タンゴ



albino(★★★★★)(1999年7月28日)
ohh-t@lilac.plala.or.jp
その足の動き、コントラスト、映像美とはこういうことだ!と語り掛けてくる。それに負けず劣らずの音楽。
この映画のほとんどを、タンゴのシーンが占める。
タンゴといえば、アストル・ピアソラとしか思い浮かばない短絡的思考の私も十分に楽しむことが出来た。
私は、カルロス・サウラ監督の作品というのはこれ以外見たことないのだが、「カルメン」なども、斯くも素晴らしい映画なのでしょうね。この監督の他の作品も見てみたくなりました。
今年見た映画では、「永遠と一日」に次ぐ評価の高さです!
satie(★★★★★)(1999年7月27日)
satie@xa2.so-net.ne.jp
5月24日、雨の中を先輩M氏と渋谷BUNNKAMURAで鑑賞。
アルゼンチン.タンゴといえばM氏にとっても私にとってもある種のノスタルヒアス(ノスタルジー)を誘うのだ。
M氏に取っては戦後間もなくノイズの強い電波に乗って遥か地球の裏側から届いた藤沢嵐子さんの歌に必死に耳を傾けた時代、私に取っては金欠学生時代にアルバイト程度で関わったことのあるオルケスタ.ティピカ.パンパ、それぞれのタンゴに対するノスタルヒアスなのだ。
そもそも、ヴエノスアイレスの貧民窟の酒場と安宿で産声をあげたといわれるタンゴは、移民達のノスタルヒアスから生まれたものだ、とも言われている。
彼等の貧しさや、絶望、怒りなどが火のような強い酒と束の間の快楽等と共にあの独特なオン.ビートのリズムを生んだに違いない。
そして多分遠い故国スペインのハバネラに想いを寄せながら。
この映画は、そんなタンゴの踊りの部分を中心に取り上げ映像化したものである。
人間の情欲、嫉妬、潜在する狂気(殺意)、はたまた、この国における軍政による圧政の悲劇までも様式化された踊りを以て強烈なタンゴのビートのなかに封じ込めようとする。
そのタンゴの踊りとビートに最初から最後まで圧倒され続けた数時間であった。とにかくその素晴しさは生理的な快感を呼ぶ程だ!特に郡舞による場面などは、息を飲みかたずを飲み、時間の経過を忘れさせられた。
ストーリーとしては劇中劇(映画?)における新作の制作というかたちを採り、映像空間に配置された巨大な鏡を通して、映画監督なる登場人物の描く実像と虚像、現実と幻想の対話で進行する。
私は音楽に携わりながらも、音楽映画やミュージカル映画(音楽、ミュージカルと言う意味では無い)はあまり好きではなかったのだが、うんざりしそうなメロ.ドラマの予想に反し、この映画の主体は音楽と踊りとビートだった。つまりストーリなども呑み込んでしまうほどに強烈だったのだ。
ところでこの映画におけるダンスだが、最近のタンゴ.ブームに便乗したショウ.アップされた踊りに比べ、意外なほど抑制のきいた動きは、もしかしたら本来の踊りにより近いのではないのかと思ったりもした。
バックのキンテートの演奏も素晴しかったが、主演女優二人の美しさもこの踊りというドラマをさらに印象深いものにした。
なかでも特筆しかったのはフリオ.ボッカとカルロス.リバローラの男性同士のデュットとジャッカルのような目を持つジュニアと呼ばれる(名前確認中)刺客の存在である。
前者はアカデミックなクラシック.バレーに勝るとも決して劣らぬ優雅さを、後者は役柄とは別に、その獲物を射るような視線に、アルゼンチンという国における未だ貧しい庶民の強権への底知れぬ抵抗へのエネルギーをかいま見たような気がしたのだ。
なお、映画のなかでも演奏されていたが、ファン.C.コビアンの名曲『ノスタルヒアス』の訳が“未練”となっていたのにはスペイン語に疎い私も妙に 納得してしまった。
パンちゃん(★★★★★)(1999年7月15日)
舞台の演出家(初老)がいる。女にふられたばかりで、人生の危機に立っている。その男がアルゼンチンの歴史をタンゴで表現しようと試みる。(2年ほど前、評判になった芝居のメーキング・フィルムのようだ。)
若い女が登場し、その女のパトロンはマフィアなのだが、その女を奪って、男は人生の危機を脱出する、といえば身もふたもなくなるが、とてもとてもおもしろかった。
芝居と現実が交錯する瞬間、登場人物になったようにどきどきしてしまった。こういうことは久々だ。
ダンスと音楽もとても魅力的だ。「ラ・クンパルシータ」くらいしか知っている曲はないのだが、それぞれが劇的ではらはらする。
身のこなし、足と腰の動きなど、セックスそのまま、というか、裸のまじわりを見ているよりも暗示的でなまなましく、美しい。この美しさを表現するには、初老の男と若い女の恋愛は絶対必要だったのだ。演出家の恋が、そんな風にして狂言回しではなく作品にしっかり組み込まれているのも大変すばらしいと思った。
この映画は、たぶん繰り返して見れば見るほど味わいが深くなる。苦悩と官能のタンゴが恋愛の力でだんだん輝きを増してくるのが実感できるようになると思う。
1回しか見るチャンスがなかったのが残念でならない。
福岡では上映が終わったが、東京ではもう少しやるようだ。お見逃しまく。