ライブ・フレッシュ

監督 ペドロ・アルモドバル 主演 リベルト・ラバル、フランチェスカ・ネリ、ハビエル・バルデム、アンヘラ・モリーナ、ホセ・サンチョ

そん(10月7日)
パンちゃんと同じく、天神東宝で観ました。
スペインの現代映画は殆ど観たことがなかったのですが、冒頭の市バスでの出産シーンから引き込まれてしまいました。
テレビドラマでは、出産の時に妊婦は歯を食いしばって眼をぎゅっと閉じていることが多いように感じますが、この映画では母親は眼をとろんとさせて口を半開きにし、動物のようにうーうーと唸っていました。
私は出産経験もその場に立ち会ったこともないのですが、きっとこれが現実なのでは?
車椅子のダビドがかっこいいわー、と思いながら観ていたのですが、だんだん瞳に不安や焦燥がたたえられ、それもまた、たまらん!って感じでした。
ビクトル君もスペインのピュアなユアン・マクレガーのようで素敵。
女性陣も赤いドレスが似合って魅力的でした。
エンド・ロールでたくさんのファッションメーカーの名前がクレジットされてましたね。
プロットがしっかりした映画が好きなのですが、(原作はルース・レンデル!)この作品はプロットの骨太ぶりを感じさせない(つまり、役者や映像がそれに匹敵するほど素晴らしい)観る人を幸福のどん底(?)に陥れる作品です。
恋愛の摩訶不思議についても色々思いを馳せましたが、長くなりそうだし自分の中でもよく整理できていません。
とにかく、必見!
もちろん★★★★★です。
きり(★★★★)(9月25日)
noriko@sec.cpg.sony.co.jp
また、簡潔な感想しか言いませんが、面白かったです〜♪
さすがにラテンの男は愛し方が激しくて濃くて良いですねぇ〜〜
サンチョのしつこさにはちょっと参りますが、私もあれくらい愛されたいものです(笑)ラテン男を選べば良いのか!?!?
しかし、浮気したら最後、殺されそうですね(^^;
この監督さんの映画は今まで見たことがなかったのですが、良いですねぇ〜濃くて。あの濃い〜〜ラブシーンでの濃い〜歌!
爆笑してしまった…。ニッポンで言うと漁師の歌って感じかしら?
ぜひ、この監督がとった、バンちゃん(パンちゃんじゃないよ・笑)を観てみたいと思います。。。
パンちゃん アルモドバルの撮ったバンちゃんはぱんちゃんと同じくらいかわいいよ。(笑い)
『欲望の法則』見てね。
パンちゃんはこれでバンちゃんのとりこになった。
危険な関係だな。
パンちゃん(★★★★)(9月23日)
この映画はアメリカ映画が省略するようなシーンを、愛情をこめて丁寧に、美しく撮っている。
たとえば車椅子バスケット。試合はもちろんだが練習シーンもなめらかですばらしい。車椅子の日常の一つ一つのシーンも着実で美しい。それが美しいからこそ、主人公の一人(元刑事)が妻のことでこころが乱れ、試合に集中できずミスをするシーン、ミスをおかした自分に苛立つシーンが非常にあざやかに印象に残る。こころの乱れが、何の説明もないのにリアルに伝わって来る。
映画とは何よりも登場人物の肉体の動きを通して、こころの動きを見せるものであることが、この映画では非常によくわかる。
それはまた、人間は、ことばではなく、肉体の運動によって事実を納得するということでもある。車椅子の刑事と青年がおもちゃのピストルで事件の真実を再現するシーンなどは、肉体の動きがともなわなけれど絶対に納得にたどりつけないシーンだ。そういった部分を、この映画は非常に丁寧に撮っている。
刑事と妻が最初に出会って、視線をかわすシーン、その感情の濃密さも、よくある撮り方ではあるけれど、美しいし、納得がいく。私たちは、ことばにならないことがらを肉体で生きている。
そういうシーンの積み重ねをとおして、恋愛とは、結局、人間がかわっていくこと、自分が自分でなくなってしまうことなんだということが、この映画をみていると本当に納得が行く。
アメリカ映画ではこころが通い合い、セックスをすることで恋愛が完成する。
ところがヨーロッパの恋愛はそうではない。完全に自分ではなくなってしまう。その過程、その変化こそが恋愛だ。そこには完成などというものはない。ただひたすら人間がかわってゆくだけだ。
復讐しようと思っていた青年はひたすら純情になっていく。青年をおそれていた妻はしだいにそのこころを知り、満たされなかった肉体の喜びにも目覚めていく。
人がかわっていくこと、--これは、誰にもとめられない。恋愛は誰にもとめられない。
そして、恋愛をとおしてかわっていくことができた人間だけが生き残るのは、ごく当然のことなのである。
変わることのできなかった二人(刑事の同僚と妻)は死んでしまう。恋愛はそうしたものだ。
これはヨーロッパの純愛を鮮やかに描いた映画なのだ。
ヨーロッパでは純愛、あるいは恋愛は、「初恋」ではなく、「不倫」の関係で描かれるのは、人間の変化にこそ「恋愛」の神髄があるという精神が生きているからだと思う。
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ところで、この映画の原題は『CARNE TREMULA』----震える肉体。
「純愛」と言いながら、肉体をかかすことはできない。
恋愛とはセックス抜きではなりたたない。
ことばだけでは、だめ、というのではないけれど、人間にはことばにならない思いというものがある。視線の動きとか、肌の震えとか。
恋愛とは、こころがかわると同時に肉体もかわってゆく--どんなふうにかわれるかを追い求める人間の基本的な営みなんですねえ。
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クリントンとルインスキーの「不倫」にさわいでいるアメリカを思うにつけ、その「恋愛」の幼さと、それを「追及」するスター独立検察官の幼稚さにあきれかえりますなあ。
クリントンとルインスキーは人間的に変化したわけではない。したがって、彼らの行為は「恋愛」ではないし、「恋愛」をともなわないから「不倫」なんかではもちろんない。「倫理」の入り込む余地のない単なるセックスごっこ。
「ごっこ」なんか全貌を明らかにしても、誰の、何の役にも立たないぞ。
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どうも余分なことを書きすぎた。
好きなシーンは、たとえば、妻にスプレーをかけられた刑事が眼を洗うシーン。
車椅子の刑事と青年がサッカーの試合でゴールが決まった瞬間、対立関係にあるのを忘れて夢中になるシーン。
床にこぼれたビスケットのシーン。
ディテールはどれもこれも美しい。
石橋 尚平(★★★★★)(8月29日)
shohei@m4.people.or.jp
観た直後に「これが今年のベストワン」と強く思う作品が年間に何本かありますけど(笑)、でも、このスペイン映画はやっぱりベストだと思います。私、実はペドロ・アルモドバルって全く駄目だったんですね。数年前に初めて「キカ」観て怒っちゃった。「ひどい」って思った。独特の色彩センスとファッションセンスに強く惹かれたけれども、私にゃついていけないな…と思いました。それがこれっ!、映画として成熟した上に、なおかつ独特のセンスが巧く活かされている、素晴らしいと思った。今後ビデオで勉強させていただきます。お話は5人の男女がそれぞしがらみをもっていて、「マドリード・コンフィデンシャル」って気もする。ラテン人の情熱は濃いよーっ。「L.A.」はあくまで男の世界で、女がいま一つうまく描けていないけど(K・ベイジンガーはかっこいいけど、やはり作り物の女という気がする…)、この作品はさすがにきちんと描けている。「この人は女に翻弄される男が好きだから、女を描くのが巧いんだ」と言っていた人もいた。その深みのある話を豊かな色彩と緻密なプロットでぐいぐい引きつける。ディティールも素晴らしい。養育園とか、主人公の部屋の内装の色彩感覚とかさすがにいいセンスしている。冒頭のバスの中での出産シーンだって、本筋とはあまり関係ないけど、良かったな…。普通、情念の人ってのは、動きが鈍そうでしょ。それがこの映画では、身のこなしがいいのね。バスケット・ボールしたり、刑務所で腕立て伏せやキックで体を動かす。復讐を心に誓うと、「ケープ・フィア」のデ・ニーロみたいに体を筋肉で隆起させようとするんだけど、対立する二人の男は「身のこなし方」をつけようとしている。そして結局、「身のこなし方」が幸せを掴むカギだったりする。この二人の男が格闘するシーンが二度ばかりあるけど、どちらも肉体を動かしたり、同じ肉体の動きを観ることで意思を疎通させて、一瞬葛藤が氷解したりする…これには笑える。肉体の動きは、映画史上最も美しい性交シーン(けっして大げさでもない)にもつながる。パンちゃんのページのビジターにはOLの人が多いという話だけど、この映画なるべく多くの女性に観てもらいたいな…。