カンゾー先生

監督 今村昌平 主演 柄本明

イングマル(10月21日)
furukawa@joy.ne.jp
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約一ヶ月ぶりの書き込みです。
昨年、カンヌ映画祭で二度目の栄冠を手にした「うなぎ」に続く今村昌平監督の最新作「カンゾー先生」を観ました。
終戦間近の岡山の田舎町を舞台に、医師としての使命に燃える町医者“カンゾー先生”と彼を取り巻く一風変わった人々を描く痛快な人間喜劇です。何が痛快かって、まずカンゾー先生のキャラクター描写が面白い。「贅沢は敵だ!」「一億総玉砕!」の時代に、患者に「いいものを食って休みなさい」と言い、肝臓炎の治療に必要なブドウ糖の配給をめぐって軍医と喧嘩し、大怪我を負ったオランダ人捕虜をかくまう型破りな熱血漢で、「町医者は足だ!」と言って往診に駆け回る姿は正に痛快そのものです。
冒頭で、柄本明が鞄を持って走る姿はいかにも劇画的で嘘臭いけど、この場面で彼の生真面目で一途な性格が充分伝わってきます。
映画の前半で、すべての患者を肝臓炎と診断するあたりは、いかにもヤブ医者といった印象を受けますが、実は医学的な根拠があり、これには戦時下の栄養事情が反映しているようです。柄本明が演じていることもあり、どうも胡散臭いカンゾー先生が次第に名医ぶりを発揮するあたりは観ていて心地良さを感じました。
またカンゾー先生を取り巻くキャラクターも、淫売あがりの看護婦、酒浸りの坊主、モルヒネ中毒の外科医など癖のある人物ばかりでなかなか魅力があります。特にひたすらバカな看護婦がすごく面白く描かれていまいた。
但し、おもしろおかしいだけの映画ではなく、戦時中の日本への痛切な風刺が込められていました。日本兵が捕虜を虐待する場面や、カンゾー先生の一人息子(外科医)が悪名高い731部隊に関与していることを暗示させる場面などもあり、強烈な毒を持った作品でもあります。
戦争によって価値観を歪められた人々は病原菌、そして敗戦直前の日本はあたかも瀕死の重病人をイメージさせます。ラストの原爆の描き方には、正直なところちょっと抵抗を感じましたが「黒い雨」と同じ監督が撮ったと思うと、今村昌平の芸の幅の広さを感じさせられます。
笑いの中にも今村監督の骨の太さを痛感した一本です。