サマー・オブ・サム


監督 スパイク・リー

パンちゃん(★★★★★)(2000年6月23日)
77年----というより、70年代といった方がいいと思うが、その70年代をまざまざと思い出した。
とても不思議な年代だったと思う。世界が同時に大成長期にあったのだろうか。誰もが熱気に満ちていた。自分自身の熱気をもてあまし、どうやってそれを具体的な形にしていいかわからなかったというか、形にするために、どんなふうに自分を制御していいのかわからなかった時代なのかもしれない。
一人の殺人鬼が、そうした時代を緊張させ、人間の熱気をねじ曲げてゆく。その過程が非常にリアルに描かれている。なにもかもがちぐはぐになりながら、そのちぐはぐさのために翳りが生まれるのではなく、逆により一層輝きを増していく感じがとても不思議だ。
美容師の男と妻が墓場でけんかするシーンにアバの「ダンシング・クィーン」が流れているが、この奇妙なアンバランスが、そっくりそのまま70年代だったのだと思う。
「異化」なんてことばがはやったのも、このころかもしれない。みんな「異化」を必死になって求めていた。自分自身が他人になろう、自分を超越しようと必死になっていたのだろう。その瞬間の、不安定さの輝きのようなものを、くっきりと思い出した。
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刺戟が強すぎて、ことばがまとまらないが、粘着力のある非常にいい映画だ。充実した映画だ。
人間が何かにあおられるようにして変わって行く、ずれてゆく過程を、リアルな会話と丁寧な生活の描写で、ほんとうに粘っこく積み上げてゆく。
こんなネバネバした映像文体は、ちょっと思い出せない。
登場人物の顔が不細工なところも、そのねばねばに拍車をかけている。美男・美女だと生活から浮いてしまうが、不細工なために、生活にもぐりこんでしまう。そのもぐり込んだ位置で、表へずるりとはいでるようにして人間が変わって行くところを、本当になめるように、あるいは体液をなすりつけるようにして描いて行く。
美容師の妻が、いとこと浮気して来た夫の唇に触れ、そこにいとこの性器のにおいをかぎとり、自分の手を何度もかいでみるシーンのような、何とも生理的で、ねばねばした感じが凄い。
乱交パーティーのシーンなども、単に肉体が絡み合うだけでなく、視線がからみあい、感情がからみあう描写がものすごい。
JO(★★★★)(2000年1月21日)
mitsuoka@x-stream.co.uk
ひょっとしたら物凄く良く出来た失敗作なのでは?
オープニングから引きこまれてしまった自分と反対に、スパイク・リー映画は始めて と言う友人は映画館を出た後ひどい駄作だったと決め付けた。
役者全員見事だったと思うし、監督の腕も全く落ちてない。のっけから官能的な踊り に見せられ、そこから映画が終わるまで、ほぼずっと暗い場面でも‘のれる音楽’が バックに流れている。上手い編集に合わせて流れる音楽は抜群。
セックス、麻薬にレストランを行き来するキャラクター達が住む近所に現れる連続殺 人魔。
Do The Right Thing 調でもあるがスクリームとも違う。我々は最初から殺人犯の姿 を知っているのでキャラクターの一人が犯人なのでは、と言うサスペンスも無い。
第一これは本当にあった話だ。
ではリーが描きたかったのはパラノイアなのか? それともその時代風景? 何を中心 に見れば良かったのか、中心など無かったのか。そういった映画は嫌いではない。
ビッグ・リボウスキは素晴らしく意味の無い傑作だし。
この映画を気に入ったのが自分だけだったらそれもまた興味深い。でもそれは無いだ ろう。ミラ・ソルビーノのダンスに見とれたのは他にもいるはずだから。