プルーフ・オブ・マイ・ライフ





  
はせ(★★★★)2006年1月16日
 みずからが率先してそこに居合わせたが故に大きい意味を持つ過去、そして劇的に終わりを迎えてしまった過去……。「現在」というある意味不本意に投げ出 されてしまった時間のなかでグィネス・パルトロウは、そういう過去というものの意味を考えなければ、そして答えを出さなければならない。過去に対して納得 できる答えを出すことが、自己回復であり、現在の行動を大きく支えることになるならば。それにしても現在は、大きい靴音を立てて性急に迫ってくる。答えを せっついてくる。

 グィネス・パルトロウは、有名な数学者である父のアンソニー・ホプキンスと彼の死までの晩年の五年間をともに過ごした。彼女自身も数学専攻の学生であっ たが、父を尊敬する故の大学生活をなげうっての行動であった。父は正常と痴呆の間を行きつ戻りつしながらも、娘の支えもえて膨大なノートを残した。その中 の1冊が、数学界にとって画期的な価値を持つであろう研究論文であった。

 父の死の直後から、手のひらを返したように人々が集まってくる。父の研究を盗み出そうとするボーイフレンドのジェイク・ギレンホール、葬式の用意と父娘 が過ごした生家の処分を進言する姉、その他大勢……。それら「現在」の人々とそのあわただしい成り行きは、グィネス・パルトロウをいらだたせる。みすぼら しく穴蔵のようだった五年間ではあったが、父娘の濃密な情愛をはぐくんだ時間でもあった。物語は一冊のノートにまつわる秘密をめぐって展開するが。

 グィネス・パルトロウがたいへん魅力的だ。想いは頻繁に過去に舞い戻るが、それをまるごと引き継ぐことは不可能だ、それに何らかの断を下すことが、その 象徴である一冊のノートをみずからが十分納得できる形で世に送り出すことが、彼女の現在の出発を形成することになる。また、死んだ父との関係を「他者」の 眼からとらえ直すことにもなる。その際の「産みの苦しみ」を巧みに芝居している。自己陶酔と苦痛がないまざったというのか、見る者を十分に釘付けにする。 うつくしく、繊細だ。そういう彼女の「謎」にしか興味が向かないように映画はつくられているから、十二分に女優として期待に応えている。当然、物語の謎解 きも見せてくれるが、まるでそれが付け足しのようにしか感じられないほどだ。