大怪獣ヤンガリー



NEK(2002年3月5日)

★★★=(★+★★)
 イヤ大変楽しませて頂きましたよ、個人的には。
 腹を抱えて笑わせていただきました。但し断言しておきますが彼女と一緒に見に行く映画ではありません。て、言うかそれやったら、別れ話切り出されます。 多分。
 これは高校以来の友人と一緒に、夜中に酒を片手にコタツに入って、TVに突っ込みながら乾いた笑いを浮かべて見るのが正しい鑑賞法で、恐らくある特異な 趣味傾向(B級怪獣ヲタ…)を有した男性以外は全く楽しめないです。まぁ、あの非常に濃厚なB級テイスト漂うポスターとエンディングを大槻ケンジが唄って いる時点で大半の人は気づくでしょうけど。

 客観的に評価するならばですね、良い悪いと言う以前の問題です。何故劇場でかける気になったのか理解に苦しむ代物であり、何か背後に余程凄腕のネゴシ エーターがいたか、大手映画会社のマエンーロンダリングに使われたかと、映画界の裏世界に思いをはせてしまうと言えばご理解できるでしょうか。
 名声に憑りつかれた悪い科学者が、犠牲者ウジャウジャ出ても全く気にせず目指せノーベル賞とばかりに50mもある巨大恐竜の化石を「秘密」(まるで徳川 埋蔵金ですね)に穿り返している所に「偶然」巨大宇宙船がやってきて、上半身だけが不自然に動く宇宙人(イエイエまさか予算がなくて上しか作れなかった等 とは…)がビームで衛星破壊して、せっかくだから地球侵略するぜと思ったのか、何故か化石の恐竜を蘇らせて、大暴れさせて(ワープ出来るテクノロジーあっ たら、直接侵略しろよ)…。
 かくして機関銃片手に第3帝国ラストバタリオンの夢ここにと言わんばかりにジェットスクランダーしょって、相撲取りに挑むやぶ蚊みたいな感じで命張って 闘う特殊部隊のお兄さん達を精鋭とした(一体彼らは本来なんの目的で配属されているのでしょうか?)地球防衛軍との熾烈な戦いがココに…

 …と言う、なんか初めてデジカメ買って貰ったぜ、エーテルって気持ちよいよね中学生達が吉野屋で一杯280円の牛丼食いながら「こんなゴジラどうか なー」とか言ってる感じのストーリーが繰り広げられるんですよ。予算も自主映画レベルと言っても過言じゃありません。何かNHKスペシャル一歩手前の如き CGに無茶苦茶苦しい合成。ロジャー・コーマン映画にしか出てこないんじゃないかと思える様なキャストとそれに見合った演技。前半30分はこのB級テイス ト漂う役者達に8ミリ自主映画レベルの脚本が絡んで恐ろしくカッタルい展開です。強いて言えば全く濡れ場の無いインディーズAVと言う所でしょうか。

 しかしですね。辛い30分を乗り越えて怪獣ヤンガリーが御登場になると、ある意味途轍もなく面白い映画に化けるんですワ、これ。
 60年代の怪獣映画リスペクトとバカリにチープなF16の模型がブルーバックな合成背景にバシバシミサイル撃ってくれるんです。ここで普通の演出家なら 怪獣の強さ、凶悪さを引き立てる為に怪獣はミサイル攻撃なんぞものともせずに都市を破壊すると言った演出を行うと思うのですが、この映画では怪獣は単に 突っ立っているか、軽くスウェーをしているだけでミサイルが外れて回りのビルに命中し、「ビルは崩壊」し「市民は逃げ惑い」(良くこの時期公開できました ね…)。怪獣が火を2、3回吐きゃ、飛行機に命中し「飛行機が高層ビルに追突」し「崩れ落ちるビルの瓦礫から逃げ惑う市民」(…オイオイ)と言う風に防衛 軍の凶悪さを引き立てる物凄い演出がなされます。
 ここだけでも十分笑えるんですが、更に凄いのが、対怪獣特殊部隊(だから普段は何の為に配属されてんの?)が現れ、何をするかと思いきや、背中にロケッ トしょって機関銃とロケット弾で怪獣に立ち向かっていきます。なんか戦闘機攻撃より無意味且つ、貴重な人命の浪費を行っている気がして仕方がありません が、彼らの捨て身の攻撃によって一応怪獣が改心(?)したのだからここは感動するべきでしょう。偉いぞ防衛軍。カミカゼアタックは万国普遍の涙腺刺激演出 だ!
 しかし、映画自体はここからもっとヒートアップし、宇宙人達(だから直接侵略しろよ)の最後の切り札と、怪獣&機関銃背負っていきなり主役になってる (前半1時間は全くと言っていい程活躍しない)中途半端はナイスガイとの変則タッグマッチ、怪獣大決戦が繰り広げられます。

 つまりこの映画の魅力とは、一部の非常に偏った趣味を持つ青年・中年の酒場の一発ギャグを、既存の映画文法に則っている様で、その実外して演出すると言 う所にあるんですな。まぁ完全にオトナになっちゃった健全たる諸氏にとっては毒々しい色した駄菓子に過ぎないのですが、一部の客にとっては精神年齢まで 小・中学生レベルに下げてくれ様な麻薬が入った甘露の如き人工甘味料的美味が堪能出来るワケです。
 なんか製作現場ではスタッフが脚本そっちのけで「怪獣はやっぱり怪獣とバトルしなきゃ」とか「ゴジラだって人類の味方の方が面白かったよな!」とか言っ ている姿がスクリーンの裏から見えてきて非常に微笑ましい映画であり、どこの世界にもこう言った愛すべき人達がいると言う意味では大変貴重な文化テキスト となりましょう。

 ところで…ラストシーンから察するにヒョットしたらこの映画は続編を製作中なんでしょうか?