LOVERS(ラ バーズ)


はせ(2004年10月7日)

 お見事、というしかない出来映え。劇場へ足を運んでよかった、また映画を見てやるぞ、という気持ちに自然になれた。こういう気持ちになれることは滅多に ない、寧ろ反対の気持ちの方が多いのかもしれない。
 チャン・イーモウとしても前作の「HERO」をはるかに上回る。とにかくアクションに目を見張るものがある。アクションというよりは、殺陣とダンスと奇 術的トリック(CG)が融合合体してこれまで見たこともないスペクタクルに仕上げてしまった。映画好きはやっぱりアクション好きなのだな、ということをあ らためて自覚させられた。面白い!と喝采したい気持ちと、さあ、次はどうなる?という気持ちが時間的にほとんど同時に喚起され、画面に釘付けにされる時間 が長くつづく。
 唐の時代、妓楼の売れっ子チャン・ツィイーを反乱軍の手先と疑って、軍のアンディ・ラウが捕縛にやってくる。彼女は「盲目の踊り子」という触れ込みだ。 「本物の踊り子なら、その舞を見せてもらおう。」と、傲然と賓席に腰を下ろすアンディ・ラウ。皿に盛られた殻付きの大きい豆(石ころにも見えるが。)を、 ホールを囲うように置かれた多数の太鼓のひとつに投げつける。「盲目」らしく敏感にその音に反応してツィイーがひとしきり舞い、左足を頭上高くあげたまま 静止する。お見事!と私は感応する。その感応はアンディ・ラウもまったく同じで、興に乗ってどんどん豆を太鼓に当てていく。その間隔が短くなり、ツィイー の舞もどんどん激しくなる。豆が太鼓に当たって跳ね返り、別の太鼓に当たる。さらに豆がいち時に投げられる。興趣を盛り上げようと、間髪を入れずに琵琶を 抱えた男たちが勢揃いする。その狂乱の舞のさなか、ツィイーの腕よりも長いピンク色の袖の先の短剣が、生き物のような動きで、ラウに襲いかかる。
 もう、何が何だかわからないうちにどんどん事態が進行する。ここにその過程の逐一を書こうとしても、とても全部覚えられないから書けない。けれども心地 よい。「観る」ことの醍醐味とはこういうことだろう。省略するが、のちの竹林でのアクションもさらに見応えがある。  
  
 物語のテーマは愛。裏切り者に見せかけてチャン・ツィイーを助け出す金城武だが、彼の「風のように自由に生きたい」という言葉に彼女は揺すぶられる。 ツィイーにはかねてから約束した恋人がいるのだから、ここは鑑賞者は、彼女の態度をすこしくらい疑問視してもよいはずだが、全然そんな気持ちが湧いてこな い。文芸ものとアクションとのちがいで、アクションによって私たちは既に煽られていて、逆に画面の人物に向かって私たちが煽り返そうとするのだ。「遠慮せ ずに、さっさと好きなようにしろ!」という風に。金城武もほんとうの裏切りを覚悟する、当然だろう。それにチャン・ツィイーが進行に従ってどんどん美しく なる。錯覚かもしれないが。
 やがて嘗ての恋人はツィイーの変心を知ることになり、彼と金城との対決へと不可避的に導かれる。こういう話は映画で飽きもせずくり返されるが、本作は粗 雑ではない。工夫が足りないのかもしれないが、奇をてらうよりも平均的なお話と進行の方が、アクションの煽りと酔いを引きずり続けやすいのではないか、そ の網をかぶせやすいのではないか、そんな気がする。
 最後に来て、アクションが物語に追いつき、合流する。観念となって昇華する。チャン・ツィイーの身体から投げ放たれる剣が死、それを追いかける血の一滴 が愛、という風に。★★★★


めるさまいのち (2004年9月9日)
ひぇ〜〜〜!!!
そ、そーゆー↓映画だったんですかぁ〜〜〜。
あたしは、意味が全然わかりませんでした。
なに? これ? 「国家」はいつ出てくるの?
「歴史」はどーしたの?
盲目の踊り子の使命は……?
「三つの愛が仕掛ける」って、いったい何を仕掛けてるの?
もしかして、「女座頭市」?
という期待も裏切られ……
なにかをわかりたくて((;。;)→なにをだ?)、調べました……
金城武は、日台のハーフで、バイリンガルだとか、
アンディ・ラウは、40越えてるとか、
チャン・ツィイーは、「踊り子学院」(とゆーか……)を出ているとか、
おまけに本作には出てないマギー・チャン、トニー・レオンの経歴とか……
レスリー・チャンの享年とか飛び降りたホテル(合掌)とか……
それで、なにかわかろうはずもない。
あんまり、panchanの文章は読まない私ですが、チャン・イーモウ関係は、専門家なのかなー?と思って、拝読しました。ひさびさ、感心。
だいたい、「前カレ」が、血の飛沫を投げたなんて、全然気がつきませんでした。とゆーか、その場面は見てましたが、それに「意味」があったなんて……
あー、やはり、『バイオハザード2』かなー?とわけわかんないこと言って終演。

panchan(★★★)(2004年9月9日)
これはチャイニーズ・オペラですね。
華やかに、ただひたすらに華やかに映像の饗宴を繰り広げる。
映像を彩るのはもちろん恋愛。
この恋愛につじつまはいらない。
突然好きになって、突然裏切って――だって、それが感情なんだからしようがないじゃないか、ということを「音楽」(映画だからもちろん音楽もあるけれど) ではなく、映像の美しさで圧倒して納得させる。
まあ、やりたい放題ですね。
私は大変感動して見ました。
おお、ここまでやるのか。ここまでいい加減か……。
これでもか、これでもか……には、完全に酔っ払ってしまう。
酔っ払せる力が映像にある。
すごいもんですねえ。

最後のシーンの、かつての恋人が短剣を投げるふりをして、血の飛まつだけを飛ばす。これがかつての恋人が見せる最大の愛の瞬間ですねえ。
でも、ヒロインは、男が恋人を恨んで、殺すためにナイフを投げたと思い込む。そして恋人を守るために身を挺して短剣を投げる。
ヒロインの投げた短剣に血の一滴がぴたっと当たる。
この瞬間の、男と女の激情がすばらしいですねえ。
男はヒロインの愛情の強さを知って、恋敵を殺すのではなく、一歩手前で踏みとどまったのだけれど、その踏みとどまりをヒロインは理解できず(今の恋人を救 いたいという自分の感情で一杯になっているから)、身を滅ぼしてしまう。
おお、ギリシャ悲劇も真っ青の、チャイニーズ悲劇。
男も泣けば、風景そのものも慟哭する。そのときの雪が見事です。

ところで、この間、風景は、秋から冬へと移り変わる。
それくらい長い間(感情的に、ということだけれど)、愛のドラマはつづいているんですねえ。
かっこいいですねえ。
むちゃくちゃな時間の処理が、強引で、とてもかっこいい。

「初恋の来た道」「あの子を探して」「至福のとき」のような映画もいいけれど、こういった、豪華絢爛なのもいいなあ。
「どうだ、この映像かっこいいだろう」という監督の声がスクリーンからあふれてくる。
うん、かっこいい。
あきれるくらい、かっこいい。
やれやれ、もっと、やれやれ、と私はこころの中で叫びながら見ました。