L.A.コンフィデンシャル

監督カーティス・ハンソン、主演 ケビン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、キム・ベイシンガー、ダニー・デビート

パンちゃん(★★★★★)
警察組織の悪を暴く----というと、ありきたりの映画になってしまう。麻薬が絡み、ガンがからみ、女がからむ……。
ところが「平凡」を逆手にとって、非常に深みのある映画になっている。
3人の刑事の人間描写がさらりとしながら深みがある。相互の絡み合いがうまい。「おれはおまえと違う」という感じで生きていながら、事件が進むにしたがって、のっぴきならない形でつながってくる。その緊密な感じ、緊密でありながら、一気に全体を浮かび上がらせるのではなく、緊密になる過程でじわりと全体が浮かび上がる構造がすばらしい。
キム・ベイシンガーの古典的な美女の雰囲気も、とてもいい。最初の登場シーンの、カメラの動きがとても魅力的だ。
主演の4人の影に隠れて、あまり評判にはなっていないようだが、私は、ダニー・デビートの使い方も気に入っている。
4人の人間描写に深みがあるのに対してダニー・デビートのやっている役には深みが足りない。紋切り型だ。しかし、彼が紋切り型の人間を演じることで、ここで起きていることは「映画」であって「現実」ではない、という印象が生まれる。これは「映画」なんだ、という印象が、この作品の陰惨なテーマから、観客を解放してくれる。彼がいなかったら、この映画は暗い現実告発になっていただろう。
50年代の時代の描き方、テレビの描き方にも、ダニー・デビートと同じような効用がある。これは今の事件ではない、これは古い時代の事件である、という枠組みが、映画を陰惨さから救っている。
「映画」であることを前面に押し出すことで、主役4人の人間性がより自在に描き出せ、その人間性こそがあらゆる「現実」の基本であるということを浮かび上がらせる。
7月19日に石橋尚平さんが書いているけれど、本当に「堂々たる語り口」だ。
奇をてらわず、正面から2時間を押しきった久々の映画らしい映画。
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