コーカサスの虜


監督 セルゲイ・ボドロフ 主演 オグレ・メンシコフ、セルゲイ・ボドロフ・ジュニア、ドジュマール・シハルリジェ、スマンナ・マフラリエヴァ

パンちゃん(★★★★★)
解放されたロシア兵がヘリコプターに向かって叫ぶ。だが、声が届かない。ヘリコプターは兵士の上を越えて、彼がそれまで捕虜として捕らえられていた村の方へ飛んでいく……。
そのとき、ふいに涙がつきあげてくる。
少女が首にかけていた首飾り。捕虜の前でのダンス。恋とも呼べないようなひそやかな思い。その表情。ロバを追いながらの麦の脱穀(?)。捕虜二人のサッチモの音楽に合わせてのダンス。美しい山の風景。透明な風が見えるような自然の美しさ。……。
見てきたものすべてが、一瞬の暴力で消えてしまうのだという、絶望、悲しみ、怒り----何も具体的なことを映画は描かないが、その描かなかったものが、どうしようもなく切実にあふれてくる。
どう表現していいのか、わからない。
少女の顔がいい。若い兵士の顔がいい。素朴で人間っぽい。老人の張り詰めた顔も、舌を切られ、口をきかない男の顔もすばらしい。みんな、人間の顔をしている。生きている人間の顔をしている。それがすべて消えてしまうのだ。愛が消えてしまうのだ。