精霊の島


石橋 尚平(★★★)(1月14日)
shohei@m4.people.or.jp
http://www.people.or.jp/~gokko/index.htm
最初、『泥臭いベルイマン(スウェーデン)かな』…と想像していたんですね。寂しいアイスランドに住む家族を叙情的に描いた映画というイメージで。だけれども、実はこの映画、けっして間がいいとは思わないけれども、くすぐるように笑わそうとしている映画だったんですね。アキ・カウリスマキ(フィンランド)の映画でカティ・オウティネンが困ったようなしかめっ面すると、やはり可笑しいように、50年代のレイキャビックの人々が皆『むき出し』の顔をして生きていると、可笑しいのではないかと。『むき出し』にしたところで、根が人の良さがかえってよく分かる…そういう『むき出し』の顔。やり場のない閉じ込められたような生活なのに、それぞれが自らを『むき出し』にしながらも、素朴な明るさがあるんですね。『けっして希望を失わない』というような、そんな苦しい明るさではないんですね。バラック生活は狭苦しくてどう考えても楽しそうではない。米国から帰ってきて豹変したバディも酒でアルコールに浸るし、そのバディに彼女を取られてしまうダンニも飛行士になるまではだらしないし、バラック暮らしを理由にいじめられたグリョウニの弟は隠していた銃で死んでしまう。やり場がなくて、情けなくて、哀しいのだけれども、何か叙情とか深刻さが希薄なんですね。悲喜こもごもがそのまま、日常の生活の起伏になっている気がする。やりきれなさと共生していると言うんでしょうか…。アメリカも出てくるけれども、それも単なる狂言回しでしかないですしね。
霊的なシーンもよく出てくるんですけれども、これも淡々としている。ガルシア=マルケスとか、ベルイマン的な霊性とは全然違う。呪術性や神秘性ではなくって、うまく言えないけれども、『それも人生だ』って感じがする。あくまで素朴な神秘という感じ。このばあさんいいですね。
正直言うと、どうもこの人のリズムに慣れていないせいか、かみ合わないところもあって、ちょっとのれませんでしたが、この映画の明るさはいいですね。『ムービー・デイズ』も観たいと思います。
養老龍雄(★★★★★)(1月8日)
yourou@hi-ho.ne.jp
http://www.hi-ho.ne.jp/yourou/
国土の1割を氷河で被われたアイスランドという北極圏にも近い辺境の国での「日常」とはどんなものだろう。この映画で目にするのは、日本に住む我々にとってはそれが現実世界であることでさえ疑いたくなるような、異世界の「日常」だ。戦後間もない50年代のレイキャビクで、アメリカ兵たちの残したバラックで暮らす4世代が一緒という大家族。占い狂の祖母が一家の舵をとりながら、アメリカかぶれした放蕩青年バディ、陰気ながらも気骨のあるダンニ、足の不自由な男の子ボボなど貧しい暮らしながらも個性豊かな家族が、地球の片隅における一つの「日常」を編み上げていく。こう書くとまるでホームドラマのような映画を連想されそうだが、実際は小さいながらも次々と事件が起き、1時間43分という短時間であることも重なって、時間的飛躍も多くテンポは至って良い。ときおり現れるアイスランドの風景はあまりの美しさに言葉もない。傑作である。
PANCHAN world