グッドバイ・モロッコ


監督 ギリーズ・マッキノン 主演 ケイト・ウインスレット

パンちゃん(★★★★)(1999年7月14日)
うーん、怖い。
ケイとは存在自体が怖いが、やっている役柄がもっと怖い。
夫に対して欲求不満があり、娘2人を連れてモロッコへやってきた。そこで自分探しをやる。
回教徒の師を訪ねて、改宗しようとする。改宗すれば自分が救われると思っている。
で、改宗するのかといえば、師の「涙」の意義についての問答で本当の自分の心を探し当て、結局改宗はしないのだけれど。
その過程の、苦悶とわがままが怖い。ただし、その怖さが魅力でもある。こんなに強烈に、理不尽にわがままに苦悶できるエネルギーが彼女の心のなかにある、ということはとてもすごい。なんだかうっとりしてしまう。
さらに二人の娘も怖い。上の娘の、母への憎しみと愛の入り混じり方も怖い。下の娘の怖い話を好む性格も怖い。怖いけれども、やはりうっとりしてしまう。
苦悩と悲しみと怒りと憎しみしか存在しなかったようなモロッコなのに、そこを離れる瞬間に、いかにその土地に魅了されていたか、どんなに影響されていたかを母も娘も3人とも、心の奥から感じ取り、またモロッコへ来たいと思うところは最高に怖い。
人間の感情は、思いのままにはコントロールできず、どんなに乱れても自分でしかありえず、しかも乱れれば乱れるほど強く自己主張するようになり、美しくなる、というが何とも怖くて、うっとりする。
さすがに砂漠の力だと思わずにいられない。この荒れた風土の中で花開いた宗教の絶対性と幻想の文学の伝統をひしひしと感じさせる映画でもあった。
その強烈さに耐え、対抗して行くにはやはりケイトのようながっしりしたヨーロッパの肉体が必要だとも思った。