作品紹介
カフカの死後、最初に出版されたのがプロツェス(『訴訟』)だった。しかし、それはマックス・ブロートが手を加えた版であり、今世紀最大の傑作の一つと言われながら、その生原稿は、カフカの他のすべての小説の生原稿が明らかになった後も、ブロートの死後も、大きな謎を残したまま、姿を現さなかった。
1988年11月17日、そのプロツェスの生原稿が突然、ロンドンでサザビーズで競売にかけられた。そして、20世紀文学としては記録的な史上最高値、110万ポンド(約2億5千万円)で落札された。
落札したのは、西独政府およびドイツ各州から依頼されたバイヤー。肉筆原稿はドイツの中央的文学館であるバーデン=ヴュルテムベルク州の資料館に収められた。
生原稿は綿密に調査され、その結果、さまざまな新事実が明らかとなった(詳細は本体の解説を)。しかも、従来の内容分析による研究とは異なり、有無をいわせぬ物的証拠によって裏付けされ、疑いのない事実として証明されたことは、これまでの長い議論にけりをつけるもので、画期的なことであった。
そして90年の夏、「フランツ・カフカ『プロツェス』――肉筆は語る」と題されて、プロツェスの生原稿の展示が、西独マルバッハ市の国立シラー博物館で催された。
本稿の翻訳は、従来のブロート版ではなく、そのカフカの生原稿からの翻訳である。
Copyright (C) 1998, Hiroki Kashiragi
p900@mars.dti.ne.jp