ヴィゴ

イングマル(8月15日)
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人生というのはとても皮肉なもので、豊かな才能に恵まれていても必ずしも幸せになれるわけではないし、逆に全く無能な人間でも楽しく生きられるということは往々にしてあります。
例えば、ティム・バートン監督が史上最低の映画監督にスポットを当てた「エド・ウッド」。全く才能はないけど、映画を愛しひたすら前向きに生きたエド・ウッド監督の姿は、少なくても映画を観る限りでは、僕の目にはとても幸せそうに映りました。
さて、話を「ヴィゴ」に移します。ただの偉人伝なら、うとましくて観る気も起きないのですが、この作品はラブ・ストーリーであり、天才監督の不遇な人生を描いた人間ドラマとして期待して観に行きました。そして期待に違わぬ作品でした。
豊かな才能に恵まれながらも、日の目を見ることなく29歳の若さでこの世を去った映画作家の単なる伝記映画ではありません。ジャン・ヴィゴという人物がどれほど映画を愛していたか、そして妻や両親とどのように関わって生きてきたか、つまり映画監督としてのジャン・ヴィゴより、一人の人間としての彼の生き方に主眼が置かれています。
ジャン・ヴィゴの人生には、常にアナーキストであった父の影が付きまといます。父の生き方は彼にとっての誇りでありながら、それこそが不遇の人生の元凶となってしまいます。
母親との反目、運命の女性リデュとの出会いと結婚生活、度重なる挫折、映画作家としてのプライドを深く傷付けられたまま29歳の若さでこの世を去るまでのジョン・ヴィゴの苦悩と歓喜が瑞々しく描かれています。
説明を最小限に留め、映像で多くを語っている点は大いに評価したいと思います。随所に映画ならでは表現が溢れています。橋の上で寄り添うジャンとリデュ、そしてアトランタ号のシルエットなんてとても映画的で美しい場面でした。そして何よりジャン・ヴィゴがいかに映画を愛していたかが言葉で説明されるのではなく映像から伝わってくる点が本当にすばらしいと思いました。
映画製作の場面は少なくて、ジャンの私生活が中心に描かれているのですが、欲を言えば撮影現場でのジャンの姿をもう少し見たかったし、家庭での場面で今一つ生活感が伝わってこないような気がしました。評価は★★★★で〜す。