白龍亭・謎の八犬士出現ゾーン

目次 >> 考察 >> 八犬伝の謎/謎の八犬士出現ゾーン(1996年 9月〜)

[ 八犬伝の謎 - 01 ]

● 地図上の偏り
 礼の玉を持つ犬士・犬村大角。
 他の犬士が権力側のなんらかの不正義によって故郷に居られなくなるのに対して、彼の敵は妖猫。退治してしまえば一件落着。故郷を捨てて安房里見家に仕える必然性がない。馬琴が何の根拠もなくこういう設定にしたはずはない。何らかの理由があるはずだが、どうもよく分からん。
地図  しかも庚申山。
 他犬士の出現地点から大きく外れた下野国。しかもその中でもずいぶんと外れ(と言っては実際に住んでいる人に申し訳ないが)である。刊行当初の読者になじみの深い江戸近郊で六人出現。それ以外では犬飼現八の古河だが、これも足利家の居城があった歴史の地。犬村大角だけが地理的にどうも不自然な感じがする。

 ……というようなことを考えながら地図を見ていてハッとした。馬琴の住んでいる江戸から安房に向かって、ちょうど背中の方向に庚申山があるではないか。

 八犬士の誕生地を見れば、犬川莊助の伊豆国、犬阪毛野の相模国などあらゆる方向にある。伏姫と犬の八房が死んで安房富山から飛び去った八つの霊玉は一方向に飛び去ったわけではない。
 ところが最初に登場する場所を見ると見事に一つの方向を示している。
 ここで思い出されるのが、亭主が最も感動した研究書、小谷野敦著「八犬伝綺想」で語られている八犬伝全編を貫く「南下というモチーフ」だ。冒頭における白龍が飛び去るのも南。それに導かれる里見義実の道筋も南。そして八犬士も……。登場地点は決して安房を南以外の方向に見る場所ではないのである。

 南の富山は犬士発端の地。犬の山である。
 対する北の庚申山は、犬に対立する猫の山。

 犬村大角が登場する地名「返璧(たまがえし)」も、安房富山から飛び去った霊玉がここから折り返して安房に帰るという意味にもとれる。八犬伝の北限か……。いや、これより北の越後の話がある。だが関八州の北限ではある。関東に限っていえばこれより北を舞台にした話はない。
 最後に、そして最北の地に登場する犬士・犬村大角。
 他の作品なら知らず、あらゆることに奥深い意味が込められている多層構造の南総里見八犬伝である。ここに何らかの深い意味があるのは確かだ。しかしその答を見つけ出せない。
 あるいは、南の富山で再登場する犬江親兵衛と「対」になる何かがあるのか。後の対関東管領戦の時、この二人だけが他犬士と違う働きをさせられる。ここにヒントがあるのかもしれない。
 ……この疑問を持った日=1996年9月28日。
 いずれ答らしきものを見つけたらこの続きを書くことにする。


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