ラブ&デス

監督:リチャード・クウィートニオスキー、出演:ジョン・ハート、ジェーソン・プリーストリー、フィオナ・ロウイ
そん(2月15日)
ああ、パンちゃん惜しかったですねえ。「ビッグ・リボウスキ」と一緒に観ちゃあ勝負にならないもん。
たぶん現代の多くの映画はコーエン作品の直後に観ると、落ちて見えるのではないでしょうか?
で、「ラブ・アンド・デス」。これはなかなかすごいです。まず前半はお笑い。だってB級アイドルの切り抜き帳つくったり、ビデオ買おうとして電子レンジみてたりするんだよ。大爆笑。周りはくすりともきていなかったので、1人で肩をふるわせていました。
後半になると一気にせつないモード全開!!ロンドンのクラシックな街では作家の奇行はブラックユーモアだけど、ロングアイランドの眩しい日射しのもとではその情熱(というか愚かしさ?)がせつなくて哀しい。完璧に感情移入してしまいます。
“主人公への入り込み度”は今年に入って(まだ2月だけど)N0.1です!
パンちゃん(★★)(2月1日)
私はこの映画を『ビッグ・リボウスキ』と同じ日に見た。これは、とても重要なことだ。もし別々の日に見たなら、『ビッグ・リボウスキ』は★2個、『ラブ&デス』は★3個になったと思う。ところが同じ日に見たために、『ビッグ・リボウスキ』は★4個、この映画は★2個になった。
この映画のどこが『ビッグ・リボウスキ』に比べて劣るかといえば、ストーリーがあるところだ。ストーリーがあるゆえに、何だか映像が面白みにかける。映画そのものの醍醐味にかけてみえる。
*
私がこの映画で一番驚いたのはニューヨークの描写。ほんの一瞬のビルの描写なのだけれど、うーん、こんなニューヨーク見たことがないなあ、と思った。それは主人公の作家の見たニューヨーク、イギリス人の見たニューヨークになりきっていた。
それにつづくアメリカのロングアイランドの風景も、アメリカ映画で見る海岸の描写、郊外の風景とは微妙に違っている。
こういう瞬間が、実は、私は大好きだ。(メイベル・チャンの『誰かがあなたを愛している』のニューヨークも、アメリカ映画のニューヨークとは違っていた。波の形さえ違って見えた。)
あと、ジョン・ハートの着ている服の材質の感じ。これもアメリカ映画とは違うねえ。最後の方で、若い俳優がジョン・ハートの肩に触れるが、そのとき上着に残り、消えて行く指の形、指の形を受け止めるウールの感じが、うーん、すごい。いい服着ているんだなあ、と、つくづく思った。この感じは、絶対にアメリカ映画にはない。
アメリカ英語とイギリス英語が音質において全く違うように、アメリカ人の視線(視力)とイギリス人の視線(視力)は全く違うんだねえ……。
この違いがもっともっとストーリーに絡んでくると傑作になったと思う。
*
『ビッグ・リボウスキ』が面白いと思うのは、登場人物の視線(視力)というものが、映像にはねかえっているからだ。
登場人物のそれぞれが見る風景がそれぞれに違っていると感じられることだ。
極端な話、ジェフ・ブリッジスが見るダンスの幻影は、ジョン・グッドマンがけっして見ることのできない幻影だとはっきりわかる。
そうした個人とき個人の違いを明確に映像として描写できるところがコーエン兄弟のすばらしいところなんだと思う。
(この感想は単独で読んでもよくわからないと思う。『ビッグ・リボウスキ』の感想とあわせて読んで下さい。)
石橋 尚平(★★★★)(12月16日)
shohei@m4.people.or.jp
予想以上の収穫。「ベニスに死す」のような老いらくの同性愛を描く作品を気負いなく、感覚的に描いている。この映画は繊細な感覚に満ちている。だから厭味にならない。そう簡単にこの映画の繊細さは真似できるものではない。繊細さは些細さでもある。深遠な意味、意味のない空虚。シニカルにしてユーモア溢れ、現実とファンタジーが交差する。英国の老作家と米国の若手俳優。監督はイギリス人にしてアメリカの大学卒業の経歴。グレート・ブリテン島とロング・アイランド。ロンドンの硬質、ニューイングランドの柔らかさ。老作家はロ地図上のロードアイランドと若手俳優の住む指でなぞる。夭折した詩人の絵画、メッセージ性のない映画『ホット・パンツ・カレッジ2』の中の若手アイドル。うろたえる老作家と大胆な老作家。E・M・フォスターと『ホット・パンツ・カレッジ2』、クラッシック・カーの雑誌とアイドル雑誌。すべての微妙で繊細な境界は潜在意識の中で震えるように揺らぐ。ロジックや言葉で掴めない何かをうっすらと輪郭を描くようにこの映画は丹念に描きこんでいく。まるで彼が住む地図をなぞるように。ほのかな夢、あらかじめ予想している結末。重ねられたディティールは、この老作家が講演で話すように、『何度も繰り返し観たものが、ある瞬間美となって輝きはじめる』。イングランド発祥であるがゆえにクールなリーボックやスティーブン・キングの著作や、ガンズ・アンド・ローゼズのCDが何か意味のあるもののように思え始める。ほら、その証拠についには『ホット・パンツ・カレッジ3』にエマーソンが浸食してきたではないか。繊細と浸食。境界の喪失…
終盤のアメリカン・レストランでのシーン。ここでのボディ・ランゲージは本当に素晴らしい。あのそれまでにゆっくり膨らんでいった繊細さの空気が一気に輝くかのような『間』。今年最高の『間』である。この『間』を見逃した人は、今年の映画を分かった口をきいたような総括をしないで欲しい。



PANCHAN world