アイ・ウォント・ユー


石橋 尚平(★★★☆)(1月15日)
shohei@m4.people.or.jp
http://www.people.or.jp/~gokko/index.htm
この映画、賛否両論でしょうね。私は、手放しで絶賛はしないけれども、けっこういいと思うのですが…。
この映画、フィルター多用の映画なんですね。黄色とか緑とかブルーとか。綺麗なんだけれども、なんか不統一で乱雑な感じがする。『ふたりのベロニカ』とか、トリコロール・シリーズでキェシロフキーと組んでいたスラヴォミール・イジャクというポーランド人を撮影監督に招いたらしいのですね。この表現方法が気に入るか、そうでないかがまず一つの分かれ目でしょう。北イングランドの小さな港町という設定自体、寒々とした感じがすでに漂っているのに、フィルター被せて撮るのはもったいない、駄目だという人がいたら、反論しにくいですね。前にも言っているのですが、私はウィンターボトムはプロに徹した巧さの人だなと思うんですね。バラエティのあるモチーフは毎度あざといけれども、本人がインタビューで言っているように、感傷や独りよがりの思い込みを排して、『単純な映画』にしようとする人なんですね。すごく巧い人だし、懐の太さのようなものを感じます。だけれども、今回の作品は、ちょっと神話的というのか、強引な世界を作っている気がする。そこがちょっとついていけないかもしれません。エルビス・コステロの‘I WANT YOU’の繰り返されるメロディとも相まってですね(私は大好きなのですが)。でも、この映画の表現もやはり、『巧い』ということは認めざるをえないと思うんですよ。好むと好まないに関わらず。ちょっとやり過ぎと言われると、『そうだな…』と答えるし、でも、ここまで破綻を恐れず、思い切ってこういう作品にしたということは、それはそれでいいんだと思います。
次に、もったいぶって見せるのだけれども、ストーリーは予想通りでたいしたことがないという批判ですね。それは確かにそうかもしれない。今までの作品は、何か主題があざとい、はっきりとしたものだったでしょ。古典物、闘病物、殺人逃避行物、反戦物…。今回は犯罪物なんですけれども、確かに話自体安っぽい感じがする。でも、ウィンターボトムって、ストーリー・テラーじゃないと思うんですよ。渦巻く感情というか雰囲気を描く人で、説明していく人ではないんですね(これは本人のインタビューから引用)。それで、やはり今回の映画も、雰囲気や感情の描写はさすがだと思うんですよ。だから、結局は、先程の問題に行き着くと思うんですが、あのフィルター多用の表現が許せるか許せないかですね、それがすべてですね。あのフィルターが受け付けない人だと、ますますストーリーが大したことのない安っぽい作品に思えるのではないでしょうか。
どちらかというと、今まで批判的なコメントを多く読んでいるので、誰か手放しでこの映画を絶賛してくれないかな…。
PANCHAN world