[ 開発室・描画雑記(車輛篇3) ](SA40SL走行見本付)

おぱく堂車輛プレート
---蒸気機関車篇である。
例によって、これまた走行見本がメインかも。
鉄道側面画の世界に足を踏み入れたばかりの人には「げげっ、そんなに面倒なの?」とマイナスイメージを与えかねない上級篇の話。それゆえに「俺は蒸機を描くぜ」という気合が入った人以外にとっては、本文はオマケでしかない。

以前は A02SL-Expert にのみ搭載していた「列車固定・風景走行」機能を抜き出して作った専用プログラムが「SA40SL」である。Sは Sceneの頭文字で、風景の方が走ることを強調したコードネーム。蒸機対応ではあるが、M10SLやGA30SLといった「鉄道模型風」シーン用プログラムと同様の簡易設定。本格設定のプログラムよりは設定が簡単かもしれない。

[ 描画手法について ]
今回も「車輛篇2」と同じく、描画の具体的手法に記述が及んでいる。
これもまた、おぱく堂が使っている Photoshop(及び、その描画方法と互換性のあるソフト)以外のソフトを使っている人にとっては、分かりにくい話になってしまっているかもしれない。

●黒い車体

蒸気機関車は、最も明度の低い黒に塗られた車体であっても光の反射がある。変な話だが「明るい黒」という感じなのである。結局はダークグレーで描くしかないわけだが、単純だが意外と難しい色である。そんなわけで「磨いた直後の黒光りと、煤で汚れてしまった黒との違い」といった表現まで踏み込めていない。
* 質感というレベルでの描画が出来ないと、あの重厚さがいまいち表現できない。それゆえ、自分的には現状の画像に満足できているわけではないが、かといってどうしたらいいのかも判らない。
* ……と書きつつ、下の走行見本は黒い機関車じゃなかったりする。本文と見本が連携しとらんな。
* ちなみに、満鉄パシナの車体色には諸説ある。左上フレーム走行見本 No.343 参照。

●動輪の描画

鉄道車輛を描く中で、最も手間がかかり最も気合を必要とするのが蒸気機関車の動輪である。
描画ソフトのレイヤ機能を最大限に使わねばならないが、このレイヤ数が非常に多いため、レイヤ管理が少々ウンザリである。工程数もめちゃくちゃ多い。といって蒸機を描くにはどうしても避けて通れず、気合一発やるしかない。
* あまりにもレイヤ数が多いので、描画工程の途上で何度もレイヤをまとめる作業が必要になる。詳細後述。
* 電車走行キットにおける動輪画像仕様の基本は「蒸気機関車の画像規格」参照。

工程順に書いてみよう。
* 以下、動輪一周で8枚の画像を使うものとする。一周16枚動輪だと倍になる。また8枚動輪でも、逆転機表現を追加すれば、工程によっては、3倍の作業量となるわけだ。

(1) 車輪
電車の車輪は、アンチエイリアスなしの設定にして円で範囲指定して塗りつぶすだけ。蒸機の動輪の場合、スポークにしろボックスにしろ穴を抜く作業が必要となる。小径動輪なら抜かなくても何とかなるが、国鉄制式蒸機のような大径のものは穴があった方がリアルだろう。さらに回転を表現する上で、穴の位置が違う2種類を用意して、動輪コード順に交互に違う穴位置とする工夫もあるとよい。但し、ただでさえ工程数の多い動輪描画をさらに面倒にしてしまうが…。
* 24bit-PNGで動輪を描く場合は、アンチエイリアス有効にした上で円を作ることになる。ここでは 8bit画像を前提とした話なので、24bit動輪については、ほとんど触れない。
(2) カウンターウェイト
小径動輪では省略しても目立たないが、これまた大径動輪では省略できない。アンチエイリアス有効にした上で円を描いた後、不必要な部分を削除し、それを動輪一周分、回転ツールを使って作る。当然一周分8枚が必要となる。
* 8bit動輪を描く場合でも、結局、カウンターウェイトは動輪と重なるわけであるから、アンチエイリアス有効の円を使っても問題はない。
(3) サイドロッド(連結棒)
各動輪を繋ぐ横一直線のロッド。位置の違う8パターンを用意する。といっても最初に引いた直線をコピーして別の位置に移動するだけだ。

ここで2種類の車輪をそれぞれ4つのレイヤにして、車輪8レイヤ+ウェイト8レイヤ+ロッド8レイヤ=計24レイヤとする。この段階でファイルの複製その1を残しておく。その上で3種類のレイヤを回転位置毎にまとめて8レイヤに減らす。
* レイヤを減らさないと、この先の作業が煩雑になりすぎて混乱してしまう。また、統合したレイヤは元に戻せないので、万が一やりなおす場合にそなえてレイヤをまとめる前のファイルも保存しておくのだ。
* 実際には動輪の向う側にシャシーを描いたレイヤを作っているが、これは動かないので1つしかなく、まとめる対象とはしていない。

(4) スライドバー/ピストン棒/クロスヘッド
ここで回転する車輪周辺から離れて、前後に動くパーツを描く。これも8枚。但し往復で8枚なので、往路と復路で同じ画像もあるが、別レイヤにする。
(5) メインロッド(主連棒)
アンチエイリアス有効に設定した直線ツールで、クロスヘッドと動輪側のピンの位置をつないだ直線を各回転位置毎に引く。
* ここを読んで「8bit動輪を描く場合、アンチエイリアス有効にして直線を引いてしまうと問題ではないのか?」と気付いた人もいると思う。それでも「アンチエイリアス有効」で直線を引くのだ。その理由と問題回避策は後述する。

ここで、前の段階で統合した動輪8レイヤ+クロスヘッド8レイヤ+メインロッド8レイヤ=計24レイヤとなる。ファイルの複製その2を残して、3種類のレイヤを回転位置毎にまとめて、再び8レイヤに減らす。

……と、ここまでは難しくはない。
弁装置が奥に隠れて見えないスティーブンソン式の古典蒸機なら、ここで作業終了である。しかし、国鉄近代制式蒸機のすべてが採用しているワルシャート式の弁装置は外部に出ているし、そのメカニカルな動きが蒸機の魅力のひとつでもあるので省略できない。という事で次は弁装置にとりかかる。
* 弁装置がどう動くのかという知識がないと、ここからの段階は描くことができない。描画難度そのものも上がるので、以下は、TK車輛描画の最上級編ということになろうか。蒸機の模型を持っていれば、それを参考にすればよいかもしれない。
* ワルシャート式でも、走行見本の満鉄パシナのように一部がカバーに隠れて見えないものは、描画が楽である。


* ↑この解説図は、1px=2cm縮尺(5倍 TK)なのでディテールに手を抜けないが、1px=10cm の TK縮尺だとここまで面倒ではない。
* 左上フレーム走行見本、No.172(C57)、No.211(C55)、No.369(D51)、No.1024(8620)、No.1028(9600)、No.1037(夕張鉄道 11)、No.1089(C58)等は、列車固定風景走行+蒸気機関車で、動輪の動きがよくわかる。

(6) エクスパンションリンク(加減リンク)
三日月形というかバナナ形というか、微妙な弧を描く部品で、中央にある軸を基準にスイング状に動く。これも一往復8枚分描くわけだが、これと斜に繋がる偏心棒の動きを頭に浮かべながら、どの位置の動輪の時にどの形になるかをよく考えなければならない。斜につながっているがゆえに、これが意外と難儀である。
(7) リターンクランク(返りクランク)/エキセントリックロッド(偏心棒)
リターンクランクは、この縮尺では非常に小さい部品だが、アンチエイリアス有効に設定した直線ツールで、ちょろっと引く。直線を引くべき2つの点が分かりにくいので、位置アタリ専用のレイヤを別に作っておくとよい。その後、メインロッドと同様の手法で、加減リンクとリターンクランクを直線で繋ぐ。これも8枚。

ここで、前の段階で統合した動輪8レイヤ+加減リンク8レイヤ+エキセントリックロッド8レイヤ=計24レイヤとなる。ファイルの複製その3を残して、3種類のレイヤを回転位置毎にまとめて、再び8レイヤに減らす。

蒸機用プログラム M00SLでは、逆転機を「前進・中立・後退」の3つに分けて表現可能である。
この3つの画像を描き分けるのが、この先の段階となる。逆転機表現ありにした場合、以下の作業量は3倍となる。

(8) ラジアスロッド(心向棒)/コンビネーションレバー(合併テコ)/ユニオンリンク(結びリンク)
それぞれ別レイヤにしてもいいが、面倒なので一つのレイヤにまとめて描いてしまう。これも直線ツールを使う。

……ここで完成。と行きたいところだが、まだ問題が残っている。
各種ロッドを「アンチエイリアス有効」で描いてしまっている。動輪と重なっている部分はいいが、動輪外の部分はそのままではGIF形式では表現不能になる。このため、さらに作業が続く。
* この問題を回避するために「アンチエイリアスなし」でロッドを描くと、ロッドがギザギザした感じになる。動くものだから、それでもさほど目立たないかもしれないが、おぱく堂的にはギザギザ感をなくしたいのである。
* 24bit画像なら以下の工程が不要になる。おぱく堂流で蒸機動輪を描くと、8bit-GIFの方が 24bit-PNGより手間がかかるという一種の逆転現象となる。

透過部分にアンチエイリアス処理部分が重なっている個所は半透過状態にある。これをそのままGIF保存してしまうと、半透過だったドットが不透明か透明のどちらかになって保存される。
* Photoshopの場合、透過 50%を境に、透過率の低いドットは不透明に、透過率の高いドットは完全透明となって GIF保存される。他のソフトでも同じようになるのかは知らない。
で、どうするのか?
強引な話ではあるが、一旦そのまま、GIFで保存するのだ。
その上でGIFで保存した8枚のファイルを再び開き、不透明や透明になってしまったドットを修正する。邪魔なドットは削除し、残しておいた方がよいドットは残し、色を変えた方がよいドットは色変えをして、必要なドットは追加する。鉛筆ツールで点単位でチマチマ修正する。根気のいる作業ではあるが、蒸機動輪をこの段階まで描く手間を考えれば大した事はない。
* 他にもっと効率的な方法があるやもしれないが、今のところ見つけてはいない。

以上の工程を経て、ようやく蒸機の動輪は完成するわけだ。
* TK画像作者の中でも、蒸機動輪まで描いている人は非常に少ない。やはりハードルが高すぎるのかもしれない。
* おぱく堂作蒸機の中で最も手間のかかったのは、BigBoyの一周16枚動輪(左上フレーム走行見本 No.244 参照)であるが、最も時間がかかったのは、最初に描いた D51の動輪である。何事も「初体験」というのは大変である。
* 一度でも蒸機動輪を描くと、電気機関車などの画像を描くのがものすごく楽に感じるようになる。まぁ、女性の前で一度でも醜態を晒してしまえば、以後はカッコつける必要がなくなるのと同じである。え、違う?

[ 追記その1 ]
* 偉そうに動輪描画を語ってはみたものの、この方法では表現に限界があるようだ。
* 海外のスクリーンセーバ用画像ではあるが、ルーマニアの「SorTrainS」の蒸機動輪の表現(特にアメリカ蒸機)を見てもらいたい。見事としか言いようがない。これを見てしまったら、なんだか自分の方法論に自信が持てなくなっちまったよ。

[ 追記その2 ]
* レイヤをまとめる、という作業は意外と気を使う。間違うと大変だからだ。…ということで、2009年以降、方法を変更。まとめる代わりに GIFとして保存してしまい、その GIF画像をベースに次の段階を描く手法にした。こっちの方がはるかに楽だと分かった。
* メインロッドを直線ツールで描くだけ、というのはクォリティ的に気になっていた。水平のちゃんとしたロッド画像を描き、それを回転ツール(ビッグエンドのところに回転中心を置いて作業)を使って斜にする。そういう手法にした方が画像品質的によい。手間もそれほどは増えない。
* 将来的に逆転機表現の画像を追加することを想定して描くのは、かなり気を使う。逆転機表現をしないことを前提にして描いた方がはるかに楽である。……逆転機表現機能もいいが、開発者である自分にとっても描画のハードルが高すぎた。

●煙の描画

う〜む……。
* いや、煙の表現に関しては難しくて、なにがしかを語れるところまで達していない。現状では、薄い半透明に設定して「煙の存在」を感じさせる程度でお茶を濁しているのが実情。具体的な話は「電車走行キット開発史 - 番外7 蒸気機関車」参照。
* SA40SLは「煙」の設定が出来ないが、列車が固定されているのを逆手にとって、満鉄パシナのシーン(上の見本も配布版の初期設定も)は風景側に煙を描いている。全部で10枚を重ねることのできる風景画像それぞれにスクロール比が設定できるので、煙を描いた風景画はスクロール比=0として固定してしまっているのだ。
* 左上フレーム走行見本には蒸機シーンが数多くあるが、煙表現はほとんど諦めてしまっていたりする。絶気運転時か、模型風ということでお茶を濁しているわけだ。


……結局のところ。絵というのは「体で覚えるもの」だったりするわけで、言葉に置き換えられない要素は多い。
世の中、言葉でしか伝えられない事もあるので言葉を軽視してよいわけではない。だが、絵に関することは、こうして言葉で語ったところで限界はある。所謂「暗黙知」の領域というわけだ。
では何故こうやって語るのか?
うひひ、語りたいから語るだけさ。飲み屋で酔っぱらってぐだぐだ喋っているおっさんと同じ。
今これを読んで「そんなもんに付き合わされていたのか」と愕然とした人もいるかもしれない。ま、深く考えないように♪

それはともかくとして……「SA40SL」は、列車が固定している上に対向列車も存在しないため、1編成だけの世界となる。
それゆえに「蒸機を走らせる場合に限り、風景画像2枚の自作を条件として、おぱく堂作車輌だけの使用を認める」という使用条件の特例を設けている。車輌を自作するか、風景を自作するか、という選択が可能であるがゆえに「車輌を描くのは苦手だが風景画は好き」という人にも門戸を開いたプログラムとなっている。もっとも、スクロールする風景画は左右がつながらなければならないので、描画に制約はあるのだが。


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