遠いコンサート・ホールの彼方へ!
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ロータス・カルテット

2000年1月29日 カザルス・ホール 15時開演
曲目

ハイドン:弦楽四重奏曲第34番 ニ長調 作品20の4 Hob.III:34

バルトーク:弦楽四重奏曲第3番 Sz.85

三善晃:弦楽四重奏曲第3番「黒の星座」

細川俊夫:ランドスケープI(弦楽四重奏のための)

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番 へ短調作品95 「セリオーソ」

アンコール

シューベルト:D87よりスケルツォ

ヴェーベルン:五つの小品 op.5より第3曲


演奏

ロータス・カルテット

小林幸子(Vn)
茂木立真紀(vn)
山崎智子(Va)
斎藤千尋(vc)


さいたま芸劇によぶべし>諸井館長



初めに。三善とベートーヴェンで鼾をかいて寝ている御仁がいました。周囲の聴衆は何故起こさないのか不思議でなりません。こういったトラブルを避けたいという「事勿れ主義」がますますマナーの悪化を招くというのに。さすがにロータスSQはプロですから、演奏を途中で止めたりはしませんでしたが、私は立川談志師匠のようにそんな「奴」はつまみ出してもよいのではと思いました。くれぐれも寝るのが悪いのではなく「鼾」をかくという事実を知っていながら寝ることが問題なのです(それに休憩を挿んで2曲とも寝るくらないならば、そもそも他人に迷惑をかけに来ただけではないのか?)


ロータスSQについては、私は名前は知っているが聴いたことのない日本人の団体でした。

略歴

92年:結成
95年:シュトゥットガルト音楽芸術大学に入学、アマデウスSQやメロスSQにカルテットとして師事
97年:ロンドン国際弦楽四重奏コンクールでメニューイン特別賞受賞、ドイツBDI音楽コンクール弦楽四重奏曲部門で第1位

欧州で活躍中であり、テルデックと契約してモーツァルトの「プロシャ王セット第1番、第2番」をリリースしている。

ということで、私には全くもってどのくらい凄い団体なのか皆目見当がつきませんでしたが、上記のプログラミングは、ハイドン、ベートーヴェン、バルトークという弦楽四重奏曲の「王道」を一応含み、もっとも、ハイドンの作品は聴いたことがありませんでしたけど、さらには保守的な聴衆が殆どの日本で、さらに聴く人が少ない日本人作曲家の作品をあえて2曲含めた点に、並々ならぬ自信と意欲を感じました。また、1月26日に、上記2曲に加えて、矢代、西村の「光の波」、武満の「ランドスケープ」を含んだアルバム、

”LANDSCAPES”(テルデック、WAPCS-10426、国内盤先行発売)


をリリースしたので買い求めたのですが、これが大変素晴らしかった。ということで期待を膨らませて出かけましたが、これが期待以上に良かったのでした。

ハイドンは、一応ソナタ形式に向かっているんだろうなあ、と思って聴いていたのですが、どこか奇妙に回り道をしたり、ちょいと捻りを効かせたりして面白い作品で、これをつややかで濁りのない音で、全体的にヴァイオリン対チェロ・ヴィオラという対比が多いように聞えるこの作品を楽しませてくれました。

続くバルトークの3番ですが、いやあ「凄かった」という一言です。若干ながら、もうちと音圧が欲しいところもありましたが、正確なテクニック、切れ、スピード、迫力は当然ながら、バルトークの「歌」と作品自体の立体的な音響構造も知らしめる演奏でした、これを聴けただけでも来た甲斐がありました。

続く三善作品ですが、同じモチーフが変容されながら繰り返されてゆく5分程の作品で、解説によると大阪国際室内楽コンクールの課題曲となっているそうです。CDを聴いて出かけたのですが、そのまんまの正確な演奏でしたが、実演の方がやはり迫力が伴う上に、最後の音の余韻も美しい作品です。もっとも、上記の「鼾野郎」のおかげでコーダの美しさが台無しになってしまいましたが。

細川俊夫のランドスケープ。この13分程度が当日のプログラムのピークだったのではと思わせてくれました。家で聴くのと実演の差、美しい倍音やCDではカットされている高音域の成分の差と言えばそれまでですが、バルトーク以上に聴いている方が緊張させられるような、作品自体が静寂と研ぎ澄まされた音で構成されていて耳を傾けて聴くことを要求させることもありますが、一音たりとも聞き落すことが許されないような緊張感に満ち満ちた演奏でした。並大抵の弦楽四重奏団ではこの曲は演奏できません(そういえば、アルディッティSQの依頼作品でした)。

作曲家も来場して盛んに拍手を受けていましたが、舞台上に上がるのは固辞していました。

最後のセリオーソ。正直なところ「鼾野郎」が休符の静寂も緊張感も吹き飛ばしてくれましたし、この曲については多分別の方が書いてくれると思うので略します。ただ一言述べさせてもらえれば、フレッシュで飽きない、最近のSQ(のみならずオケやピアノ・ソナタも含めて)のベートーヴェン演奏の方向にあると思いました。


なお、盛んな拍手に応えて、まずシューベルトのD.87のスケルツォ楽章をアンコールで演奏。さらに拍手が続いたので、もう1曲演奏してくれました。私はCDもあるモーツァルトからかなあ、とか思いましたが、何と、


「ウェーベルンの五つの小品、作品5(の3曲目)からです」(一部の聴衆から軽い笑い)


いやあ、いいですこの団体。今度再来日する時も、日本の保守的な聴衆およびプロモータにめげずに古典から現代まで幅広いプログラミングでお願いしたいものです。


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