ニンゲン合格


監督:黒沢清 出演:西島秀俊、役所広司、菅田俊、麻生久美子、りりィ、哀川翔

atsushi onodeara(1999年8月19日)
onodera@iname.com
まったく同様の意見です。
「ニンゲン合格」は素晴らしい映画でした。
昨夜、そして今日と二回も見てしまったのですが、二回とも目頭を熱くしてしまいました。
久しぶりにものすごく感動したので、思わずWebで調べてみたのですが、なかには「あまり好きになれない」とか、「わからない」といった意見もあるようですね。
ほぼ全面的に肯定しているのはこのページくらいだったと思います。
ちょっと嬉しかったので、書きこみしてみました。
じゃ、頑張ってください。
タカキ(★★★★★)(2月8日)
TakakiMu@ma2.justnet.ne.jp
さて、困った。何を書けばいいのかさっぱり分からない。この思いを皆に伝えたいのに、、。
西島秀俊が、ぐにゃっとしている。空虚だ。ひとつの画面からたくさんのことを読みとろうとすればするほど、なんだか虚しくなってくる。切なくなってくる。悲しくなってくる。泣きたくなってくる、、、。しかし、フィルムはそんな私をよそに、無表情に流れてゆく。
役所公司の最後のセリフが忘れられない。涙があふれ出てくる。しかし、ちょっと待て。本当にここで泣いていいのか?だって、れいぞうこだよ?真っ白で、無表情な。だって、極悪産廃業者(!)だよ?このヒトは。だって、、、、、、、、、、。
黒沢清は意地が悪い。でも、こんな映画こそ私たちが必要としているものではなかったか?
ユ−トピアとはまったく別の地平に、真に希求されるものが、確実に、存在した。
素晴らしすぎる。傑作。
石橋 尚平(★★★★★)(1月27日)
shohei@m4.people.or.jp
http://www.people.or.jp/~gokko/index.htm
最近、点が甘いんじゃないかと思われそうですが、この映画は本当に凄い。日本映画 の一つの到達点だと私はきっぱり言い切ります。それくらい凄い。
何が凄いのかというと、『空気』なんですよ。絵から出てくる空気。これはなかなか 出来ない映画だと思います。黒沢清監督の前作『CURE』をご覧になった方は御存 知なように、派出所の年配の警察官が後輩の警察官を殺害するシーンは、カメラをロ ングで撮っていますよね。あの淡々とした日常の光景の中での凶行のシーンです。こ の映画はあの感覚をもっと押し進めたものだと考えてもらっていいです。『CUR E』よりもさらに『空気』の密度が高まっています。この映画『奥行き』の映画なん ですね。ビスタサイズで撮っているのも、それを狙っているからでしょ。縦に長い画 面を使って、登場人物が手前−後ろに動くようになっているわけですね。
『CURE』の撮影の時に、黒沢監督はイランのキアロスタミの映画のビデオを出演 者に見せたそうです。あの、ドキュメンタリーともフィクションともどちらともつか ない、素人の演者たちが自然に動く映画を見せることによって、出演者が演技の拘束 から解放されて、何か自由な動きを見せる…そういう動きを狙ったのが『CURE』 の一部のシーンだったと思うんですね。この映画の場合、その『狙い』から一段高い ところに行って、それこそ再現不可能な独特の『空気』が醸成されている…そういう 感じがしました。
監督の話によれば、(不遜だけれどもと謙遜しながら)、自分に一番近い監督が、台 湾の楊徳昌(エドワード・ヤン)だということです。そう。これにはハタときまし た。そしてこの自覚が嬉しかった。黒沢監督同様、根底にアメリカ映画的なものが あって、それとは違う何か異化的なものを映像とその『空気』に醸成させているの は、ほかならぬエドワード・ヤンですからね。
役者たちは突然走り出したり、看板に頭をぶつけたり、相手を殴ったり、釣り堀の池 にはめられたり、駄々をこねたり、それを強引に引っ張ったり、石を投げたりしま す。この有機的な動きは、どこか非現実的でありながら現実感に満ちており、自由で ありながら不自由であり、自然でありながら不自然であり、何も手が加えられていな いようでいて演出が効いており、淡々としながら人間味に溢れています。崩壊した家 族が再びかつて住んでいた家に集まり、また散開していく様は感動的であり、また必 然である気もします。
冒頭の病院のシーンで、24歳の主人公(西島秀俊、彼が素晴らしい)が10年間の昏睡 状態から突然目を覚ます時、看護婦はベッドから落ちる彼を遠くから呆然と見守って いるんですね。カメラは病室のドア越しでロングの状態なのですけれども。この『空 気』が素晴らしく、ここからぐいぐいと引き込まれます。釣り堀になり、産業廃棄物 の収拾場となり、ポニー牧場となる吉井家の古い建物と広い庭も素晴らしい。終わり 方があっけないのも、『CURE』と一緒でこの人の映画らしく、私は好きです。最 後の絵がまたキマっていますしね。


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