キスト


イングマル(9月15日)
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坂本さんのご意見を読んで、観る人によって解釈の別れる映画だなあと改めて感じました。ここで、私なりの解釈を書かせていただこうと思います。
私が、まず真っ先に感じたのは映像が美しいと言いうよりは、とにかくリアルだということです。鳥の死骸や主人公の女性のそばかすだらけ顔など質感が画面に実によく表れているし、ちょっとした表情の変化までカメラがしっかりと捉えています。これはやはり女性監督ならではの繊細な演出だと思います。
そして、何よりこの映画の特異な点は“死体愛”という大胆なテーマを、ごく普通の恋愛のようにサラリと描いていることです。デンマーク制のホラー映画「モルグ」では、死体とのセックスはグロテスクで変態的な行為として描かれていましたが、この映画では、主人公のサンドラと死体との性行為の場面がとても官能的でした。
“死体愛”なんてまったく現実味のないテーマですが、私はサンドラが本当に愛しているのは死体だけだと感じました。少なくても(生きている)恋人よりは死体を愛していたと思います。ここが坂本さんと大きく解釈の異なる点ですね。クライマックスで、自殺を引き止めようとサンドラは恋人に「愛している」と言いますが、私にはあの台詞は気安めにしか聞こえませんでした。
彼がサンドラに多くを望み過ぎた感も否めませんが、彼は死体愛も含めてサンドラを理解してすべてを受け止めようとしたけど、彼女はそれを拒んだわけです。まあ、恋愛に対する二人のスタンスの違いかもしれないけど、サンドラの恋人に対する態度は終始余りにも冷めているように感じました、私は・・・。
それにしても、死体に嫉妬しなければならない男の姿というのも哀れですね。でも私は彼の気持ちが少しだけ解ると言うか、少なくても真っ向から彼の行為を否定する気にはなれないんですよ。
彼としては、サンドラに本当に愛されるには自分自身が死体になるしかなかったわけですから、観方によっては、あのラストは悲劇ではなくハッピーエンドなのかもしれませんね・・・。
評価は★★★です。
坂本恵利子(9月10日)
ところで、先日「キスト」を見ました。
雑誌であらすじを読んで、明るくなさそうだなと思いましたが、見ると鳥肌が立つ くらい不気味な映画でした。
何が鳥肌ものかというと、死にひかれつづけている主人公の女性(サンドラ)が 、死んだ小鳥とかねずみを撫ぜたり、頬ずりしたりする場面があるのですが、その 毛並みとか手触りがありありと感じられて、ほんとに自分が触れているような錯覚 にとらわれてしまって。そんな自分が不気味でした。
なぜ彼女が死体を愛するのか。なぜ、彼女の秘密(死体とのセックス)を知っても 、彼は彼女を愛しつづけるのか。すごく不思議なのですけど(特に後者)、なにも 自殺までしなくてもいいのに・・・。
サンドラは秘密をやめるつもりはないけど、でも生きている彼との恋も大切にして いたと(私は)思うのに、死んじゃうなんてひどいと思います。これじゃあ、サン ドラはほんとうに死体しか愛せない人間みたいじゃないですか。
誰にも話さなかった自分の秘密を打ち明けて、それをうけいれてくれた彼だからこ そ、サンドラは愛するようになった(と思う)のに。
彼女にとって、死は光に満ちた世界で、彼女に心から愛されたくて自殺した恋人は その目が眩むような光の中にいる。そうかもしれないけど。恋に死んだ彼はいいか もしれないけど、残された人のことをもうちょっと考えて欲しいと思いました。
いろいろ彼に文句はありますが、きっと私好みの俳優さんじゃなかったからだと思 います。もし好みの俳優さんだったら、きっとケチつけなっただろうなぁって。
光の使い方がとてもきれいで、たしかによかったのですが、後味の悪い心地よさと でも言えばいいのでしょうか?
鑑賞眼のない私には難しすぎたみたいです。どなたか、ご覧になった方の感想を知 りたいです。
ただ、この映画館はあまり熱心にお掃除をされていないと見えて、ハウスダスト ・アレルギーの私には辛かったです。