭が悪い、というイメージがある道節だが(そこまで言うか)、実はクールな奴だったのだ。

 余談。
 後に伏姫神女が音音を連れ去って犬江親兵衛の養育係にしてしまうが、道節にとっては頑固婆を厄介払いできて助かったはずである。


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