白龍亭・毛野は猫

目次 >> 考察 >> 八犬伝邪読/毛野は猫(1998年 3月〜)

[ 八犬伝邪読 - 08 ]

 毛野についてのマトモな考察は、八犬伝の謎「闇の犬士・毛野」に書いたので、こっちは気楽にやる。
 邪読も前回前々回の道節ネタでは力が入りすぎて、邪読というよりけっこうマトモな考察になってしまって大いに反省……することもないか。

● 犬猿の仲
 湯島天神で放下屋物四郎こと犬阪毛野が猿を助けた。
 おかしい。犬と猿は仲良しではない。昔から不倶戴天の仲と決まっている。それなのに嗚呼それなのに。何かが間違っている。毛野が実は犬の属性を持っていないのか、この猿が実は猿の属性を持っていないか、どちらかと考えられる。しかしこの猿はホンモノの猿であって猿以外のものではない。となると毛野が犬士でありながら犬の属性を持たぬと考えるのが自然だろう。

● 犬らしくない毛野の行動
 〜の犬、という表現は「主人にあくまで忠実」ということを悪い意味で言う場合に使う。八犬伝の場合は、主人公が犬なので悪い意味で使う例はほとんどないが、それでも忠義とか真面目とかを代表する動物であることは間違いない。
 毛野はどうか?

 女田楽師、旦開野に扮する犬阪毛野。
 旦開野を女性と信じきっている小文吾をくどいて結婚の約束なんぞしているが、はっきり言って「だまし」である。真面目な犬系の人はこんなことはしない。
 また、小文吾に再会して八犬士として里見家に縁があると知っても、自分の復讐が優先だとして小文吾が眠っているうちに立ち去ってしまう。封建時代にあってこの個人優先のわがままさは絶対に犬系ではない。

 更に言えば、後に里見家に仕えて対関東管領戦で軍師となってからもその行動は怪しい。
 里見義成は「仁慈」を前面に押し出していて、領地を守るためにやむなく戦うというスタンスである。だから、各戦場での大将となる犬士たちには「防禦使」という役職名を与えている。毛野一人防禦使ならぬ軍師なのだが「領地を守るだけ」という方針に変更があったわけではない。それなのに毛野は、領地を守るだけなんてはなから考えてない。敵地に侵攻して敵の主城を落として占領してしまう。バカみたいに忠実、という犬らしさの微塵もない。

 犬じゃないとすると何の属性なのか?
 と問うまでもなく、このページのタイトル見りゃ分かるんだが、早い話が「猫」である。

● 猫を暗示する数々
 毛野が猫だという暗示は色々ある。
 まず名前。毛野とは上野・下野両地方の総称。群馬県から栃木県をつなぐ鉄道が「両毛線」なのも両方の毛野という意味だ。ただし犬阪毛野の場合は下野。というのも後に朝廷からもらう官位が下野介になるからだ。
 下野国。
 毛野はこの地域に何の縁もないのだが、それなのにこの名を持つということは何か結びつきを暗示していると言わねばなるまい。八犬伝世界における下野国といえば庚申山の化猫しかない。

 まだある。
 keno と neko はアナグラムになっている。もちろん江戸時代にローマ字などないが(蘭学者は使っていただろうけど一般的じゃあなかろう)、五十音表を見て文字を入れ換えれば、けの→ねこ、に簡単に置き換えられる。こういう音声的遊び心が江戸という洒落に生きた文化の中にないわけがない。

 もっとある。
 猫という字は、けものへん+苗。苗といえば稲作だが、毛野周辺人物にはこれに関連した名前が多い。実の母「調布」は、たつくり。これは田作りである。父の正妻は「稲城」だし、父の名字も「粟飯原」であり、米じゃないけど飯ではある。

 無理やりこじつけると、まだある。
 東京都に「調布市」と「稲城市」がある。色々な村や町が合併した結果の地名とはいえ、元々調布と稲城という地名はあった。毛野の実母と嫡母の名というのは偶然か否か。この両市は隣り合っているが、間に川がある。多摩川だ。タマ川。そう、タマといえばネコ。

 強引に展開すれば、もっとある。
 犬阪。いぬざか。「さか」とは「逆」に音がつながる。犬の逆。それは猫であろう。

● だから何?
 ……結局このページには、だから何なのかという分析はない。
 毛野は猫。そんだけ。
 つまり真面目な人が読んだら怒りたくなるような、このページそのものが、犬ではなく猫の属性の文章なのだ。このページを読んで「なんだこの野郎」とか思ってしまう人は毛野の相手はできないよ、と。


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