ロルカ、暗殺の丘


satie(2000年1月27日)
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採点★★★
昨年からこの映画の公開を心待ちにしていたのです。
フェデリーコ.ガルシア.ロルカはロシアのエセーニンと並び僕の最も好きな詩人だからです。
詩に疎い僕にとってもロルカの詩は優しく、解りやすく、そして音楽のリズムに満ちているように思われました。(以前、友人に彼の詩を朗読したレコードを聴かせて貰いスペイン語の美しさに感動したこともありました)
ロルカは画家としてもピアニストとしても一級の腕前だったそうですし、ピアノ曲もいくつか作曲したということですが(残念ながら、楽譜などは現存していないそうですが)
彼のそんな一面にもひかれていたのかも知れません。
詩は長谷川四郎の日本語訳でしか読んだことがないのですが、アンダルシアの輝くような自然を歌い、ジプシー達の貧しい生活や、そのなかから生まれた音楽や舞踏を優しい眼差しと共に歌っていながら、常に悲痛な、孤独感のような声が対旋律のように聞こえて来るのが不思議でした。
一時間も前に劇場に到着してしまい、ロビーにスクリーンから低音でのアクセントの強い三連音符の弾奏が僕のはやる心をかきたてるように漏れてきました。
しかし、期待が余りに大きかったせいか、僕にとっては不満の残る映画でした。
先ず残念だったのは、この映画が英語版であり冒頭から全編を通じて朗読される彼の《ア ラス シンコ デ ラ タルデ》が英語だったことです。
この映画はスペインの内戦のとば口でナショナリストによって銃殺された彼の、いまだに多くの謎を残しているという死の真相を、フィクションを交えながら明らかにしてゆこうとするものです。確かに彼の死に関しては諸説入り乱れており、僕などには到底たどり着けない真実というもがあるに違いありません。娯楽作品の映画としてはそのような謎をミステリアスに解き明かしてゆく、ということも、それなりに興味のあるテーマだと思いますが、死の真相の解明というものはいつも空しいことのように思われて仕方が無いのです。ビスナールの丘で、今では夥しく立ち並ぶオリーブの林のなかから、彼が埋められたという一本のオリーブの木を特定することが空しい行為にすぎないように。
印象的だったのは、彼が少年に残した「僕のことを忘れないでね」というセリフです。
今生きている者にとって重要なことは、彼を決して忘れてはいけない、記憶し続けなければならないということです。
それは、彼の死ではなく彼の詩である筈だと思うのですが、この映画で後者に殆ど視点は据えられていません。それでは彼と共に虐殺された、既に数でしか数えられなくなってしまった多くの人々の死後の生をも輝かせることは出来ないと思います。
この映画をこのような偏った観方しか出来ないのは、あるいは間違っているのかも知れませんが、僕にとっては不満ばかりのこる映画でした。ただロルカ役のアンディー.ガルシアの瞳の美しさが救いでした。