蝶 の舌



監督 ホセ・ルイス・クエルダ 出演 フェルナンド・フェルナン・ゴメス、マヌエル・ロサノ、ウシア・ブランコ

せんしゅ(2002年5月1日)

★★★
スペインの歴史についての知識は全然無いから、この映画の背景については良く知らないけど、よく判ったのは、いつの時代でも大人はずるいということ。あれ だけ、自由だとか謳っていた協和派の人々は、ファシズムが台頭するやいなや、ころっと思想が変わる。生きる上での大人の知恵だろうが、それに翻弄される純 粋な子供の気持ちは複雑であろう。最後に「蝶の舌!」「ティロノリンコ!」というのが精一杯なのが観ている自分としては辛い。
けど、全体としては、正直いまいち。それぞれのエピソードも、何かありふれていて、見た後も特に心に残るということはなかった。
この映画の音楽は、最近「アザーズ」とかで話題に上ってきている監督が担当しているらしい。
とみい(2001年12月10日)
私はスペイン映画をそれほど観ているわけではないのですが、その魅力に、 泥臭さ、そこに溢れる生命力というものを感じていました。
この映画の印象は「上品」。
だから、つまらない。
一見、美しい映像は、 朝日の文化欄を読んでるようなハイソな人には、 たしかに受けがよいのだろうけれど、 田舎を舞台にしてるのに、土の匂いが伝わってこない。
いくつかの短編からエピソードを拾っているらしいが、 それぞれ描ききれてないぶん、散漫で描きこみ不足の 印象を受けた。
ある意味、ことしいちばん、期待はずれの映画だったかもしれません。
★★。
それから、Collesさんが千と千尋の感想で書きました。
>やっぱり、映画でなにか、メッセージなど >伝えようとしてはいけないのではないかしら? 私は人はメッセージを伝えたいということが、 小説や詩や映画を創作したいという 原動力になると思ってるのですが、 「蝶の舌」という映画のメッセージのくどさは、ちょっと嫌だった。
ラストシーンはともかく、学校を引退するときの 先生の「自由」のスピーチなんて、思いっきり鼻について聞こえました。
NEK(2001年11 月29日)
★★★★=(★★★+★)
 ラストシーンにて「ティロノリンコ!」。
 …「あれ、泣けないぞ?良い話なんだけどな?」て言うのが見た直後の感想で、見て1ヶ月近くたった今でも「まぁ普通に良く出来た話だね」ってのが正直な 感想ですね。

 小学生の時こういう先生に会えていたらきっと思いでに残ったでしょう。自然が好きで、その自然から自由の素晴らしさを子供達に穏やかに、しかし情熱を もって語る先生と言うキャラを血肉を伴って生み出せた時点で、製作者側も「この映画は半分成功したも同然よ」と思っただろう事は容易に想像つきます。実際 こんな先生に教えてもらったら私ももう少し成績優秀だったのにねぇ…。
 けど、その先生との心暖まるエピソードと最後のエピソードとのギャップによる悲劇(と自分達自身の内部告発)は見事なんだけど、全体として、どこか間延 びした印象があるのは、個々のエピソードが平凡だからかしら。

 この映画って連作短編小説(思春期の恋、先生との交流、スペイン内戦の悲劇、家族の秘密)みたいな感じの話なんですよね(実はホントに短編小説を混ぜ合 わせたものでした)。しかし、エピソード同士の繋がりが乏しいし「自由を謳歌したスペインの終焉」と言う部分に絡んでこない。じゃあ個々のエピソードが面 白いかって言われると、ラストシーンを除けば、どのエピソードもどっかで見た様な気がする展開なんですよ。
 普通の市民が隣人を追い払うと言うラストの展開のために、出てくるキャラはみんな普通の人にしちゃっているし、主役の存在感にしても凄く希薄なんで、品 が良い演出によって生まれた物語が印象の薄いモノになってるんじゃない?
 でも日常生活の描写は魅力的だったし、ラストに「これがこの映画のテーマじゃ。有り難く拝聴せよ」なんてナレーションが響かないので、水準以上ではない でしょうかね。

 風景は魅力的、自然の風景はシスレーやターナーの絵画(ターナーは違うんじゃないの?)みたいに美しい。ここで描かれているスペインの農村風景って、ド イツの黒い森みたいな圧倒的な威圧感がなくて親しみ易く、日本人の琴線に触れる何かを持っていますね。同じ事はビクトル・エリセの作品にも言えるけど。
 え?…アンタ知ってる画家適当に出してるだけでしょってし、失礼な!そんな事は断じて……ウウその通りです。すみません。
パンちゃん(★★★★★)(2001年8月12日)
人間味あふれる老いた教師と子供の、世代を超えた交流、と書くと、「ニュー・シネマ・パラダイ ス」のような感じがするかもしれない。しかし、まったく違う。背景にスペインの内戦が絡んでいるといえばそれまでだが、人間の孤独というものに対するスペ イン人とイタリア人の感覚が違うのかもしれない。「みつばちのささやき」「エル・スール」(ともにビクトル・エリセ監督)でも感じたが、スペイン人の孤独 の感覚は強烈だ。子供が大人と同じように孤独に向き合う。そして、孤独と向き合っているということについて、大人がそれを当然のように見つめている点だ。
この映画では、たとえば人の死について教師と幼い子供が語り合うが、教師の「人には言ってはならぬ。これは秘密だ。あの世に地獄などない。人間の憎しみと 残酷さが地獄をつくるのだ」という発言など、スペイン以外のどの国でも、小学校へ入ったばかりの子供にはしないだろう。
ここでは人間は孤独、ひとりきりのものであり、そのことの不安から人は時には人を愛するのではなく、人を憎み、人に対して残酷にふるまうことがある、とい う絶望的な真実が語られている。
この対話は映画のラストシーンに深い陰影を与えている。
少年は両親を愛するばかりに教師を裏切る。自分の意志ではないが、大人にいわれるままに教師を裏切る。
この映画の感動は、そうした裏切りを描きながらも、同時に「愛」を切々と語るところにある。裏切りと愛が、少年のこころに同時に存在してしまうことをくっ きりと描いている点にある。
「さよなら」「ありがとう」というかわりに、少年は最後に、「蝶の舌」と叫ぶ。
先生に聞こえただろうか。
聞こえなかったと思う。
その孤独を、気持ちを伝えられなかった、同じこころが存在するのにそのことを共有できなかった孤独を、少年は抱きつづけて生きなければならない。
そうすることでしか先生のやさしさに近づけない。
この深い人間洞察力、そうした複雑な真理を少年に演じさせる監督の力量のすばらしさ。
さらには、スペインの田舎の自然の美しさ、特に土の色の美しさに感動した。 緑も水も美しかったが。