人狼


射的屋(2001年8月27日)
いい作品です。重いものの美しい音楽と映像(キャラクターの描き方や色彩が暗いですけど)とストーリーがよくマッチしてたと思います。 徹底的なまでにリアルを追求しつつも映像の凄さを失っていない。 (リアルを追求することで凄い映像になるものもあるが、逆もよくある)独特の世界観のなかで進んでゆく厚みのあるストーリー結構好きです。 残念なのはこの映画が解りにくい(そのぶん解ると面白い)ことと原作のネタが多すぎることです。 誰もが楽しめるエンターテイメントではなくわかる人にはわかる芸術のような映画だと思います。 評価は星五つ。
NEK(2000年8月18日)
★★★
決して悪い映画では無いと思った。全体としてはストーリもそれなりだと思うし、何より恋愛映画(と言うより心中映画)としての雰囲気は出ていたと思う。
しかしそれ程評価されるべき映画なのだろうか?
まず一番の売りであった筈の押井守脚本だが。どうもセリフが繋がっていない様な箇所が散見していた(原作のマンガから強引に引っ張ってきたようなセリフが多い)。
またアニメならではの表現も多いのだが結局「僕達実写やりたいんです。」と言う様な印象を受けたカットが多かったのも否定できなかった
個人的に最大の不満はセリフ、設定が意味を成していない所が多いという事だ。冒頭のやたら長いナレーションなど、どう考えても半分で十分だし、「強化服はチームワークが大事だ云々」と言っておきながら結局最後は1人で戦っている。
なにより「赤頭巾ちゃんと狼」の寓話が大して意味を成しているとは僕には思えなかった。なんとなくストーリーが似ているから強引に引きずり出された様な気がしてならないし。そのメタファー(いや多分組織と個人の隠喩だとかはわかるんだけどもさゥ・)を補強する為にキャラクターに強引にそのセリフを喋らせているせいかどうも実在感にかける様な気がした(尤も作り手の意図かもしれないけど)。
その意味ではとみい氏の言う様に作り手が悪い意味で自己陶酔していた様な気がする。
演技、美術や音楽、作画は何れもかなり高いレベルだと思う。でもアニメ作家ってチョット大家になるとどうしてみんな美術とかに必要以上に拘るんかしらん。
裕也(2000年7月17日)
「狼は,しらゆき姫を食べた。」
これがこの映画の最後のせりふ。その後、唐突におわるのですが、この映画、余韻がとても心地よかった。どんな印象的なシーンよりも、この微妙な余韻と切ないエンディングテーマが心に響きました。
アキラや、スプリガンに実写で撮ろうと思うと金がかかりすぎて出来ないような派手な内容ではなく、下手をすると眠ってしまいそうなほど退屈で、難解になりそうなドラマなのに、確かな技術で、またアニメでしかなしえない表現で、2時間を見せきってくれます。
今の日本には見る影すらない戦後の軍、警察隊の魂、堅苦しい秘密会議の数々、現実の会話で使用したら単にくさいととられるような、内面をそのまま抜き出したかのような台詞。そこから滲み出す日現実性とアニメ絵の非現実性とが重なって、独特の世界を作り出している。音楽も、常に静かなんだけど確かな存在感をもって歩み寄ってくる。劇場にいた人全てが、その心地よさに痺れたためかエンドロールが終わるまで立ち上がりませんでした。
「やっと自分の居場所を見つけた気がした」とつぶやく主人公。彼が狼で居続けることは、人として生きていくよりも幸せなことなのか。無口で、表情すら何も語らない彼。僕の頭で考えるにはあまりにも重く、心でつかむことも難しかった。星は4つです。アニメーション映画としては、近年まれに見る優れた作品だと思います。
とみい(2000年6月17日)
宮崎駿と並び称される日本のアニメクリエーター、押井守渾身の一作 (と思ったら、原作と脚本のみで、監督はしてなかった)。
敗戦後から十数年後の仮想の1960年代、 冷徹な治安部隊の隊員は、反政府組織のテロリストの少女が眼前で自爆したことを きっかけに、徐々にその運命を狂わせていく。
仮想の日本の世界観のつくりこみは相当、丁寧であり、 登場するキャラクターにもリアリティが感じられる。
似たような世界観の実写ものもビデオで見た(タイトルが思い出せない)けれど、 アニメという表現方法のほうがはまってる。
ただ、日本のアニメの劇場作品というのは、総じて同じ間違いを犯すことが多い。 それは、ファンの視点に立つがゆえに、「一見の客」に対して、”世界“についての 説明不足に陥ってしまうのだ(その最たるものが、エヴァであった。イベントとして はそれでよいかも しれないけれど、やっぱりエヴァは、映画作品としては失格だったと思う)。
この映画にもややその感があるのが、ちょっと残念。
あと、仮想世界に作り手が自己陶酔してるような意識が現われているのを、観客はど う 感じるか(そうした意識が嫌いな客もいるに違いない)。
結論ーー難点はありますが、押井ファンでなくとも、★★★はつけられると思いま す。