[ 開発室・描画雑記(車輛篇2) ](DA00走行見本付)


---描画雑記(車輛篇1)は無駄話すぎたので、もう少し真面目に書くべきか、と思い直したのがこの続編。
断定的な語り口のせいで「偉そうに!」と誤解されがちだが、あくまで自分流を語るだけで「〜であらねば」という説教を垂れるわけではない。そもそも、自分は説教をするのもされるのも大嫌いなのだ。

…と言いつつも、これまた走行見本がメイン。本文はオマケかも。
初期状態では左に表示されている走行シーンだが、マウスドラッグで移動できるのが「DA00」の特徴。他にもちょっとしたキー操作が可能。それ以外の走行シーンそのものは「LA00」と全く同じ。

[ 描画手法について ]
今回は「車輛篇1」と異なり、描画の具体的手法に記述が及んでいる。
描画ソフトによって描画方法は異なるため、おぱく堂が使っている Photoshop(及び、その描画方法と互換性のあるソフト)以外のソフトを使っている人にとっては、いささか分かりにくい話であろうかと思う。
Photoshop では「範囲選択」というのが重要である。長方形や円だけでなく、多角形や「レイヤを範囲にする(Macでは Commandキーを押しながらレイヤを選択。Windowsだと Altキーか?)」といった機能を多用する。このページでは「流線形」の項目で、多角形範囲選択を使う手法について記述しているが、描画方法の異なるソフトの使用者にとっては、まったく参考にならない可能性もある。
おぱく堂車輛プレート

●金属地肌

アルミやステンレスなどの無塗装車体はなかなか厄介である。
しかし、今や鉄道車輛の主流であり、この問題を避けては通れない。
* CGの色は、模型の色=反射色と異なり、それ自体が光源でもある「発光色」である。よって、同じように金属地肌の表現が難しいといっても、その意味するところは全く異なり共通項はない。
* 3D-CGでは擬似的な「反射」という要素があるが、それはまた別の世界である。

金属地肌は塗装面ほど光が拡散しない。つまりは乱反射しない。
手っ取り早く結論を言えば「塗装面より金属地肌の方がコントラストが強く見える」という事だ。
ステンレス車輛にはビードだのコルゲートだのといった凹凸面があるが、この色と地板の色とのコントラストを変えてみれば分かる。コントラストを弱くすれば灰色の塗装面に近付き、強くすれば金属面に見えるはずだ。
* 困るのはビードもコルゲートもないノッペリとした金属地肌の車輛だ。コントラストの強化といった技を使う場所がない。あえて言えば、使えるのは屋根の肩あたりしかない。
しかし、コントラストの強弱というのは、奥行感の強弱にも影響する。
金属質感を強調すると必然的に奥行感も強くなってしまう。本当は「奥行感はそのままで金属の質感だけ欲しい」のであるからして、これはこれで困る。ゆえに、コントラストの強調にも限度があり、金属地肌の質感表現に関して決定版と言える技が見つからない。
* 元々光が拡散している曇天下のシーンなら、金属質感が薄くてもあまり違和感はない。晴天下の日射しを感じさせるシーンで、どう金属地肌の車輛を表現するかは、かなりの難題である。

●ラッピング/ペイント

鉄道側面画の描画は「絵」ではあるものの、かなり「図面」に近い。しかし、ラッピング/ペイント車体を描くのは「漫画」に近く、ちょっとした別世界である。おそらく、好き嫌いが大きく別れるに違いない。

描画ソフトの「ブラシ」ツールや「鉛筆」ツールで車体に「漫画」を描く場合は、1ピクセル毎に色を微調整しながらドットを打つ手法が求められる。TK縮尺は、そういった極限のドット打ちにはやや面積が広く、気合が必要だろう。
一方で「漫画」特有の細かい描写をするには、逆に、面積が狭すぎて難しい面もある。それゆえに、車輛に描かれたデザインがあまりにも細密な場合には「倍サイズに拡大して描いた後に再び元の大きさに戻す」といった手法も必要だ。当然それはドットが4倍の世界となり、並の気合では続かない。それが嫌なら多少のクォリティダウンに目をつぶるしかない。

自分は、今は描画ソフトの「エアブラシ」ツールを使っている。
これならば(よほどの理由がない限り)原寸のまま高精細な描画が可能だし、さほどの気合も要らない。但し、このツールは「筆圧感知ペンタブレット」必須であり、マウスでは使えない。
↑マウスで描画 ↑ペンタブレットで描画↑

ペンタブレットというのは鉛筆のような形の入力機器で、一見「鉛筆と同じ感覚で使える」手軽な感じを漂わせているが、実際には鉛筆との違いを克服するのに少々訓練が必要である。自分は、慣れないうちは「買ったのは失敗だったか…」とも思ったが、今になってみれば、風景を含めて描画にものすごい威力を発揮する手放せない周辺機器である。
* 慣れるのに時間がかかったので、初期に描いた車輛では(ペンタブレットを持っていたにもかかわらず)マウスでラッピング/ペイント車を描いていた。
* 車輛の描画に使うから難しいのであって、風景描画に使う分にはそれほど難儀な代物ではないかも。
* 鉄道模型のモデラーなら現実の「エアブラシ」を使ったことがあるだろうから、バーチャルなエアブラシも違和感なく使いこなせるかもしれない。
* 左上フレーム走行見本 No.669No.670 に、ラッピング/ペイント車の走行シーンあり。
* No.1291では、ラッピング車以外に↓下の流線形を含めて、描画がややこしい車両を右上フレームに展示(=走らない)した。

●流線形

特急の走る鉄道シーンでは、多くの場合「流線形」を避けて通れない。
難度の高い車輛描画と言われるが、具体的には何が難しいのか。それは「形状把握」と「陰影表現」の2つだと思う。

流線形の形状把握は、真横から見た写真や図面がないと致命的に難しいが、そういった資料があっても難しい。
一発で理想的なラインを見つけるには相当な熟練が必要であって、通常は何度も何度も試行錯誤が必要である。すぐに結果が出ないと気が済まない、といった短気な人間には向いていない作業だ。線を引いてみて少しでも違和感があったら、それはどこか必ず間違っている。何か見落としがあるのだ。と言って、すぐに答が見つかるとは限らない。目に入っているからといって、すべてが見えているわけではない。常人の目なんてもんは、だいたいが「節穴」であって、過信してはいけない。ピンと来るものがなければ、その日は作業をやめて他日に改めてとりかかった方がいいかもしれない。

形状把握でもう一つ難しいのは、ドットのギザギザだ。
これが形状イメージの邪魔をする。8bit画像ならではの欠点とも言えるが、ギザギザの向うに理想のラインを見い出すのも熟練を要する話だから、前述の試行錯誤とは矛盾するけれども、そこそこの所で見切りをつけるのも必要だろう。大きくズレていなければ、後でも修正できる。
* …などと偉そうに述べているが、自分が熟練の域に達しているわけではない。もっとも、見切りのつけ方はかなり進歩したという自信はある。年齢を重ねると「人間なんてもんは完璧にはいかねぇのさ」といった感じで、人生そのものに見切りをつけちまうし(おぃ)。

流線形先頭部の3次曲面。これが陰影表現上、非常に難儀である。
2次曲面ならば、描画ソフトの「グラデーション」ツールだけでなんとかなるが、流線形先頭部では他の手段も必要となる。
自分の場合、今はペンタブレット+「エアブラシ」ツールを使っているが、ここに到るまでに何年もの時を要した。一定の距離の間、均等な筆圧を保てる技が身に付かないと、流線形表現にペンタブレットは使いにくい。なかなか使えるようにならなかったのは、筆圧のムラが克服できなかったからだ。
* …という努力も実は無駄だったかも。ペン軸に付いているボタンに「筆圧一定」という機能を設定することが可能。最初からこれを使えば問題はなかったのだ。この機能があることに長年『気付かなかった』というのが最大の問題。アホかも。

では、マウスで描画していた頃はどうしていたのか?
多角形選択ツールで形状にそって陰影部分を選択して暗色を塗りつぶす。これを少しずつ暗さを増した色にしつつ何段にもずらしながら重ねてゆくのだ。これも気が短い人には向かない手間のかかる作業であるが、作業ひとつひとつの技術的な難度は高いわけではなく、仕上がりのクォリティも低くはない。
* ペンタブレットが使いこなせるようになると、一気に手間がかからない作業になるところではある。
* 左上フレーム走行見本 No.79 に「小田急50000形 VSE」の描画工程シーンがある。これはペンタブレットが使いこなせていない頃の作品だが、ほんのわずかだけタブレット使用個所もある。
* 意外に思うかもしれないが、シンプルな面形状の「小田急50000形 VSE」の方が、複雑な「南海50000系 rapi:t」より描画が難しかった。人は見かけによらないが、鉄道車輛も描いてみないと分からないものである。No.92 参照。

GIFや 8bit-PNG 形式の画像における流線形の問題は、ギザギザ感である。
もっとも、陰影表現によって、陰の部分の明度と背景色の明度が近づき、溶け合って目立ちにくくはなる。とはいえ、1ピクセルの段差を目立たなくするには、十分とは言いがたい。
* 極端な明度の背景色の場合は溶け合う効果は当然なくなるが、通常の風景でそんな極端な明度を使う場面は少ない。
* ちなみに、このギザギザ感を専門用語で「ジャギー」と言う。デート中に絵について語るなんてことがあれば(キザな話だが)、こっちの言葉を使った方がかっこいいかもね。
これには、半透明窓を応用した、擬似的なアンチエイリアス(色補完)が効果的だ。
試す以前は、あくまで擬似的なものだから大した効果はないだろう、と思っていたが、試してみたところ、予想以上の効果が出て、今や、自分的には「必須」というレベルになっている。
* IE6以前を使う人々を考慮に入れなければ、本格的なアンチエイリアス表現が可能な 24bit-PNG形式画像を全面的に使える。「流線形のギザギザ感」などという問題もない。ただ、フル・アンチエイリアスの車輛を描くのはそれなりの描画技術が求められる。それを当たり前としてしまうと、鉄道側面画という趣味それ自体のハードルが高くなってしまう懸念もあるが、実際のところ「ウェブ上から 8bit画像が淘汰されて 24bit-PNGが主流となる」なんて事はないんじゃないかとも思う。「24bit-PNG画像の使用について」参照。

●Kids規格

リアルな車輛画像とは何か?
実はこれには2つの答がある。正しい寸法縮尺で描くという「図面」としてのリアルさと、平面的ではなく立体として存在するものに見えるように描くという「絵画」としてのリアルさ、である。

自分は、どちらのリアルさに関してもそこそこに追究しているわけだが、同時にそれを否定してみたい気持ちもある。
Kids規格というのは「図面」としてのリアルさの否定、と言えなくもない。世の中に Kids規格はあまり普及していないようだが、自分的には一種の解放区であり、時々これを描くことが楽しい。
* 道路という制約がある時、人は前に進めるが、何の制約もない草原のど真ん中に置かれた時、人は進むべき方向に迷う。リアルという制約から外れた Kidsという規格も、自由であるがゆえの扱いづらさもあるのだろう。
* 厳密には、下図のように Kids「規格」という枠をはめているのであって、本当の自由ではないのだが…。



一方で「絵画」としてのリアルさへのアンチテーゼは見つかっていない。
* 任天堂のゲームに「ペラペラマリオ」という立体感を否定したキャラクターものがある。正直、あれは衝撃だった。しかし、立体感を否定して、なお魅力的な鉄道シーンを作るために何が必要なのか。その重要なキーが見つけられないままだ。まぁ、無理して立体感を否定する必要性はまったくないわけだが、そんなこんなを考えている方が、脳の老化防止にはなりそうだし。
* 左上フレーム走行見本 No.380 で、ペラペラ感のあるシーンに挑戦してみたが、必ずしも成功したとは言いがたい。
* Kids規格ではなく TK正縮尺だが、No.1137 でも「陰影表現をしない」車輌と風景に挑戦してみた。
* もうひとつ任天堂に驚かされたのが「毛糸のカービィ」だ。線画の延長と言えばそれまでだが、毛糸で表現されたキャラクタは、通常の線画が持つ「図面」的な要素すら破壊してしまっている。考えた人の発想の柔軟さには恐れ入るしかない。ただの線画なら、自分も No.376(TK正縮尺)で挑戦したが、こういう表現は思い付かなかった。


……というように通常のコンテンツのあるページ内の好きな位置に鉄道シーンを置けるのが、DA00だ。
もっとも、マウスドラッグ等、ブラウザ側にいろいろな処理をさせるわけだから、低速CPUパソコン上での動作が重い。おぱく堂所有の低速Macでは、走行速度が設定の半分ぐらいな感じになっていて、なんとも長閑なシーンと化してしまっている。さらに処理が追い付かないがゆえの、画像欠けまで発生。高性能なパソコンが欲しくなるプログラムだ。……などという愚痴も過去の話。今は安いパソコンでも、このプログラムがサクサクと動く性能はあるようだ。


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