ラブ・ゴー・ゴー

監督:陳玉勲、出演:タンナ、陳進興、廖彗珍
石橋 尚平(★★★☆)(12月12日
shohei@m4.people.or.jp
台湾ニューウェーブの新作(どうせ東京と大阪でしか公開されないかもしれませんが…)。監督は陳玉勲(チェン・ユーシュン)で二作目です。前作『熱帯魚』もそうだったけれども、この監督のちょっと感傷癖のベタなところは私はちょっと苦手なはずなんですよね。寂しさを紛らすための空想による現実逃避の姿に感情移入できないし、笑ってあげることもなかなかできないんですよね…。ああも登場人物にインパクトがあると…(あの二人の肥満の男女はいずれも素人オーディションだそうです)。だけれども、その点が逆に輝かしく思えるくらい、この人の映画のセンスはしっかりしています。例えば、この映画だと(『熱帯魚』もそうだけれども)、原色を中心にした色彩感覚がいいですよね。この人、何かそういった性格付けにはまりきらない何か強いポップな感覚がある。その優れた感覚を切れ味鋭い匕首のように懐に隠し持っているんですね。他の台湾映画の監督同様。このポップな感覚がなかったら、『ダサいけど味わいのあるアジア映画』として括られてしまうでしょう。でも、この映画がその辺の香港映画とか、『ムトゥ・踊るマハラジャ』というような、下らない単なる『後進性の映画』なんぞとは違うのは(いくら、シニカルにその『後進性』を笑いに理屈づけても、観て喜ぶ側の同様の『後進性』が露呈するだけ…)、この切れ味なんですね。やはり台湾映画には何かがある。くどいようだけれども、前に『河』の感想の時に言ったように、台湾映画は数は少ないとは言え、単なる土着性にとどまらない、研ぎ澄まされた鋭敏な感覚に満ちている。そして世界共通語とも言える映画的な感覚が根づいていて消化されているから、それに強い独自性が加わって世界標準のフロンティアに位置づくんですね(この映画をその台湾映画の『先進性』の代表とするには、ちょっと役不足だけれども)。考えてみれば、先日パンちゃんが観た『河』の葵明亮(ツァイ・ミンリャン)とは逆の方向性なんですね。都会の孤独を削ぎ落とした映像で対照から距離を置いて不安の『気』を描く葵明亮に対して、陳玉勲はどこかベタな感傷や笑いに収斂させていくんですね。だけれども、この映画でも、後半のビルの屋上のシーン(このシーンのオチはあまり感心しないけれども…)で、やはり、同じ台湾映画的な遠近感が出てくるんですね。この感覚が素晴らしい。前日行った小津映画のシンポジウムで、侯孝賢がパネラーの一人として出席していて、あの映像の遠近感の理由を語っていましたけれども、『クローズ・アップで役者を撮るのが嫌いだから』…という身も蓋もない言い方でした(笑)。 とにかく、台湾映画を観てください。
しかし、どうして台湾なんだろう?


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