レッド・バイオリン


監督 フランソワ・ジラール 主演 ジェイソン・フラミング、グレタ・スカッキ、サミュエル・L・ジャクソン

パンちゃん(★★)(1999年7月19日)
映画は映像と音楽で成り立っている。この映画はバイオリンがテーマだけに音楽にかなり重きが置かれている。し、しかし……。それと同時に存在する映像がなおざりなために、音楽がそれほど際立って聞こえない。せっかく美しい演奏なのに。
バイオリンを作った男の子供(孤児)だろうか、少年の弾くバイオリン、ジプシーの弾くバイオリン、天才音楽家が弾くバイオリン、中国の文化大革命のなかでひっそりと弾かれるバイオリン。そこには確かに明確な響きの違いがあるのはあるのだけれど、ストーリーの変化が大きすぎ、その変化に響きの変化がついていっていない。つまり、曲の違いにしか聞こえない。これはとても残念。
同じ曲を、映像の変化で違った表情の曲にしてみせないことには映画にならないだろうと思う。(たとえば『シャイン』のように、あるいは『コンペティション』のように。)
せっかくバイオリンを作っているマイスターの妻がまだ生まれぬ子供に柔らかい声で歌ったのに、そのテーマがほんの少ししか繰り返されないのでは、運命に翻弄されるという感じがしない。
最後のサミュエル・ジャクソンのバイオリンすり替えも、数奇な運命の結末にしてはしみったれている。
しーくん(★★★★☆)(1999年5月31日)
kanpoh1@dus.sun-ip.or.jp
喜怒哀楽を楽器で表現するなら、バイオリンが1番優れていると思います。私がバイオリンに魅せられたのは、数年前に映画音楽で有名なジョン・ウィリアムスのコンサートを聴きに行ったときです。この作品でも、美しくもあり、力強くもあり、又なんとなく怪しげである音色に鳥肌が立ちっぱなしでした。物語は、かもめさんが予告編採点で書かれているとおり、一本のバイオリンの400年、5ヵ国をめぐる旅です。芸術作品には違いありませんが、ミステリアスな雰囲気やサスペンス的なところもあり、この前見た『恋に落ちた・・』同様画面に釘付けになりました。“現在”のモントリオールのオークション会場を起点として、目玉商品である“レッド・バイオリン”が辿ってきた4つの物語が映し出されます(つまり“現在”のカナダが5ヵ国目)。どの国の物語も印象的ですが、特にイギリス編が強く心に残っています。ある作曲演奏家が、ジプシーの娘が弾いていたバイオリンの音色に魅了されて、それを譲り受けるのですが、そのお陰で創作意欲を燃やした彼は、恋人の小説家との官能世界の中で1つの曲を完成し披露します。そのすばらしさはとても言葉では表現できません。あと、圧巻だったのが1960年代で文化大改革まっただ中の中国(上海)。リアルな映像は、いったいどうやって撮影したの?と思いながら見ていました。それと感心したのが、1つの物語が終わるごとに“現在”に戻るのですが、角度と視点を変えて全く同じ場面を撮影しているところです。つまり、同じセリフを5回聞くことになるわけです。私はこの場面で映写の方がフィルムを掛け間違えたのではないかと一瞬ドキッとしました。おもしろい手法ですね。さて、良いことばかりを書いてきましたが、気に入らない場面も少しありました。まずは“レッド・バイオリン”の名の由来が冒頭でわかってしまうところです。もう一つが鑑定士サミュエル・L・ジャクソンが、バイオリンの音色に聞き入る場面がありアップで映し出されるのですが、どう見ても聞き入っているようには見えないんです。それぐらいでしょうか・・・この作品はミニシアター系で上映され、公開地域も限定されているみたいですが、宣伝の仕方では結構ヒットするのではないでしょうか?特に大きな宣伝があったわけでもないのに私が見た回では120席中8割ぐらい埋まっていたように思います。予想外の客の入りには驚きました。コンサートを聴きに行った気分にもなる素敵な映画でした。