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腕時計、雑感

Apr.2016

おぱく堂主人・白龍亭主


●序章 - 自分的 腕時計史

 自分が最初に腕時計を手にしたのは、小学2年生の時である。といっても、買ってもらったわけではない。
 当時、病気で2ヶ月ほど入院したのだが、隣のベッドが時計屋さんで、その人からもらったのだ。1960年代の病室は個々のベッドを仕切るカーテンはなく、親も週に2回ぐらいしか見舞いに来なかったので、必然、その時計屋さんが一番の話相手となった。その縁で、中古品をくれたのである。とはいえ、面倒な手巻き式である上、子供の生活に時計を必要とするような場面はない。だから、ほとんど使うことはなかった。
* ちなみに、その病院の看護婦さんから「赤ん坊は、お母さんの割れ目から生まれてくるんだよ」と教えてもらった。しかし、小学2年生である。そもそも「性器」という概念が理解できなかった。わからないことはしつこく質問する性格の子供だったから、何度も「割れ目って何?」と問いかけた記憶があるが、結局、それ以上は教えてもらえなかった。入院していたのは4階で、出入り口のある1階まで階段を下りる度に、2階の産科フロアの独特の匂いを嗅いでいた。その異様な匂いと「腹が割れる」という話がセットになって、出産というものが、おどろおどろしい恐怖のイメージをともなって心に刻まれた。
* その後、小学4年生の時に、親戚のお兄さんが「ちんちんを女性の穴に入れるんだよ」と教えてくれた。子供のちんちんには「排尿器」の機能しかないのだから、「性器」という機能をイメージするのに少し時間はかかったものの、男女の仕組みは理解できた。といっても、自分自身の中に「性欲」はまだなく、好奇心の対象も「おっぱい」ばかりで、下半身への興味は湧かなかった。その流れのまま大人になったので、今もって、女性を見る時の目線は上半身ばかりで、尻や太ももにはまるで目が行かない。まさに、おっぱい星人である。

XS S M L XL

moon DST UTC JST 00:00 :00 24 12 P A 12 6 3 9 10 0 + +
タイムゾーンを代表する都市等の名→ Tokyo ←日本時間(JST)は「東京」になる
腕時計の文字盤にある表記→ ( TYO ) ←IATA 都市コード(3文字)

協定世界時からの時差→ UTC+9:00 ←日本時間は+9時間
UTC JAPAN DST
▲本文の時計とは異なるが、 インライン SVG ( Scalable Vector Graphics ) で時計を作ってみた。
主時計はワールドタイム。−/+クリックで、他国の時間帯へ。サマータイム(DST)採用地域がある時間帯では、切替可。
0時の真下にあるのは、ムーンフェイズ。ただし、伝統的な機械時計的表示ではなく、実際の月相に近い表示。
小文字盤は、左=このページ表示の経過分針、下=主時計連動 24時間計、右=現在時刻。

 腕時計を常時、身に着けるようになったのは、高校時代からだ。
 当時はまだクオーツは高価で手が出なかったし、デジタル時計もなかったから、当然、アナログの機械式(自動巻)である。クオーツの方が機械式より安くなったのは、大学時代のことで、その頃からは、一貫してクオーツ式のアナログ時計を使っている。デジタル時計だと、経過時間や残り時間を頭の中で計算しなければいけないが、暗算は苦手なのでアナログは必須だ。
* 調べてみると、自分が高校に入学した時点で、デジタル腕時計というものは存在したらしい。だが、登場したばかりの黎明期で、あまりにも高価な存在だったようだ。それゆえか、小さな地方都市の時計屋には置いてなかったから、その存在すら知らなかった。
* 機械式というと、今は「高級品」のイメージだが、当時は別にそんな感じではなかった。これまた調べてみると、今でも、1万円以下の廉価な機械式腕時計は存在するようだ。今は、限られた需要しかなさそうだが。

 腕時計に何を求めるのかは、人それぞれだが、自分の場合は、機能美と精度である。
 ……などと偉そうに言ってはみたものの、予算の制約が一番大きく、理想の腕時計が買えるわけではない。
 黒+銀という好きな色にはこだわりつづけたものの、以後、シンプルなデザインのアナログ腕時計を選びつづけた。代替わりのたびに簡素化が進み、曜日表示がなくなり、日付表示もなくなり、ついに極限のシンプル 1000円の腕時計にまで 堕ちた たどりついた。
 だが、激安腕時計は意外なところから壊れた。歩行中にいきなりバックル(ベルトの金具)が折れて、腕時計がアスファルト地面に落下。本体は無事だったが、ベルト交換費用が時計そのものの値段より高いという虚しい現実を前に、ベルト交換か新品購入かで迷って決断がつかず、しばらくはそのまま懐中時計として使っていた。
* 貧乏くさい話である…。
 結局、新品購入することに決め、ネットで新たな腕時計を探したところ、理想に限りなく近い腕時計が、予算の範囲内に存在するのを発見した。
 税別定価2万円の「ソーラー電波アナログ・クロノグラフ、ワールドタイム付」が、税込実売1万円だったのだ。ポイント還元分も含めれば、実質1万円以下である。ソーラーも、電波も、クロノグラフも、ワールドタイムも、欲しいと思いつつ、以前は予算オーバーだった代物で、それがすべて揃って予算内というのは、嬉しい話である。
* こんなことを嬉しく思える自分っていったい…。
 こうして、半生のシンプル路線を外れ、人生初の多針多機能時計を手にすることになった。


●ソーラー電波は、ペットである

 ネット上では、ソーラー電波腕時計の評価は二分している。「最高」と言う人もいれば、「くそ使えねぇ」とこき下ろす人もいる。
 評価を決める価値基準は人それぞれだから、参考になるのは自分と似たような基準を持つ人の意見だけだが、誰が自分と似ているのかまでは分からない。結局、自分の勘を信じて買うしかない。よって、一応評価を読んだものの、ほとんど参考にすることなく、件の腕時計を手に入れた。
* ちなみに、選んだのは「CASIO Wave Ceptor WVQ-M410-1AJF」である。

 所有者として使ってみた結論をいきなり言えば、ソーラー電波は人を選ぶ。つまり、相性がある。
 合わない人が「最低」と思うのは当然であり、合う人にとってはベストな選択となる。評価が両極に振れるのは仕方がない。

 相性の問題は、「ソーラー」と「電波」を分けて見なければいけない。

 まずは「ソーラー」だ。
 室内灯でも充電するが、ぎりぎりであり、余裕ある充電のためには、太陽光が求められる。
 これが最大の問題で、外出しても長袖が充電の邪魔になる。休日には半袖でアウトドアライフを楽しむ、などというアクティブな人間なら問題ないが、自分のようなインドア派では、どうやって時計を太陽光にさらすかを考えなければならない。
 これが面倒だ、という人にはソーラーは不向きだろう。
* 昼夜逆転の生活をしている人ならば、就寝中に窓際に腕時計を置いて太陽光に当てるという方法が使える分、かえって昼間動いている人より有利かも。もっとも、昼夜逆転だと後述の電波受信に問題はあるが…。
 腕時計を、意識して太陽光の下に連れて行くのは、ペットの餌やりと同じ。毎日の餌やりが面倒だというなら、ペットは飼えない。
* 連れ出すという意味では「散歩」のイメージに近いが、目的はエネルギー補給だから、自分的には「餌やり」扱いしている。

 次に「電波」だ。
 電波時計用の電波は微弱で、自動受信する深夜から明け方にかけて、時計をどこに置くか、どういう形で置くかを考えなければならない。雑電波の多い昼間は受信しにくいから、深夜仕事だったり、夜遊びが激しい人には電波受信のチャンスが少なくてイライラする代物だろう。
* 日本の時計用電波は、福島と九州の2ヶ所に送信所にあるから、そこに近いほど有利ということはあるかもしれない。
* 高価な GPS衛星電波受信の腕時計なら、いつでもどこでも受信ができるので、このような問題はない。理想を言えば、「CASIO MT-G」とか「CITIZEN ATTESA」とか「SEIKO ASTRON」とかが欲しいところだが、予算オーバーすぎて手が出ない。羨ましい。
 これも、ペットと同じ。時計に、電波環境の良い快適な寝床を与えてやる必要がある。
 そこさえクリアすれば、時刻合わせをしなくても日々1秒以内の誤差しかないのだから、最高だ。これに慣れたら、いちいち時刻合わせをする生活には戻れない。


●クロノグラフは無駄か?

 多針で多機能なクロノグラフには、ストップウォッチ、タイマー、アラームの機能が付いている。
 だが、実際のところ、ほとんど使わない。ウォーキングでストップウォッチを使ってみたが、健康目的のウォーキングに 1/20 秒単位の精度は不要。カップラーメンの3分にタイマーを使おうとしたら、使い方を忘れてすぐには使えず。大音量でも目覚めない自分には、小音量の腕時計アラーム程度では役に立たず。
 これって、無駄?
 ……まぁ、無駄だろうな。だが、無駄ではあるけど、この無駄が意外と楽しいし、無駄こそが文化なのだ。
* 言い訳がましい? そんなことはないぞ。

 使わない機能を無駄と言う人がいたら、反論する材料には事欠かない。世の中、無駄だらけだからだ。

 まず、低カロリー食品というのが無駄だ。
 食事の第一義は栄養補給なのだから、高カロリー食品を少なく摂取するのが、一番無駄のない食事というべきである。低カロリー食品を買っている人には、クロノグラフを不要と言う資格はない。
 さらに、化粧も無駄だろう。
 大化けしてすっぴんとの落差が激しい場合は効果ありと言えなくもないが、おおかたは、化粧したからといって美が増したりはしない。酷いのになると、すっぴんの方が美しいというメイクダウンもある。これを無駄と言わずして、何を無駄と言うのか。化粧品を買っている人には、クロノグラフを不要と言う資格はない。
 もうひとつ、宝飾品も無駄。
 美しいもので身を包んだところで、中身が…(以下、自粛)
* 真実を書きすぎると、敵を増やすから、やめておこう。

 無駄を否定したら、文化というものが成立しない。そして、クロノグラフは文化だ。


●アナログの皮を被ったデジタル

 他国の時間に簡単に切り替えられるのが、ワールドタイムだ。
 電波時計が「通常のアナログ時計ではない」からこその機能である。

 通常ではないって、どういう意味?

 通常のアナログ時計と、デジタル時計の違いは何か?
 針か、数字か。

 外見はそうだが、中身にも大きな違いがある。それは、時計が時刻を知っているか否か、だ。
 通常のアナログ時計は、正確な時間で運針する機能だけがあって、今、何時かというデータを時計の側が持ってはいない。人間が針の位置を竜頭で調整するだけで、それが何時を意味するのか、時計は知らないのだ。
 一方でデジタル時計は、時刻データが必須で、それを数字として表示する仕組みだ。
 自国の時刻を知らなければ、他国の時刻も分からない。ワールドタイム機能には、アナログ時計であっても、デジタル時計と同じ仕組みが必要なのである。それ以前に、電波時計である限り、時刻データを時計の側が持つ必要がある。電波時計とワールドタイムは、同じ土台の上に立っているのだ。
 いわば、アナログの皮を被ったデジタル時計だ。
* 自分が買ったアナログ・クロノグラフには、竜頭がない。中身がデジタルなのだから、そもそも不要なわけだ。高級なソーラー電波クロノグラフには竜頭があるが、あれも本来の竜頭ではない。竜頭の操作性に似せてはいるが、その正体はデジタルなスイッチだ。

 世の中、気づかないうちに、デジタルに侵食されているわけね。


●文字盤に謎あり

 ワールドタイム付腕時計は、文字盤周囲に、アルファベットの3文字が刻まれている。
 IATA(国際航空運送協会)の都市コードで、東京は「TYO」で記され、設定時にここに針を合わせると「日本時間(JST)」の表示になる。というか、日本の時計だから最初からここに設定されている。同様に、他国のタイムゾーン(時間帯)も、代表する都市名のコードが記されている。有名な都市のない地帯は、「それってどこ?」という無名の地名が代表で使われていて、時計の文字盤が謎めいている。



↑成田(NRT)を中心に世界を見る。
( Powered by Opaku's Train Kit )

 気になって、世界のタイムゾーンを調べてみたが、意外とややこしいことが分かった。
 時差というものが、1時間単位だとばかり思っていたが、30分単位や 15分単位の差まである。ただ、自分が選んだ廉価版の時計が対応しているのは 29タイムゾーンまでで、日本と3時間 15分差のあるネパール時間などには対応していない。それを含めて、世界全40タイムゾーンに対応しているのは、高価な腕時計に限られるようだ。ヒマラヤ登山者や、完璧主義者は、出費がつらいところだろう。
* ちなみに、このページ上部にある SVG 時計は、40タイムゾーンすべてに対応している。

 タイムゾーンを代表する都市名も気になるところだ。
 中国時間を代表する都市として、自分が買った腕時計は「HNG(香港)」だったが、他社製品は「BJS(北京)」が多い。心情的には「TPE(台北)」表記の腕時計が欲しかったが、ネット通販では見つけられなかった。微妙な問題を孕んでいるので、メーカーとしても悩ましいところなのだろう。

 廉価版腕時計は対応していないが、UTC+13:00 とか UTC+14:00 というタイムゾーンがあるのも、不思議。
 地球自転一周 24時間だから、UTC(協定世界時)−12時間から、UTC+12時間までの、24時間の範囲内に収まるのが、理屈だ。
 だが、その理屈どおりにすると、南太平洋にある東西に長いキリバスという国が日付変更線で二分されてしまう。世界時の基準であるイギリスから見て、地球の真裏にあることによる事態だが、キリバスにしてみれば「ふざけんな」ってことになる。国家を二分させないためには、日付変更線を曲げて、タイムゾーンも理屈から外れた設定にするしかなかったわけだが、どの国が基準線を決めても、その裏側の国は迷惑する。仮に日本が UTC の基準線を決めたとしたら、「ふざけんな」と怒るのは裏側のブラジルである。逆に言えば、ブラジルが UTC の基準線でなくて、日本は助かったとも言える。
* 基準線を巡って争ったのは、イギリスとフランスだから、仮にフランスが勝っていたとしても、キリバスが迷惑したことに変わりはない。
 もうひとつの不思議は、UTC+12:00 と UTC−12:00 というタイムゾーン。
 どちらもイギリスから地球ジャスト半周、時刻はまるっきり同じ。しかし、日付が違う。+12 の地域が新年を迎えた瞬間、すぐ近くの−12 では大晦日が始まるわけだ。前述の+13 +14 を含めて、日付変更線周辺はカレンダーが破綻している。
* ちなみに、時計が最も進んでいる UTC+14:00 の地域が新年を迎えた時、UTC-12:00 では 12月 30日。まだ大晦日にすらなっていない。ニューイヤーのカウントダウンも、地球全体で見ると、26時間にもまたがる冗長なイベントになる。

 腕時計の小さな文字盤の中に、世界の事情が隠れていて、面白い。


 ──初の多針多機能腕時計は、素晴らしいもので、選択に間違いはなかった。
* あえて欠点を挙げれば、廉価版ゆえに「充電量確認」ができないことか。充電が少なくなった時の警告機能はあるから、実質、問題はない。だが、「常に満タンにしておきたい」という欲求を持つ自分にとっては、モヤモヤが残るのである。ちなみに、若い頃、燃料計のないバイクで、ガス欠停止したことがあり、それ以後、燃料残量を減らすことが嫌なのだ。そのトラウマは、腕時計にも引き継がれている。
* ソーラーといえども、充電用二次電池に寿命がある以上、いつかは電池交換しなければならないし、ウレタンベルトも加水分解で劣化し、いつかは切れる。貧乏根性の自分にとっては、できるだけ長持ちさせ、交換時期を遅らせたいところだが、やれることは限られている。その辺は、諦めるしかなさそうだ。諸行無常である。