ジョゼと虎と魚たち



ジョゼと虎と魚たち
監督 犬童一心 出演 妻夫木聡、池脇千鶴、上野樹里、新屋英子

パンちゃん(★★★★★)(2004年1月1日)

昨年の12月24日に東京で見たのだが、年末になって、あっと驚く傑作に出会えたと思った。
身体障害者の女性と大学生の男性の交流を描いているのだが、非常に生命感にあふれている。
別れが、まるで障害には無関係な女性と男性の別れのように描かれている。
人間の仕方なさというものは誰にでもある。だらしなさというか、わがままというものは誰にでもある。
好きだけれど(その人に触れることで何かを確実に感じ取り、自分がどうなってもかまわないという覚悟をもって生きる瞬間があるのだけれど)、それをつらぬ きとおせない。
どうしても、自分本位になってしまう。
それは障害者にも、障害をもたない人間にも共通のものだろうと思う。
たとえば、好きになった人が障害をもたない人間であろう障害をもった人間であろうと、ある瞬間、人は「自分はこんなにあなたのためにしているのだから、あ なたはもう少しわがままをおさえてもらいたい」という気持ちを抱く瞬間がある。(映画の主人公も、途中で疲れたような感じになる。)
人が好きになって、好きであるにもかかわらず、別れるというのは、そういうことが原因だろう。
こうしたことを、この映画は非常に丁寧に描いている。
その丁寧さが、障害者と障害をもたない人間の恋ではなく、人間と人間の恋にまで世界を深めている。
同情、哀れみといったものは消し飛んでしまっている。
ただ生きることの切なさ、やるせなさがじんわりと浮かび上がってくる。
人間には「むり」はできない。「むり」をして生きることはできない。「むり」しなくていいんだよ――という、人間の温かさがじんわりと浮かび上がってく る。
主人公の二人も、監督も私にはなじみがない。誰なのかわからないが、大変印象に残った。
この映画を見るまでは、邦画の2003年のベスト1は「座頭市」だと思っていたが、この映画が2003年のベスト1だ。私にとっては。