モンスター


監督 パティ・ジェンキンス 出演 シャーリーズ・セロン、クリスティーナ・リッチ

panchan(★★★★)(2004年10月3日)

シャーリーズ・セロンの演技にみとれてしまう。
醜さがすごい。顔も体もことばも態度も醜い。スクリーンではなく街で出会ったら、おもわずよけてしまうだろうと思うくらい醜い。
しかし、その醜さの理由(?)がしだいしだいにわかっていって、こころが痛くなる。
チラシのコピーに「泣かないで、私の心」とあるけれど、いやあ、泣いてしまいます。しかし、涙が出るのではなく、こころがただただ痛くなる。

人間の可能性は、単にその人個人の能力では語ることができない。人にはやりたいことがあっても、それをさせない社会というものもある。主人公が最初につまずくのは、そういう社会の壁だ。誰もその壁を一緒には叩いてはくれない。
シャーリーズ・セロン演じる主人公の愛人さえ、一緒に行動しようとはしない。ただ自分の幸福、シャーリーズ・セロンに愛されて気ままに生きるということしか願わない。
そうしたなかで、人を愛し、憎み、しだいしだいに人間ではなく「モンスター」になっていく。

「モンスター」というのは、確かにあたっているだろう。どんなことがあっても踏み越えてはならない一線をシャーリーズ・セロン演じる主人公は踏み越えるのだから。
しかし、一歩踏み越えるごとに、こころが剥き出しになる。そして、そのこころが「泣かないで、泣かないで」と自分を励ましながら、シャーリーズ・セロンの肉体を動かしていることがわかってくる。
その切実さが、とても胸に痛い。



私が一番びっくりしたシーンは……。
シャリーズ・セロンが人を殺したあと、暗闇でたばこをふかす。その煙がスクリーンをはなれ、ふわっと劇場へ広がってくるようなシーンがある。
あ、今、シャーリーズ・セロン演じる主人公の「人間のこころ」が、今、肉体から離れたのだ、という感じがした。
彼女は「人間のこころ」を守るために、肉体から解放したのだ――残っているのは、傷ついて、苦しんでいるこころだけ。人間を絶望から救い出すこころ、夢みるこころを守るために、それを煙とともにはきだした、という印象が残る。
それほど、暗闇でひろがる煙はエネルギーに満ち、なまなましく、美しい。

これからあとは、現代の「キリスト」という感じ。
現代の人間の苦悩を彼女が全部背負っていく。怒ることも、間違うことも含めて。
彼女が苦悩を背負っていくので、他の人が救われる。
もちろん、救われる、救われたと感じるとき、そこにうしろめたさも残る。

そういうことも、この映画はきちんと描いている。
2004年の傑作のひとつであることは間違いないと思う。



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