楽園をください



NEK(2001年6月24日)

★★-☆
 『臥虎伏龍(グリーン・デスティニーと全く共通点が見出せないタイトルだね)』にしてもアカデミー賞にノミネートされた(個人的には全然面白いと思わな かったが…)ってのに全然宣伝もされないもんだから劇場はガラガラ。で、今度こそはヒットすると良いねとかなんて思いながら、又もや空席目立つ映画館に足 を踏み入れ(平日だったからかしら?)、「『Ride with the Devil』が『楽園を下さい』ですか、適切な意訳なのかしらん」と思って映画を見たんですな。
 で第1印象が「宣伝って重要ですよね」ってヤツですかね。「ヒューマンドラマの名手である中国系監督アン・リーがアメリカの奴隷解放戦争であった南北戦 争を映画化!」、「アン・リーが西部劇を手がける!これぞ西と東の融合」てな売り文句でも出してやったらヒョットしたら『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とま では行かなくても、そこそこヒットしたんじゃないんでしょうか?今1つメジャー性に欠けるとは言え美形スターも出ていますし。アン・リーって人は金がか かってそうな映画程、日本では上映環境が報われない運命を背負っているんでしょうか?
 で2時間余り経過して映画館出て、遅い昼飯をチェーン展開しているカレー屋で飯を食いながら「新しいゲームでも物色した後、ケーキでも買って帰ろっか」 と思ってたんですよ。
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 え?肝心の映画の内容に関して全然触れていない上に、どうだって良い昼飯話なんかするな?いやですね。私も一生懸命書こうとしているんですが出てこない んですよ映画に関してこれと言う言葉が。
 て、言うか「薄い」。この一言に尽きる映画だと思います。

 多分エンドクレジット見た第1印象が「我々が求める楽園って何だろう」と言うのがこの映画の本当にあるべき受け止め方なんでしょうし、戸田奈津子さんの 意訳も意味をなすのでしょうが……第1印象(ツーか唯一印象に残ったもの)が「ジョン・ウーと比べて銃撃戦がタルいなぁ」と事と「マイヤースってチンピ ラっぽいけど格好よいなぁ」だけ。
 確かにアン・リーとしては人の生きる意味や人間の命の尊厳といった立派なテーマを扱いたかったんだろうとは思います。黒人の使い方も面白いしトビー・マ クガイヤも好演してると思います。けど極端な話「どーだって良いや」て感じ。
 銃撃戦が足りないと言ってる訳じゃないんです。銃撃戦がジョン・ウーみたいだったらそれはそれで困っちゃいます。時代考証ミスがやたら多い(と言う噂) 事も不問に付します(と偉そうな事言ってますが不勉強な私にとって、どこがおかしいのか判りませんでした。誰か教えてプリーズ…)。
 けどテーマの御立派さ、壮大さと作品の面白さがあんまり結びついていないのが、この映画の辛い所。薄いのはアクションでもなく俳優でもなくドラマ。「南 北戦争舞台に人種差別と生きる意味を問う映画」って言う言葉だけで説明がついてしまう。主人公からしてキャラ立ちが弱い、4本指云々とエピソードだって赤 ちゃん喜ばす為だけに使われちゃう。友人の死によって自立する黒人だって関心はすれど全然心に訴えてくるものがない。ローレンスの大虐殺に至っては『アラ ビアのロレンス』の方が凄いじゃんって感じ。
 とにかく万事が薄く、印象に残ったのはマイヤースの「俺は故郷に…」のエピソード位(誰ですか? 「それってキネ旬のパクリやろとか言ってる人 は…………その通りですよ!!)。
 同じ様なテーマを扱っている筈なのに題材が違うと何故、他の彼の作品と比べて凡庸に映るんでしょうか?

 なんてモヤモヤした状態でカレーを食べていたら、一緒にこの映画見た友人が一言『これって究極的にはプロジェクトXかNHKドキュメンタリーのドラマ版 じゃん』て言ったんです。それで得心が行きました。前回見た『グリーン・デスティニー』に関しても。
 プロジェクトXやNHKドキュメンタリーって良心的な作りをしてますよね。リサーチも綿密に行っているようですし(ヤラセに関してはノーコメント)、社 会への切り口も鋭い。
 けど、これを5本連続、4時間位見つづけたら何が残るでしょうか?案外「社会には多くの問題がありますね」とか「偉い人もいたんですね」と言う一点のみ が残るだけで、枝葉の部分は実は殆ど残ってないんじゃないでしょうか?  実は私にとっての映画ってのある意味、枝葉の部分が結構重要で、主題=幹ばかり太い映画って言うのは案外面白い形として受け止められないものなんです よ。で、ここから勝手にNHK…もといNEK流の作家論(と言うか思いこみ)をぶちかましますと…以下の様になる訳デス。

 アン・リーって監督は人間描写に関して非常に理詰めで作るタイプに近くて、繊細な演出を身の上とする(つまりインテリタイプの)映画作家です。それが上 手くハマる、平凡な人々を題材とするホームドラマの様な小世界を舞台とした(つまり幹が細くて、枝葉をたわめ易い)題材を扱うと『アイス・ストーム』みた いな良質の作品を提示できると言う事。
 しかし平凡とは対極に位置する超人的なヒーローやヒロインが、空を飛び交い剣だの愛だのをやりとりする武侠作品や、人間の意思だの全く意に介さないが如 きうねりを見せる戦争ものの様な(つまり幹や枝がぶっとく曲げにくい)題材を前にすると何とも中途半端で芸の足りない印象薄い作品になってしまうんじゃな いでショーカ?
 幹が太い場合には、時には力押し的演出(つまりはハッタリ)がモノ言う場合もあるんですが理を重んじるアン・リーには案外それが出来ない。故に彼の理 屈っぽい所ばかり目に付いて物語が絵解きで終わってしまっていると思うんですな。
 まぁただ単に演出法がワン・パターンで不器用なだけかもしれませんが。

 個人的にはホームドラマが得意だと思うアン・リー師父、次は武術師範の一家を舞台に、襲い掛かる不倫、子供達の非行、そして家族離散を描くカンフー版 「幸せの時間 原作:国友やすゆき」でもやったらいかがかしら…。
キングギドラ(2001年3月 28日)
「楽園をください」を観てきました。感想としては、久々に正統派娯楽活劇を観た!!というイメー ジが強かったのですが、どうも…少し難しい友情の物語でした。
例えて言うなら「黒澤明時代劇」+「明日に向って撃て!」+ジュエル…といった所でしょうか。かなりかっこよかったです。
所でジョナサン・リース・マイヤーズ(「タイタス」「ベルベット・ゴールドマイン」等。「楽園…」では一番残酷なキャラなので一番目立つ)、彼本当に、 (いい意味で)曲者俳優ですねえ。
評価としては5段階で★★★+★2分の1といった所です。
84点。

とみい(2001年2月19日)
南北戦争で南軍のゲリラに参加したドイツ系移民の 青年の成長を描く。
「グリーン・ディスティニー」よりよっぽど面白いけど こっちはアカデミー賞に絡まなかったんだよなあ。
アン・リー自身がアメリカ社会の“異邦人”(変な日本語 ですが、他にいい表現を思いつかなかった)であって、 その社会と完全に溶け込めないがゆえの冷めた視点が この映画の登場人物たちに強く投影されていることが、 好むと好まざるとにかかわらず(私は共感する)、 オリジナリティを生み出しているのは確か。
それから、ジョナサン・リース・マイヤーズの演技は出色。
彼の狂気が最終的にどう主人公に襲いかかってくるのか マジで怖かった。
トビー・マグワイアは何にでてても宇宙人のようだなあ。
★★★☆