シンプル・ブラッド



NEK(2000年12月31日)

★★★☆
凄い!!これでメジャーな俳優出てたらさらに★1個追加です!これがデビュー作とはね、矢張り栴檀は双葉より何とやらって奴でしょうか。
 事件の規模で言うならホントにミミッチイ事件です。多分ワイドショーでも取り上げないんじゃないかって言うくらい平凡な事件。犯人もサイコサスペンスに 出てくる気ジルシさん達の数百分の一位スケールの小さい人です。
 それが何故かくも見るものの心を揺さぶるか(って言うか愉しませるか)。それこそがコーエン兄弟の最大の武器である「視線」でしょう。
 パン様の仰られている様に、勘違いの連続により奈落の不幸に落とされる、愚かなキャラクター達、そしてそれを徹底的に非情な、あたかも神の視点から追う カメラ。そこには如何なる感情もメッセージも無い。否無いが故に純粋に物語のキャラクターを浮かび上がらせ、観客に対し鏡を見ている様な思いに囚われさせ る、「私もコイツラとたいした違いは無い普通の人間だ」と。それによって他愛も無い事件を、人が追い求める真理を含む物語とする事に成功している。
 勿論この演出手法を成立させる為にはカメラだけではなく、優れた人間描写と物語、つまり良く出来た脚本が必要なんでしょうがね。それをデビュー作で成し 遂げている事の凄さ。しかも不思議な事に『ファーゴ』の時にあった登場人物、そし観客を揶揄する様な雰囲気が無い。作り手はキャラクターに対してある種の 慈悲心にも似た感情を抱いている様にも思える。
 恐るべしコーエン兄弟。ブラピ主演の次回作も期待してまっせ!!!「未来は今」の興行的大失敗は忘れてサ。
パンちゃん(★★★★)(2000年12月2日)
映像の構図がしゃれている。
アップが非常に多いが、それにはちゃんと意味がある。
ストーリーとしては、浮気した妻の相手を殺してほしい、という夫の依頼、それを実行する私立探偵の行動が発端になるのだけれど・・・。
気が動転したとき、というか、自己中心的になったときの視界というのはとても狭いと思う。全体が見えずに、最初に見たなにかに視線の中心を引っ張られてし まう。そのため、普通なら見えるはずのものが見えず、ゆがんだ世界になる。もちろん、当人には「ゆがんで」は見ている自覚はない。当人は全部を見ている、 全部が見えているどころか、今ここにないものまで見えている気持ちになる。
ここから勘違い、勘違い、勘違い、という具合に、事件がねじれてゆくが、そうした勘違いとしての視線が、アップの連続である。
視線が広い世界をとらえていたら、この不幸はおきなかった。
うーん、おもしろい。
それにしてもねえ、この低予算の映画の技法はみごとだなあ。
顔のアップは別にして、ものや体の一部のアップは演技力というより、カメラアングルによって、表情がちがってくる。
俳優に演技させるには時間がかかる。つまり、金がかかる。そうした部分を極力さけて撮影している。
それがまた、全体が見えないというか、事件の全体が登場人物の、そして同時に観客の想像力のなかにある、という構図を浮かび上がらせている。
いいなあ、こういう戦略は。

この映画は、また「ファーゴ」の姉妹編としても見ることができる。
殺人事件をあつかっているが、基本は人間ドラマだ。
事件のなかにひそむ日常の深み、人間の感情の変化、意識の変化をきちんと描いている。
コーエン兄弟は、アメリカ映画というよりは、ヨーロッパの映画に近い感じがするのはそのためだと思う。