ソラリス



MARK(2004年1月1日)

タルコフスキーの映画化に継ぐ、ソダーバーグ版のリメイクですが、以前のほうは翻訳でいえば意訳 といってよいほどタルコフスキー流の原作解釈が強いものになっていたのに対して、今回の新版では比較的原作に忠実な運びになっているようです。そういう意 味では私的には好ましく、失礼ながらもっと低俗な作風を予想していたところ、思いに反してなかなか密な心理描写を娯しめました。

 ソダーバーグ監督はおそらく原作を相当程度に読み込んでいて、適度な映画的脚色でオリジナルから逸脱していない筋にまとめています。もっとも、冒頭付近 のステーションへの着艦のシーンなどは『2001年宇宙の旅』からの恥かしいほどの焼直しですし、後半部に至ってからの内面風景の描写にしてもこれまた キューブリックの画面構成をそのまま模したものですから、表現上のあきらかなB級作品に留まります。志は高いのですが、残念ながら手がそれに及んでいない という印象です。

借用されたキューブリックの空間表現にてこの名作を映画化するというのはありがちな発想で、まとまりは良くなる代りに映画のスケールが犠牲になった感じで す。非常に想像力に富んだ原作の幅は、たとえばソラリスには二つの太陽があって、超自然的な風景のなかで深層心理を揺さぶられる事態が語られていたりする わけですけれども、せっかく現代的な技術が使える立場にあるならば、こうした未聞の風景を(過去の作品からの模倣ではなく)もっと描いてほしかったところ です。

しかし全体としてはたしかにこうなるしかないという運びではあり、タルコフスキーの観念描写に留まっていた惑星面の描写なども、ソダーバーグ版ではしっか り再現してくれています。また、それぞれのクルーがちゃんと思考していて、単にうろたえるだけの狂言まわしになっていないのも良いです。同僚たちの各々 に、個人的な事情から発した潜在意識の具象化が起るのですが、ここでソダーバーグはドラマ化するために原作にない脚色まで加えています。大筋としてはこれ で問題ないでしょう。

それにしても、この種の外宇宙を描いた諸作を観るにつけ、キューブリック等からの安易な引用がいまだに行われているのにはある意味驚きます。そんなに想像 力が貧困なのでしょうか。私的には、キューブリック以降に外宇宙を扱ったものでオリジナリティのあるものはリドリー・スコットの『エイリアン』がいちばん だと考えますが、今回の『ソラリス』はそれを超えるものではなかったです。

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